【巨匠たちの素顔、知ってほしい】「日本画家紹介漫画」の日本画家・河野沙也子さんに聞く

河野さんが制作した小冊子「日本画家小譚」

有名な日本画家たちの心温まるエピソードや、芸術に対する真摯な思い、意外な一面を紹介する漫画を次々に制作、展覧会でも作品と合わせて紹介されるなど、注目を集めている日本画家・河野沙也子さんにリモートでお話を伺いました。短編ながらも入念な取材と先人たちへの敬意と共感が感じられる作品の数々。同じジャンルのクリエイターならではの深い思いが、一コマ一コマに込められていました。(聞き手・読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

河野沙也子(かわの・さやこ)さん    日本画家。1996年、兵庫県生まれ。2019年、京都市立芸術大学美術学部日本画専攻卒業。2021年、同芸術大学修士課程美術研究科絵画専攻日本画修了。

学園祭でお披露目、手応え

Q そもそも、こうした漫画を描き始めたきっかけは何だったのでしょう。

A 2017年の秋、京都市立芸術大学の3回生の時、学園祭でZINE(ジン)として「日本画家小譚」という小冊子を物販したのが始まりです。岡本神草や土田麦僊らを取り上げました。日本画の先人たちの事を知ってほしい、と思ったからです。芸術大学とはいっても、専攻が違うと意外と日本画家の事を知らないのです。京都芸大OBで考えても、上村松園や小野竹喬など大変な顔ぶれなのですが、学内で話していると「誰それ?」みたいになることも多かったので(笑)。

Q 漫画は以前から描いていたのですか。

A 小さい頃は漫画家になりたくて、津田今日子さんに憧れていました。だんだん絵を描きたくなってこちらの道に進みましたが、今でも漫画は大好きです。

Q 反響はいかがでした。

A 幸い、先生方から「あれ読んだよ」と声を掛けられたり、学外でも話題にしてもらったり、とあちこちで良い反応をいただきました。4回生の時も橋本関雪、前田青邨、福田平八郎、徳岡神泉の4人を取り上げて第2弾を作りました。こちらも売り切れて評判はよかったです。

Q ご自身のツイッター(https://twitter.com/aaoaao5)でも発信を始めましたね。

A こちらはまだ3、4か月です。週一回ぐらいのペースで発信したいのですが、制作に時間がかかってしまい、思ったようにはなかなかいきません。

Q よくこんな細かいエピソードを知っているなあ、と驚かされることが多いのですが、どうやってネタを仕入れているのですか。

A 図書館にこもって調べます。昔の作家はエッセイを書いたり、美術団体の議事録などの記録が残ったりしていて、当事者による一次情報が豊富なのです。間違いがあってはいけないので、なるべく複数の資料にあたって情報の確度を上げるように努めています。

展覧会にも登場

Q 最近は、展覧会でも紹介されていますね。

A ツイッターがきっかけになるなどして、機会をいただいています。長野市の北野美術館(https://kitano-museum.or.jp/)で開催中の「足掻け!命ある限り~東西近代日本画家たちの挑戦~」展(9月26日まで)では、展示作品のキャプションとして、描き下ろしを加えて28作も掲示してもらいました。作品理解の一助になったら嬉しいです。

北野美術館で作品と合わせて掲示されている河野さんの漫画

Q 北野美術館のYou Tubeでも紹介されていますね。京都文化博物館(https://www.bunpaku.or.jp/)で開催中の「小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌」展(9月26日まで)では冊子として入場者に配られています。学芸員さんは「作家の人となりや歩みを分かりやすく紹介してくれた」と絶賛でした。

A 担当の学芸員さんが知り合いの方で、その縁で描くことになったのですが、恐縮です(笑)。

小早川秋聲展で配られている河野さんの漫画の小冊子(下は同展の図録)

巨匠の苦悩に深く共感

Q 漫画制作を通じて先人の歩みを知ることは、ご自身の制作とも深く関わってきますか。

A 大いにあります。土田麦僊は「写生をしていると大自然に引き込まれていくようだ」と話す一方で、親しい小野竹喬には「写生の時を思うとぞっとするほど嫌だ」と漏らすこともありました。私も写生はしたいし、しなければいけないけれど、モチーフと真正面から向き合うのは、自分の至らなさを痛感することでもあります。それを繰り返してやっと作品が完成するので、写生は嫌だなあ、と思うこともたびたびです。麦僊ほどの才能のある人でもそうだったのか、とその多面性に惹かれ、シンパシーを感じました。

自らも作品制作に打ち込む

河野沙也子《もう来ないみたい》2020年

Q ご自身の制作と別々の活動ではなく、漫画も一体のものなのですね。

A 巨匠たちも大変だったのだ、と励まされます。私は『存在の跡と肯定』というテーマで制作に取り組んでいます。人間に限らず動物、植物など命ある存在は必ずいなくなる時がきます。関わった自分はそのものが生きていたことを記憶しているのに、その存在がない、というあやふやさみたいなものに興味があります。忘れてしまう、とか記憶がなくなってしまう、といったマイナスの意味ではなく、自分もそのことを記憶していたいし、存在は確かにあったのだ、という事をテーマに描いていきたいと思っています。

河野沙也子《忘れないでよ》2021年

Q 今後も、制作と並行して日本画の先人たちを紹介することも続けていきたいですか。

A もちろんです。今の漫画の内容はややマニアックというか、日本画を知っている人にはおもしろいけど、そうでもない人にはちょっとピンと来ないかもしれないので、これから日本画を好きになってくれる人を増やすような作品も描いていきたいです。

(おわり)

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京都文化博物館の「小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌」展

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