【レビュー】2年半の休館を前に国宝や伊達家伝来の陣羽織、政宗自筆書状などを展示 仙台市博物館の常設展「奥羽再仕置430年記念 政宗と秀吉」

長期休館前としては最後となるが、充実した常設展が開かれている仙台市博物館

美術館や博物館の常設展示での企画。目立たなくても、学芸員の工夫や館を越えた連携などが行われていることもあります。仙台市博物館の場合は、建物の改修のため2年半という長期の休館とともに、コロナ禍で開始が遅れて、秋季の常設展は展示期間がわずか2週間に短縮されました。こうした状況は全国の美術館・博物館も例外ではないかもしれません。仙台市博物館に長く勤務し、仙台市史編さん室長などをつとめ、現在はフリーで地域の歴史を研究している菅野正道さんに、展示レビューを寄稿してもらいました。

旬の常設展2021秋 奥羽再仕置430年記念 政宗と秀吉 ほか
仙台市博物館(宮城県仙台市青葉区川内)
会期:2021914日(火)~930日(木)
開館時間:9:0016:45(入館は閉館の30分前まで)
観覧料:一般・大学生460円、高校生230円、小・中学生110
休館日:921日(火)
詳しくは仙台市博物館の公式サイト

2年半の長期休館を前に 国宝や有名な陣羽織も

実は仙台市博物館は大規模改修工事のために10月1日から2年半の間休館することが決まっています。そのため、伊達政宗に関するさまざまな資料や仙台藩に関する歴史資料を実際に見ることができる機会は今月下旬を逃すと2年半のブランクを余儀なくされます。
知る人ぞ知ることですが、仙台市博物館は特別展や企画展だけでなく常設展示にも熱心に取り組んでおり、年4回、四季に応じて常設展示スペースで展示されている資料・作品の大部分が展示替えされています。

仙台城関連の展示

今回は緊急事態宣言の影響で、秋の常設展示はわずか半月ほどの期間に短縮されてしまいました。しかし、しばらくは展示という形での研究発表ができないこと、来館者に資料を観覧してもらえないことへの学芸員たちのあふれる思いが爆発したように、興味深い資料、これまであまり取り上げられなかったテーマなど、大変に充実した展示が繰り広げられています。

もちろん、伊達政宗の具足、政宗が派遣した慶長遣欧使節けいちょうけんおうしせつに関係する支倉はせくら六右衛門やローマ教皇パウルス五世の肖像画(ユネスコ記憶遺産・国宝)、しばしば伊達文化を象徴する作品と評価される星をあしらった陣羽織なども、惜別の念を表するように、惜しげなく展示されています。

(右)慶長遣欧使節としてヨーロッパに派遣された支倉六右衛門の肖像画はヨーロッパで描かれた日本人の油絵肖像画として稀有な史料(左)ローマ教皇パウルス五世の肖像画。2点ともユネスコ記憶遺産・国宝
伊達家に伝来した陣羽織。以前は伊達政宗が着用し、水玉模様をあしらったものと言われてきた。しかし近年、学芸員らの研究により、散りばめられた丸い模様は星をデザインしたもので、製作年代も江戸時代中期であることが明らかにされた

史料の情報や寄贈が寄せられる地域の博物館

いくつも見所があるなかで、特筆したいのは、24点の伊達政宗文書を集めたコーナーです。政宗が緊迫する戦況を重臣に伝える自筆書状から、母や息子との心温まる関係を示す書状まで、内容も多岐にわたり、政宗の人物像を立体的に見せてくれます。

伊達政宗が18歳で伊達家の当主となる数ヶ月前の書状。政宗の花押は、有名な「セキレイの花押」とは異なる珍しい形態。近年原本が発見されて、仙台市博物館に寄贈された

重要なのは、このうち、この数年で新たに発見されたものや収蔵されたものが約半数に及んでいる点です。
仙台市博物館は、長年にわたって伊達政宗関連文書の調査・研究・収集を進め、その成果は展示や『仙台市史 資料編 伊達政宗文書』(全4巻)などに結実しています。そして、現在でも伊達政宗文書は次々に新しいものが見つかっていますが、そうした情報の多くが仙台市博物館に寄せられ、史料が寄贈・寄託されることも少なくありません。
それは仙台市博物館が伊達政宗に関連する分野を含めて、地域のミュージアムとして歴史・文化に関する研究や調査を怠らず、その果実を展示や普及活動として不断に継続し、それが評価されているためと言えるでしょう。

伊達政宗の文書を集めた展示室。今回の常設展の大きな見どころ

13のミュージアムが連携した「奥羽再仕置430年記念プロジェクト」

今回の常設展の一角で「奥羽再仕置しおき430年記念」展示が行われています。
奥羽再仕置とはなんでしょうか?
戦国時代に詳しい方はご存じかもしれませんが、少し説明をしておきましょう。
天正18年(1590)、小田原の北条氏を滅ぼした豊臣秀吉は、引き続いて東北地方の大名・領主に対する処分や再配置、そして豊臣政権の支配下に入ったということを示す諸政策を実施しました。これが「奥羽仕置」です。
この奥羽仕置に対して、地域の反発は大きく、各地で一揆が勃発しました。翌天正19年(1591)に一揆鎮圧のために豊臣政権は大軍を派遣。一揆を武力で平定するとともに、仕置をやりなおすという「奥羽再仕置」が行われました。

東北地方における近世の枠組みを作ったとも評価される「奥羽再仕置」から430年という節目の年にあたって「奥羽再仕置430年記念プロジェクト」が企画されました。
これは、仙台市博物館も含めて、関係する東北地方などのミュージアム13施設が連携して関連の展示をするという、画期的なプロジェクトです。(本文の最後に参加施設一覧を紹介しています)

(仙台市博物館提供)

伊達政宗と豊臣秀吉

戦国時代から江戸時代にかけて、東北地方最有力の大名であった伊達氏もこの奥羽再仕置によって大きな影響を受けました。伊達氏関連の史料を数多く所蔵する仙台市博物館もこのプロジェクトに参加し、常設展の一部で開催しているのが「奥羽再仕置430年記念 政宗と秀吉」です。
奥羽再仕置で、伊達政宗は米沢よねざわ城(山形県米沢市)から岩出山いわでやま城(宮城県大崎市)へ居城の移転を命じられ、また本領としていた地域の多くを没収されて新しい所領を与えられることになりました。
政宗にとって不本意なものであったに違いないこの仕置ですが、政宗とその子孫によって幕末まで続く仙台藩の枠組み(=宮城県全域と岩手県の南半、福島県の一部)が確定しました。結果的に奥羽再仕置は、後の仙台藩、さらには現在の仙台市や宮城県の基礎を形づくったという大きな意義を持っています。

政宗にとっての「奥羽再仕置」とはどのような経過をたどったのでしょうか?
近年重要文化財に指定された伊達家文書の中から、秀吉との対面の様子を国元に知らせた政宗自筆の書状、豊臣方武将の蒲生氏郷がもううじさとらと往復した文書、政宗宛ての豊臣秀吉朱印状など、館蔵の資料やパネル展示で、説明されていきます。

最近の城ブームで注目されそうなのが、岩出山城の絵図です。
政宗の新たな居城となった岩出山城は、再仕置の際に徳川家康が縄張なわばり(設計)・普請ふしん(工事)して政宗に引き渡したとされています。今回展示されているのは、現在確認されているものとしては最も古い時期のものと推定されている絵図です。
家康による縄張がどのようなものであったか、なぞ解きをするのも興味深いのではないでしょうか。

岩出山城は周囲よりも50mほど高い丘陵上に築かれた戦国時代以来の山城で、天守などの高層建築や石垣は築かれなかったが、長大な堀や大規模に拡張された城下町など近世城郭の要素を持っている。この絵図は、政宗の居城だった時期から約50年後の17世紀半ば頃の様子を描いたもので、政宗時代の様相がまだ多く残っていると推定されている

休館中も普及活動や情報発信を

今回の長期休館は、伊達政宗や仙台に関する多くの実物資料を、一般の人たちが目にする機会を大幅に少なくすることを意味します。しかし、それは仙台市博物館の停滞を意味するものではありません。
休館の間は、講座や各種の普及活動、WEBでの情報発信に力を注ぎ、また仙台で展開されているミュージアム連携事業「仙台・宮城ミュージアムアライアンス(SMMA)」や「仙台歴史ミュージアムネットワーク(歴ネット)」の参加館としての活動も継続されます。
そしてなにより、施設の改修は、博物館に収蔵されている多くの資料・作品を今後も長く適切な状態で保存し、未来へ伝えるために必要な措置でもあります。この休館を経た後、仙台市博物館がさらなるバージョンアップを遂げることを期待しています。

菅野正道 (かんのまさみち) 仙台市出身。元仙台市史編さん室長。現在はフリーで郷土の歴史を研究。主な著書に、今年5月に刊行された『伊達の国の物語 政宗からはじまる仙台藩二七〇年』(プレスアート)や『せんだい歴史の窓』(河北新報出版センター)など。

奥羽再仕置430年記念プロジェクト 参加ミュージアム
青森県 高岡の森弘前藩歴史館 八戸市博物館
岩手県 もりおか歴史文化館 花巻市博物館 えさし郷土文化館
宮城県 仙台市博物館 石巻市博物館
山形県 山形大学附属博物館 米沢市上杉博物館
福島県 福島県立博物館
栃木県 栃木県立博物館 大田原市那須与一伝承館
新潟県 新潟県立歴史博物館
各施設の展示内容や展示期間は関連リーフレット(PDF)
※プロジェクトには参加していないが大崎市有備館でもミニ企画展として「徳川家康がやって来た!! 岩出山に残る家康の足跡」が9月20日まで開催

 

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