【レビュー】平和を祈る魂の大作 「吉田堅治展」 千葉・鋸山美術館

晩年の大作「LA VIE」(2005年) 見るものを圧倒する迫力

展覧会名:鋸山美術館 特別展 吉田堅治展

会期:2021年7月3日(土)~11月27日(土)

会場:鋸山美術館(千葉県富津市金谷、JR内房線「浜金谷」駅より徒歩5分、東京湾フェリー「金谷」港より徒歩3分、館山道富津金谷ICから車で3分・国道127号線沿い)

開館時間:午前10時~午後5時(最終入館は閉館30分前まで)

休館日:火曜日(祝日の場合は翌日休館)

入館料:一般800円、中高生500円、小学生以下無料

鋸山美術館の公式ホームページ

海岸から指呼の距離にある鋸山美術館。交通の便もいい。

戦後、フランスを拠点に活躍、1993年には大英博物館で個展が開催されるなど欧州で高く評価された吉田堅治(1924~2009)。東京湾に面した景勝地、鋸山のふもとに位置する美術館で回顧展が開催されている。

大作がならぶ展示室

大阪生まれの吉田は池田師範学校(現・大阪教育大学)で美術を学ぶ。先の大戦の末期、志願して特攻隊員となるも終戦。その後、大阪や東京で教員をしながら絵の制作を続けた。そして40歳で一念発起してパリへ。スタンレー・ウィリアム・ヘイターの版画工房に入って凹版画の新技法を学ぶなど、貪欲に最先端のヨーロッパ文化を吸収していく。

渡仏前の1950年代から吉田は抽象画を描き始めていた。特に「黒」の表現にこだわり、「黒色はすべての色を吸収する。黒を知ることは自分を知ることになり、そこに無限の表現要素がある」と語っていたという。また、80年代からほとんど全ての作品を「La Vie(生命)」と名付けるように。83年に一時帰国し、日本の伝統を改めて強く意識するようにもなった。以後、金箔や銀箔で日本を表現していく。

さらに86年にはフランスでの苦しい暮らしを支えた妻・寛子が癌で死去。妻の死を受け止めるなかで、「生と死」を渾然一体のものと考えるようになった。1990年、メキシコの旅でマヤ文化に触れ、生命と宇宙の結合へと結実。様々な経験が積み重なり、その創作は充実期を迎える。大作が次々に作られた。

「LA VIE」1986年
「LA VIE」1995年
「LA VIE」1997年

欧州で評価が高まり、1993年には現存の日本人作家として初めて大英博物館で個展が開催された。当時の写真を見ても、その展示のスケールに驚く。日本の伝統と普遍的なフォルムが一体となった美しさに多くの人が魅せられた。

大英博物館で開催された個展の展示の様子(鋸山美術館提供)

特攻隊の経験から平和には徹底的にこだわった。イギリスのカンタベリー大聖堂など現地の枢要なキリスト教施設や、ユネスコ本部でも展示を行い、来場者に「戦争はいけない」と訴え続けた。晩年の大作は実にシンプルな造形だが、訴求する力はますます強く感じる。

「LA VIE」2005年
「LA VIE」2008年
生涯、「生命」と「平和」を問い続けた吉田堅治

鋸山美術館の鈴木裕士理事長は「作品の前で涙をこぼしたり、何時間も会場にいて作品と向かい合う方が珍しくない。魂に直接訴えかけるものがあるのでしょう」と話す。

広重も描いた鋸山は目の前。美術館からもよく見える。
東京フェリーの金谷港から対岸の久里浜までは約40分。ちょっとした船旅も楽しい。

鋸山美術館は車の場合、都心からアクアライン経由で1時間ほど。JR内房線の駅や東京湾フェリーの港も間近で、公共交通機関でも行きやすい。鋸山観光などと合わせてはいかが。

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

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