【レビュー】沖縄の風土、深くうがつ先に広がる豊穣の世界 「山城知佳子 リフレーミング」展 東京都写真美術館

《リフレーミング》2021年(新作)(c) Chikako Yamashiro Courtesy of Yumiko Chiba Associates


展覧会名:山城知佳子 リフレーミング

会期:2021年8月17日(火)~10月10日(日)

会場:東京都写真美術館(東京・恵比寿ガーデンプレイス内、JR・東京メトロ恵比寿駅から徒歩)

開館時間:10:00-18:00(入館は閉館の30分前まで)

休館日:毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)

観覧料:一般700円、学生560円、中高生・65歳以上350円

照明を落とした空間に、想像力を刺激する映像と音の世界が広がる

映像や写真を主なメディアとして、生まれ育った沖縄をモチーフに精力的に活動、国内外で高く評価される山城知佳子(1976~)の個展。初公開となる最新作に、過去の代表作を組み合わせて有機的に展示し、見る者の心をつかんで離さない空間を形作っている。

山城知佳子(写真:鷹野 隆大)

注目の《リフレーミング》は今年の新作。33分に及ぶ大作のインスタレーションで、3面の大画面と小さな1つの画面が同時に使われる。映像はループ再生され、どこか始まりでどこが終わりともつかない神話的な構造を持っており、描かれる世界も鑑賞者の解釈に広く開かれている。「リフレーミング」とは、ものごとを見ている枠組みを変え、別の枠組みで見直すことを指している。

《リフレーミング》2021年(新作)(c) Chikako Yamashiro Courtesy of Yumiko Chiba Associates
《リフレーミング》2021年(新作)(c) Chikako Yamashiro Courtesy of Yumiko Chiba Associates
《リフレーミング》2021年(新作)(c) Chikako Yamashiro Courtesy of Yumiko Chiba Associates

廃藩置県で首里城を追われる琉球王府の士族、緑豊かな山林を破壊して土砂が運び出される採掘現場、原因不明の発育不全となるサンゴ、ボクシングの「防御」ばかり練習する若者など、沖縄の過去と現在を暗喩する断片的なモチーフがちりばめられる。一方で激しく踊り村民を惑わせ、かつ活気づける作業員、「天舟(てぃんぶに)」という救世主を思わせる存在の登場を待ちわびる男、自然の意味ありげな鳴動など、未来に向けた胎動も感じられる。沖縄の風土や歴史に深く根ざした寓話的、呪術的、時事的な表現がベースにあるのだが、狭い地域性にとどまることなく、過去と現在、自然と人間など、「リフレーミング」しながら世界の今と繋がる大きな問題意識を見る人に投げかけてくる。巧みな画面構成と音響も相まって、不思議と目が離せない魅力に満ちている。

《土の人》2016年 作家蔵(c) Chikako Yamashiro Courtesy of Yumiko Chiba Associates

沖縄だけでなく、韓国の済州島でも撮影した《土の人》は鮮烈。3つのスクリーンで映像が展開され、土にまみれて横たわる人々が強い印象を残す。日本語、ウチナー口(沖縄の言葉)、韓国語の詩が流れる。「記憶/声の継承」というテーマに取り組んで作家が、それぞれの土地に紡がれてきた記憶を「土」という要素で繋ぎ、普遍化した。ボイス・パーカッション、クラッピング・ミュージックによる音響も「肉声」とビートを感じさせて素晴らしい。

《BORDER》2002年 作家蔵(c) Chikako Yamashiro Courtesy of Yumiko Chiba Associates
《あなたの声は私の喉を通った》2009年東京都写真美術館蔵(c) Chikako Yamashiro Courtesy of Yumiko Chiba Associates

作家本人が出演する作品も注目。10年以上前に制作された《あなたの声は私の喉を通った》は今もって痛切だ。戦争体験の継承をテーマにしてきた山城が、絞り出すように自身の戦争体験を伝える他者の語りを、繰り返し自らの声でなぞっていく。他者の究極的な経験を理解することの可能性、あるいは難しさが私たちに突きつけられる。

いずれの作品も一見、難解だが、画面の構成の力強さや音響の迫力などで有無を言わさぬ魅力にあふれる。沖縄という強い磁場を持つ風土を踏まえつつ、それをも突き抜ける作品にぜひ触れてほしい。

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

山城知佳子:映像作家、美術家。1976年那覇市生まれ。1999年沖縄県立芸術大学美術工芸学部美術学科絵画専攻(油画)卒業。2002年沖縄県立芸術大学大学院造形芸術研究科環境造形専攻修了。2019年より東京芸術大学美術学部先端芸術表現科准教授。近年の主な展覧会に「話しているのは誰?現代美術に潜む文学」(2019年/国立新美術館)、「済州4・3事件70周年祈念 ポストトラウマ」(2018年/済州道立美術館、韓国)、「第8回アジア・パシフィック・トリエンナーレ」(2015年/クイーンズランド州立美術館、オーストラリア)などがある。

「第31回(2020年度)タカシマヤ文化基金タカシマヤ美術賞」(2021年)、「Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)2020-2022」(2020年)、「Asia Pacific Breweries Foundation Signature Art Prize 2018」大賞ノミネート(シンガポール美術館)、「第64回オーバーハウゼン国際短編映画祭ゾンタ賞」(2018年)、「Asian Art Award 2017 supported by TERRADA」(2017年)などを受賞。

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