角野さんの魅力に導かれる音楽、そして映像 「カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし」 テーマ作曲の藤倉大さんに聞く 「北斎のオペラ」にも意欲

作曲家の藤倉大さん(c)Seiji_Okumiya

8月26日(木)夜にEテレで第2回の放送がある「カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし」。「魔女の宅急便」や「小さなおばけシリーズ」で知られる角野さんの魅惑的な人柄やその作品、色彩あふれる暮らしぶりを紹介して話題です。その番組のイメージを強く印象づける音楽を作ったのが、現代音楽の作曲家として世界的に活躍する藤倉大さん。ロンドンの自宅とリモートでつないでインタビューしました。映像と音楽、角野さんの魅力が紡ぎだす番組という名のクリエイション。その不思議とマジックを垣間見る楽しいお話です。(聞き手:読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

演奏、録音、調整・・2時間で完成

Q 藤倉さんは、昨年11月に放送された「カラフルな魔女の物語~角野栄子85歳の鎌倉暮らし」以来、音楽を担当しています。オペラやオーケストラ曲で知られる藤倉さんが、なぜテレビドキュメンタリーのテーマ音楽という仕事に取り組んだのでしょう。

A 番組の宮川麻里奈プロデューサーが2018年に東京で行われた自作のコンサートを聴きに来てくれて、知り合いになりました。その宮川プロデューサーから去年、「角野栄子さんのドキュメンタリーを作るのですが、そのテーマ音楽をお願いするって、無理ですよね?」という遠慮がちなメールが届きました。現在、9歳になる娘がいるのでジブリの「魔女の宅急便」はもちろん知っており、その原作者の方なのか、と俄然興味がわきました。電子書籍で角野さんの著作などを読むとイメージがどんどん膨らみ、メールが来た当日か翌日には2時間ぐらいで1曲、完成してしまいました。

《YouTubeでは昨年11月放送の「カラフルな魔女の物語~角野栄子85歳の鎌倉暮らし」のテーマを聴ける。画面の絵は藤倉さんの娘さんの手描き》

Q まだ正式な依頼の前に完成してしまったわけですね。

A ロンドンの自宅で自分で楽器を演奏し、録音して、調整もしていわゆる「完パケ」の状態で東京にデータを送りました。宮川プロデューサーはびっくりしつつ喜んでくれました。さらに「もう少し軽快な曲も作ってもらえますか」と依頼され、30分ぐらいでもうひとつ作りました。まだ撮影はおろか、台本もできていない企画の段階で、先にテーマ曲が出来上がってしまう、という不思議な展開でした。

抽象的な音楽だから、共有できるイメージ

Q 宮川プロデューサーは「聴いた瞬間に物語、ファンタジーの入り口という感じがして、この世界観だ!」と思ったそうです。この曲をカメラマンやディレクター、編集さんたちスタッフに聴かせると、「ああ、こういう番組なのね」と即座にイメージを共有できたと。「大半のテレビ番組は映像が出来上がってから、音響効果さんに既存の音楽を付けてもらうのですが、この番組は逆で、藤倉さんの音楽に引っ張られるように作りました」と宮川プロデューサーは振り返っていました。

A 音楽は抽象的なものですよね。だから共有できるのでしょう。あの黒澤明監督が映画製作の何か月も前に、スタッフを集めてベートーベンなどを聴いて、「今度の映画はこういうイメージなんだ」などと説明したと聞いたことがあります。自分の音楽をベートーベンになぞらえるわけではないですが、それと似たようなことかもしれません。抽象的だからむしろ認識がずれないのです。

キュートなファッション、考え抜かれた言葉、作品世界の深み。それら角野さんの世界観が新しい音楽や映像を導き出していく

古いピアノ、フライパン・・角野さんのイメージ

Q 今回の2回のシリーズでは3曲を新たに書き下ろしました。

A 角野さんの作品に寄せた内容になる、ということだったので、電子書籍で作品をいくつも読みました。戦時中を描いた作品『トンネルの森』が印象的で、前回よりリリカルで哀愁を帯びたイメージになりました。バイオリンのような艶のある音ではなくて、どこにでもあるような、誰も弾かないけどそこにある、というような壊れかけたアップライトピアノか、トイピアノの感じです。少し前に、原爆犠牲者が残したアップライトピアノで演奏する曲を書く(※1)という別の作品を書いていた影響もあったのかもしれません。

「おばけのアッチ」も印象的で、太っているのでお腹をつついたら「ポヨン」というフライパンを叩いたような音がしそうだなあ、とイメージして。今回も自由に作らせてもらいましたが、自分勝手に創作するのではなく、角野さんの世界観に沿って考えていきました。角野さんにお会いしたことはないですが、ふだんの話し言葉や、作品の言葉が美しいです。そのまま台本になりそう。映像ができる前なので却ってやりやすかったです。オペラの作曲と一緒で、言葉から音楽を紡ぐ、というのがむしろ自然です。

《今回の番組で藤倉さんが書き下ろした3曲のうちの1曲、「見えないものをみるメガネ」。こちらも演奏、録音、調整をすべてひとりで手掛けた》

北斎のオペラ化に意欲

Q 美術ファンも注目しそうなプロジェクトを温めているそうですね。

A 葛飾北斎の一生をオペラにしたいと考えています。これまで3曲のオペラを書いたのですが、外国が舞台だったり、SF小説が原作だったりで、日本を舞台にしたものを作ったことがないので。北斎は世界的に非常に著名な存在です。が、その人となりについて詳しい同時代の文献がそこまで残っているわけではないのですが、できる限り分かっていることや場面を元に、音楽的な想像をして創作できる、という面も魅力的です。

昨今、映像や舞台芸術のジャンルでは、白人ではない役を白人が演じる「ホワイトウォッシング」が問題になっていますよね。黒人やアジア人の役をそれぞれ黒人やアジア人が演じるのはよいことだと思います。北斎をオペラにしたいのはそういう問題意識もあります。

Q 21世紀の「蝶々夫人」(※2)になったらいいですね。舞台でぜひ拝見したいです。

A オペラではアジア人の役がまだまだ限られるので、北斎のオペラが繰り返し上演されて、アジア人の歌手のブレークスルーになるような作品を作れたらいいな、と夢想しています。

(おわり)

「カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし 見えないものを見るメガネ」はEテレで8月26日(木)午後10時55分~午後11時20分の放送。番組ホームページはこちら。紹介記事はこちら

ロンドン在住の藤倉さん。「コロナ禍でこちらも大変ですが、なんでもユーモアにして乗り切ってしまおうとするイギリス人の気質にびっくりしたり、助けられたり、の日々です」(c) Alf Solbakken

藤倉 大  (ふじくら・だい、作曲家)

1977年大阪に生まれ、15歳で渡英。数々の作曲賞を受賞。ザルツブルク音楽祭、ルツェルン音楽祭、BBCプロムス、バンベルク響、シカゴ響、シモン・ボリバル響等から作曲を依頼され、共同委嘱は多数。2014年に名古屋フィルハーモニー交響楽団の、17年にイル・ド・フランス国立管弦楽団のコンポーザー・イン・レジデンスに就任。シャンゼリゼ劇場、ローザンヌ歌劇場、リール歌劇場の共同委嘱によるオペラ《ソラリス》を15年にシャンゼリゼ劇場で世界初演、18年にアウグスブルク劇場で新演出上演され、高い評価を得た。17年に革新的な作曲家に贈られるヴェネツィア・ビエンナーレ音楽部門銀獅子賞を受賞。また同年から東京芸術劇場で開催している世界中の“新しい音”が集まる音楽祭「ボンクリ・フェス」の芸術監督を務めている。20年は、マルタ・アルゲリッチに献呈されたピアノ協奏曲第4番《Akiko’s Piano》や、新国立劇場(東京)委嘱による3作目のオペラ《アルマゲドンの夢》の世界初演が大成功を収めた。
https://www.daifujikura.com/

(※1)昨年8月、広島で初演されたピアノ協奏曲第4番《Akiko’s Piano》のこと。19歳で広島の原爆に命を奪われた河本明子さんが生前、愛用していたピアノが偶然に近い形で発見され、関係者の尽力で演奏可能な状態に再生された。広島交響楽団から委嘱を受けた藤倉さんが、この楽器を実際に使用する楽曲を書き下ろした。

(※2)イタリアの作曲家、プッチーニが作曲し、1904年に初演された屈指の人気オペラ。主役の蝶々さん(ソプラノ)は長崎の芸者。

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)


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