【レビュー】 「昭和の広重」詩情あふれる新版画  特別展「川瀬巴水 版画で旅する日本の風景」 大田区立郷土博物館(東京・大田区)で開催中

《五月雨ふる山王 東京十二題》  大正8(1919)年  大田区立郷土博物館蔵(以下すべて同館蔵)   山王とは赤坂日枝神社のことで、関東大震災前と後に作品を制作しているが、震災後の「山王之雨後」が明るい赤で描かれているのに対し、震災前のこの作品は落ち着いた赤色が使われている。

東京や日本各地の風景を題材に、詩情あふれる作品を制作し「昭和の広重」「旅情詩人」と呼ばれた川瀬巴水の作品を展示した展覧会が、大田区立郷土博物館で開かれている。

 

特別展「川瀬巴水 版画で旅する日本の風景」
大田区立郷土博物館(東京・大田区南馬込 都営地下鉄浅草線「西馬込」下車、東口か西口から徒歩約7分)
会期:2021年7月17日(土)~9月20日(月・祝)
前期 東京の風景編 7月17日(土)~8月15日(日)
後期 旅先の風景編 8月19日(木)~9月20日(月・祝)
休館日 月曜日(8月9日、9月20日は開館)
開館時間 午前9時~午後5時
入館料 無料
詳しくは同館ホームページ
《深川上の橋 東京十二題》 大正9(1920)年

川瀬巴水(本名:川瀬文治郎、18831957)は大正7(1918)年から新版画の制作に携わり、生涯で600点を超える作品を残した。衰退した浮世絵版画を復興しようと、版元・渡邊庄三郎とともに新版画制作に取り組んだ。故郷の東京や日本各地を旅する中で出会った風景を詩情豊かに表現し、数多く催される版画展の中でも最も人気の高い一人。海外での評価が高く葛飾北斎や歌川広重らと並び称される。今回の展示では前期に東京の風景と人物・静物画を、後期は旅先の風景を、写生帖とともに合わせて約400点を展示する。

《浜町河岸 双作版画会》 大正14(1925)年8月

『東京十二題』は名所を選ぶのではなく、興のおもむくままに描いたという。静かな日常の風景が巴水の親しんだ東京で、特に水辺の風景を好んだという。日枝神社の前を行くのも庶民であり、深川も夕暮れの何気ない風景だ。双作版画会は美人画の伊東深水と組んだ企画で、大正12(1923)年の震災後に大きく変わっていく東京の姿を残そうとしたもの。

《芝増上寺 東京二十景》 大正14(1925)年

 

右《浅草観音の雪晴 東京二十景》 大正15(1926)年 左《大根河岸の朝 東京二十景》 昭和2(1927)年

『東京二十景』では東京の各所が描かれている。震災後の近代化の進む東京で、大衆には江戸情緒の残る作品が好まれたという。作品とともには写生帖も展示されており、作品と見比べるのも面白い。巴水は常に写生帖を持ち歩き、現存するだけでも80冊を超えるという。

《池上 市之倉(夕陽) 東京二十景》 昭和3(1928)年   (上)濃摺版 (下)薄摺版

《桔梗門 東京二十景》 昭和4(1929)年   (右) 角雲版  (左)丸雲版

市之倉は現在の大田区中央の一部で、当時はのどかな田園風景から徐々に宅地へと姿を変えつつあった。「巴水ブルー」と呼ばれる藍色とその中の夕陽が美しい。摺の濃淡の違いも面白い。《桔梗門》は同じ構図で雲の形だけが異なる。

右《清澄園之雪》 昭和13(1938)年  左《歌舞伎座》 昭和26(1951)年

巴水は肉筆画も描いている。第2会場では美人画や人形画、静物画などを展示している。御所人形を描いた『巴水人形画集』は絹本に筆で描いた作品と、それを基に制作した木版画を並べる。描かれた人形の大きさや衣装の色が異なることや、肉筆画と木版画の質感の違いが分かる。

右上《御所人形》 肉筆画 昭和9(1934)年 右下 同 木版画 昭和10(1935)年
左上《泥人形》 肉筆画 昭和9(1934)年  左下 同 木版画 昭和10(1935)年
右《御人形 子供十二題》 昭和6(1931)年   左《手まり 子供十二題》 同年

近所に住んでいた子を描いたという作品。子供が好きだったという巴水の人柄がにじみ出ている。

以下、後期展示の作品を紹介する。

観光用ポスター「Japan」昭和7(1932)年 鉄道省国際観光局が発行した観光ポスターのために木版画《雪の宮嶋》を制作した。
《小樽之波止場》昭和8(1933)年

《西伊豆 木負》 昭和12(1937)年
《平泉金色堂》 昭和32(1957)年

 

(読売新聞事業局美術展ナビ編集班・秋山公哉)

 

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