【レビュー】驚きの連続 「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ」 東京ステーションギャラリー(東京駅丸の内北口)で開催中

(手前) 《全身を耳にして》 2002年3月31日 鶴雅リゾート株式会社   後ろ脚で立ち上がり、音に神経を集中する熊。実際の大きさで表現されている。堂々たる体躯に細かい毛彫りが施され、大胆な造形と繊細な仕上げが同居している。

旺盛な生命力を表し躍動する姿と同時に、思わず触りたくなる柔らかな毛並みの熊。深いニュアンスを籠めた表情の人間。アイヌ民族の木彫りの技を受け継ぎ、大胆さと繊細さ、力強さと優しさという相反する要素を表現した北海道の木彫家・藤戸竹喜(ふじとたけき)の全貌を紹介する展覧会が開かれている。

「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ」 

東京ステーションギャラリー(東京駅丸の内北口)

会  期   7月17日(土)~9月26日(日)

開館時間   午前10時~午後6時、金曜日は午後8時まで(入館は閉館の30分前まで)

休館日    7月19日、8月10日、同16日、同23日、9月6日、同13日

入館料    一般1200円ほか 中学生以下無料

日時指定の予約制だが、チケットに余裕がある場合は当日券も購入可能。

詳しくは同ギャラリー

《怒り熊》 1964年5月28日 (一財)前田一歩園財団   木彫り熊には4本の足を大地につけた這い熊や吼え熊、鮭をくわえた熊、親子熊など定番のポーズがある。左の前脚を上げ、吼える怒り熊は藤戸が昭和30年代に創案したオリジナル。

藤戸(19342018)は北海道美幌町で生まれ、旭川市で育った。木彫り熊の名手として知られた父の元で12歳頃から熊彫りを習い、阿寒湖畔に移り住んで才能を開花させていく。1本の木から彫り出した熊や動物の姿は生きているかのように躍動し、生命力を漲らせている。その一方で細密な毛彫りは、硬い木に彫られたものであることを忘れさせるような柔らかさを生み出している。藤戸の初期から最晩年までの代表作80点余りを展示している。

《樹霊観音像》1969年6月 正徳寺

34歳の時、依頼されて観音像を彫る。熊以外彫ったことのなかった藤戸は関西に1週間滞在し、仏像を見続けたという。藤戸は制作にあたり一切スケッチや下書きをしない。頭の中で像ができると、一気呵成に彫る。この時も1週間仏像を見続けてその姿を目に焼き付けたのだろう。ほとんどの造形作家が設計図や模型を作る中で、作品を前にしてその手法と能力に驚くばかりだ。藤戸は観音像制作を契機に作品の幅を大きく広げる。

(手前) 《菊地儀之助とタケ》 1970年8月 個人蔵   モデルは父方の祖母タケとその夫で美幌野崎コタンのエカシ(長老)だった菊地儀之助。生後すぐに母親を失った藤戸は幼少の頃、タケに育てられた。
(手前) 《秋アジ漁 日川善次郎》 1970年9月 個人蔵   日川善次郎は屈斜路湖畔のアイヌコタンのエカシ(長老)で、道内各地に出かけてカムイノミ(神への祈り)を行った。
《鹿を襲う狼》1978年1月25日 個人蔵

2頭の狼が鹿を襲う姿で、鹿が後ろ脚を大きく跳ね上げた瞬間。鹿は2本の細い前脚だけで支えられている。1本の木から下絵もなしに、こんな複雑で微妙なバランスの作品を彫り出すとは信じられないほどだ。藤戸は「じっと木を見ていると、中から姿が出てくる」「手で彫る分には間違いはしない」と言ったという。益々、信じられない思いだ。

(左)《熊狩・構える》 (右)《熊狩・コタンへ》 ともに1980年10月 個人蔵    モデルは曽祖父で熊撃ちの名手だったというヤイタンキ。《熊狩・コタンへ》の膝下まで埋もれた脚は積雪を表している。
(左から)《川上コヌサ像》1993年8月22日  《杉村フサ像》同年2月6日  《日川善次郎像》1991年12月18日 すべて個人蔵   川上コヌサは父方の曽祖父で藤戸の父はコヌサから木彫りを教わったという。旭川の近文コタンのエカシだった。杉村フサの母親はアイヌ民族の口承文芸や伝統工芸、アイヌ語などアイヌ文化の伝承者としれ知られ、フサも跡を継いで活躍した。

1990年代初頭、アイヌ民族の先人たちの肖像を、等身大の木彫りとして制作している。何かする訳でもなくただ立っている姿なのだが、表情は色々な感情をにじませ、全体として何とも言えない威厳に満ちた雰囲気を漂わせている。

(右)《シュモクザメ》 (左)《ジンベイザメ》ともに1993年 個人蔵

肖像制作と同時期、海の生物も数多く作っている。サメの躰を流れる木目が美しい。また、エビやカニの作品は藤戸には珍しくパーツごとに彫って組み合わせている。細工職人としても一流だと分かる。ワラジエビ表面の質感など、どうやって出したのか不思議だ。

(手前から)《ワラジエビ》1997年4月30日  《サワガニ》1995年9月7日  《ヤシガニ》同年8月31日 《ロブスター》同年8月15日  すべて個人蔵

最後のコーナーは「狼と少年の物語」。2017年に札幌芸術の森美術館で初の大規模な藤戸の回顧展が開かれるに先立って、制作された連作。藤戸が長く温めて来た構想で、川で両親とはぐれ狼に助けられ育てられたアイヌ民族の少年が、狼とともに成長していく姿を表している。

(右)《狼と少年の物語》 2017年5月5日 個人蔵   アイヌの子を助けた母狼は、自分の子と同じように体を舐め、乳を与えた。
《同》 同年3月11日 個人蔵    年老いた母狼が死んだ。17歳になった少年は亡きがらを川に流して弔った。

美術界とは縁のない生活で、美術展などに出展することなど無かった藤戸竹喜は、北海道以外の美術関係者にはほとんど知られることがなかった。今回は東京では初の展覧会となる。いわゆる熊の彫り物とはまったく違う藤戸の作品は、初めて見る者には驚きの連続となるだろう。

 

 

(読売新聞事業局美術展ナビ編集班・秋山公哉)

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