【レビュー】 色合いもぼかしも鮮やか 開館55周年記念特別展「山種美術館所蔵 浮世絵・江戸絵画名品選-写楽・北斎から琳派まで-」開催中

山種美術館が所蔵する奥村政信「踊り一人立」、鈴木春信「梅の枝折り」といった初期の浮世絵から、葛飾北斎の「赤富士」、歌川広重の「東海道五拾三次」など六大浮世絵師の名品、伊藤若冲や酒井抱一、鈴木其一をはじめとする江戸絵画諸派の優品などが一堂に会する。特に浮世絵は保存状態が良く鮮やかな色合いが残る。技法やそれぞれの派などの説明も興味深い。
開館55周年記念特別展
「山種美術館所蔵 浮世絵・江戸絵画名品選-写楽・北斎から琳派まで-」
山種美術館(東京・広尾)
会 期 7月3日(土)~8月29日(日) 会期中展示替えあり
前期7月3日~8月1日 後期8月3日~8月29日
開館時間 午前10時~午後4時 土・日・祝日は午前10時~午後5時
(いずれも入館は閉館時間の30分前まで)
※会期も含め今後の状況により変更することも
休館日 月曜日(8月9日は開館、8月10日は閉館)
入館料 一般1300円ほか 中学生以下無料(付添の同伴者が必要)
JR恵比寿駅西口・地下鉄日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
詳しくは同館ホームページへ
初期の浮世絵 政信 春信


初期の浮世絵は紅絵と呼ばれ、まだ色を摺り重ねる技術が無いため墨で摺った後に一枚ずつ筆で彩色していた。鉱物質の赤から植物性の透明感のある紅を使った紅絵になり、優美さを増していく。奥村政信は紅絵時代に活躍した絵師。やがて1700年代半ば過ぎに多くの色を用いた錦絵が誕生。刷り色を増やしたり、摺り重ねたりすることで自在な色彩表現が可能になる。鈴木春信の「梅の枝折り」は侍女と思われる女の肩に乗る振袖を着た娘という珍しい構図で、世界でも数点しか残っていない作品。色も鮮やかだ。
歌川広重

広重は生涯に約20種もの東海道シリーズを描いている。その中でも「保永堂版」がもっとも優れた出来と言われる。今回展示されているのは画帖に仕立てられていた一揃いで、元々すべてが揃っている例は少ない中で、題字を記した扉も付いた貴重なもの。初摺りの特徴を持つ図も多く含まれる。どれも鮮やかな色合いが目を引く。初摺りと後摺りの違いを説明したパネルも分かりやすい。




近江八景は中国・洞庭湖周辺の景勝地を詩に詠んだ瀟湘八景になぞらえて、琵琶湖南岸の景勝地を和歌にしたもの。このシリーズは水墨画風の画趣をねらったもので、落ち着いた色調を見せている。《唐崎夜雨》では拭きぼかしという手法を使っている。

江戸絵画
17世紀、京都では公家や裕福な町衆を中心に古典復興の機運が高まり、やまと絵を独創的な感覚で翻案した俵屋宗達から「琳派」へと繋がっていく。室町時代から続く狩野派は江戸を中心に御用絵師となって体制を固める。18世紀になると中国趣味に根ざした文人画が盛んになり田能村竹田、谷文晁らが活躍する。さらに18世紀後半以降は円山・四条派が京都で隆盛を誇り、伊藤若冲のような異才も登場する。琳派を中心にこれら江戸絵画の質の高い作品が数多く並び、見応えがある。






後期には奥村政信《初代市川門之助の頼光と初代袖崎三輪野の花園姫》、東洲斎写楽《二代目嵐龍蔵の金貸石部金吉》、歌川広重《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》、《東海道五拾三次 袋井・出茶屋之図以降》などが展示される。
次回展覧会予定
開館55周年記念特別展「-師弟による超絶技巧の競演-速水御舟と吉田善彦」
9月9日(木)―11月7日(日)
(読売新聞事業局美術展ナビ編集班・秋山公哉)