「ファッション イン ジャパン」展を語る それぞれの人生と交錯する展示品の妙 読売新聞編集委員・宮智泉

1980年代のDCブランドブームを作ったデザイナーたちの作品

「美術展ナビ」では、国立新美術館で開催中の「ファッション  イン  ジャパン」展の魅力を各界の方に伺っています。今回はファッション取材の経験豊富な読売新聞編集委員、宮智泉(みやち・いずみ)さんです。

おもちゃ箱を思わせる楽しさ

戦後日本のファッション史をたどる「ファッション  イン  ジャパン」は、おもちゃ箱の中をのぞくような楽しさがある。

そう思わせるのは、820点にも及ぶ展示品だ。展覧会を担当した同美術館の本橋弥生主任研究員によると、「異例の多さ」だという。

ファッション担当記者として数多くの服飾展を見てきたが、ほかの服飾展とは大きく異なる。服だけでなく、雑誌や写真、ポスターや映像など、情報を媒介するメディアが数多く展示されており、これらの要素から、服を取り巻く日本社会の変化が浮かび上がる。

暮しの手帖社の前進、衣裳研究所の「スタイルブック」(1946年)

おしゃれへの渇望

太平洋戦争中の国民服やモンペを見た後、戦後次々に創刊されたファッション雑誌のほか、中原淳一のパッチワーク着物やスカートで思わず立ち止まった。今見ても、かわいい。伝わってくるのは、おしゃれへの渇望感やエネルギーだ。

中原淳一のパッチワークスカート

戦後の復興とともに、「着る」から「装う」へ、そして「作る」から「買う」へと移り変わっていく様子が見えてくる。

「ファッションデザイナー」の存在が目立ち始めるのは、1970年代。主張の強い個性的なデザインを次々に発表。80年代のDCブランドブームは、デザインする側も着る側もパワフルだ。

フィッチェ(小西良幸)の作品

消費者が中心に

そして、90年代以降は、消費者がファッションやトレンドを生み出す中心的な存在になっていく。街行く人たちのおしゃれな姿を撮影したストリートスナップの雑誌「FRUiTS」も大人気に。消費者の自由な発想による着こなしは、世界から注目を集め、欧米のデザイナーの着想源にまでなっていく。

流行をリードした「FRUiTS」

ほかにも、ツッパリ男子学生が着ていたボンタンズボンの変形学生服や、女子中高生の間で大ブームとなったルーズソックスが展示されているように、「モード」の発信者としてのデザイナーだけでなく、受け手と思われていた消費者の感性で広まっていった、社会風俗的な視点も含まれている点が面白い。

「気づいたら4時間」

「気が付いたら4時間も見ていた」という人の声を聞いた。来場者の滞留時間は全体的に長いようだ。それぞれの人生と展示品が交差する瞬間があり、様々な記憶がよみがえるからかもしれない。

インターネットで検索すれば何でも見ることができる時代だからこそ、実物からしか伝わらない迫力や質感がある。

同展は昨年開催される予定だったが、コロナ禍で延期をせざるをえなかった。「文化」としての日本のファッションを、世界からやってくる人たちにも見てほしいと思った。

宮智泉(みやち・いずみ) 東京都出身。1985年、国際基督教大学卒業後、読売新聞社に入社。主に家族問題や働く女性、ファッションや食などのテーマを担当。ミラノやパリなど海外コレクションを取材してきたほか、デザイナーのインタビュー多数。生活部長、編集局次長経て、2018年から現職の読売新聞編集委員。著書に「服を作るーモードを超えて」(中央公論新社)。「ファッション  イン  ジャパン」展の会場で上映されているスペシャルドキュメンタリー「現代ファッションの証言」でも、ジャーナリストとして出演している。

直前の記事

【開幕】旧朝香宮邸の様式美と、斬新な展示で楽しむ 「ルネ・ラリック リミックス」展 東京都庭園美術館

19世紀末から20世紀半ばにかけて、ジュエリー作家、ガラス工芸家として比類ない作品を残したルネ・ラリック(1860-1945)。アール・デコ様式で知られる旧朝香宮邸の庭園美術館を舞台に、彼の豊かなインスピレーションの源泉

続きを読む
新着情報一覧へ戻る