【レビュー】淳之の生きものに寄せる暖かなまなざし 松園の新発見作品や下絵も 「上村淳之米寿記念Ⅱ 上村松園・松篁・淳之 三代展 ―鳥たちに魅せられて―」 松伯美術館(奈良)

展覧会名:上村淳之米寿記念Ⅱ 上村松園・松篁・淳之 三代展 -鳥たちに魅せられて―
会期:2021年5月15日(土)~7月25日(日)
会場:松伯美術館(奈良市登美ヶ丘、近鉄奈良線「学園前駅」からバス約5分、「大渕橋(松伯美術館前)」下車)
休館日:月曜日
開館時間:10時~17時(入館は16時まで)
入館料:大人(高校生・大学生含む)820円、小・中学生410円

日本画家、上村淳之(1933~)が米寿を迎えることを記念して、淳之作品を中心に父・上村松篁(1902~2001)、祖母・上村松園(1875~1949)の三代の名品を紹介している。Ⅰ期目の「日本画の行方」に続き、Ⅱ期目の今展では花鳥画をメインに据え、約70点を紹介している。

鳥への愛情、ひしひしと 淳之氏
祖母、父の薫陶をうけ、その制作活動は70年に及ぶ淳之氏。とりわけ鳥を愛し、日々アトリエで実際に育て、繁殖までするという。その観察眼と愛情が作品からも強く感じられる。

20歳代の初期の作品は濃厚な味わい。油絵を思わせるマチエールが印象的。



近作になるにつれ、シンプルな構図や彩色の中で、繊細な美を追求する姿勢が明確に。背景の微妙なタッチなど見どころは多い。正確な描写をしつつ、どこか可愛らしく、優しげな鳥たちの面持ちや眼差しがずっと印象に残る。
練達の花鳥画 松篁氏



現代花鳥画の最高峰と言われる松篁氏。やはり鳥を愛し、身近で育てていた。海外に取材した華やかな作品、水墨画を思わせる表現など、さすがの自在ぶりに感嘆する。
新発見作品、下絵と尽きぬ興味 松園氏
松園氏の美人画も楽しめる。

最近、発見されたという「むしの音」。見るものをはっとさせる目線とポーズ、そして構図。同美術館の大村美玲学芸員は「こうしたポーズの作品は類例があります。来歴はよく分からないのですが、素晴らしい作品です」という。比類ない美人画の巨匠だが、知られていない作品がまだまだあるのだろうか。
さらにファンが何といっても見逃せないのが松園氏の下絵を紹介した小コーナー。同美術館では8月7日(土)から「下絵と素描に見る上村松園―珠玉の絵画を求めて」を開催する。同館の豊富な収蔵品から縮図帖、下絵、古画研究などを紹介し、松園藝術の思索をたどる内容だ。
これは京都市京セラ美術館で7月17日(土)に始まる大規模展「上村松園」に合わせた企画で、「京セラ美術館で本画、こちらで下絵などを見て、理解を深めていただこう、という狙いです」と大村学芸員。現在、展示されている下絵はその前触れという位置づけだ。名高い「母子」(1934年)の下絵もある。


耳のあたりが決まらず、紙を貼り付けて書き直した跡がある。大村学芸員は「後期の作品になるとこうした張り紙が少なくなり、大作の下絵でも一気に書き上げている様子が分かります。熟達ぶりがうかがえます」という。制作過程や年代を追った変化などを知ることができる貴重な資料で、本画と見比べることで興味が深まることは間違いなさそう。今から二つの美術館を「ハシゴ」をするのが楽しみになってくる。
道具や、眼鏡なども展示してあり、松園氏を身近に感じられる。三代の事績をたっぷり楽しめる催しだ。
(読売新聞東京本社事業局美術展ナビ編集班 岡部匡志)