失った時間を乗り越え続けた日本のファッション「ファッション イン ジャパン」展リポート

国立新美術館(東京・六本木)で開催中の「ファッション イン ジャパン 1945-2020 流行と社会」。1972年生まれ、SNS黎明期からのインフルエンサーで読者モデルとしても活躍していたKyah(田中秀宗)さんが会場を訪れ、展覧会リポートを寄稿してもらった。
長く続くコロナ禍は、多くの人々のファッションに対する意識を変えた。BIGLOBEの調査によれば、「外見を美しく保つこと」に対する重要度が4割強も減少したという。自分自身も毎日履いていた革靴の出番が激減し、ドレッシーな装いよりもゆとりのあるスタイルへとシフトが進んでいる。
このまま、ファッションに対する関心は薄れていってしまうのか? 戦後の日本のファッション史をたどる「ファッション イン ジャパン」展を訪れ、アフターコロナのファッションについて、可能性を探ってみた。
コロナ禍でファッションへの逆風
外出自粛やリモートワークの浸透は、人々からコミュニケーションの機会を奪い、ファッションに対する関心までをも削ぎ落としてしまった。また、どんなにお洒落をしたとしても、マスクの存在がネックとなってしまう。更には自粛という言葉が、楽しく生きることすら否定するかのような息苦しい空気をうみだし、ファッションに逆風の時代が続いている。
戦後のファッションの熱量の高さ

「ファッション イン ジャパン」展でまず驚いたのは、戦後の女性たちのファッションに対する熱量の高さだ。着飾ることを我慢していた女性たちは、物資がない中でも自らの手で洋服を作り着飾る喜びを取り戻していったのだという。
戦後のデザインなんて古臭いんじゃないかという先入観があったのだが、戦時中の国民服とのコントラストもあって、みずみずしく新鮮な印象。展示からはこの頃のムーブメントの熱波すら伝わってきてパワーを分けてもらえた。


バブル時代とコギャルの引力

本展示の中で、異彩を放っていたのが「バブル」と「コギャル」。どちらも底抜けに明るくて、自信に満ちている。
時代を追ってファッションの流れを見ていると、過去の似たようなものが時を越えて再構築されている印象を受けるのだが、「バブル」と「コギャル」は前後に似たものがなく突き抜けている。
SNSという自己主張の場が少なかった時代ゆえに、”オレを見てくれ”、”私に注目して”という欲求がピュアでストレート。ゆえに、今の我々の感覚からみるとどこかムズムズする恥ずかしさを覚えてしまう一方で、無視することができない引力を感じてしまうのだ。

ネットの情報洪水でファッションの多様化が進み、SNSの浸透により自己表現の機会は格段に増えた。にもかかわらず、他人からの評価を常に気にするライフスタイルにより、ファッションも冒険をすることが減り、制御しながら自己主張を続けるという時代がしばらくは続いていくように感じる。
印象的だった戦前のモダンガール

展覧会を一通り回り終えて、思い返して非常に印象に残った展示が冒頭にあった。
言葉だけは聞いたことのあった「モダンガール」だ。この絵を見ていると90年近く前のものではなく、“先週”の表参道を見ているような感覚に陥る。
最先端のファッションに身を包んだ女性が二人。一人は凝ったデザインの日傘をさし、一人は好奇心のおもむくままカメラを向ける。洋装が入ってきた頃の女子は、今のインスタグラマーたちと同じようなマインドだったのだろう。
こうして数十年のファッションの歴史を見ていると、やはり女性たちのパワー、着る側の女性たちの“集合力”が時代の突破力を持っているように感じる。
アフターコロナのファッションの爆発力
ファッションだけでなく、旅行や飲み会、会食にデート。様々な欲求が抑えつけられてきたこの1年半。人生を華やかに謳歌するはずだった若い女性たちもまた、多くの犠牲を払ってきた。
だが、戦後のファッションでのリバウンドにみられたように、コロナ後の女性たちのファッションは、時代の動きが大きく反映されるはずだ。そのスピードはSNSにより圧倒的な加速度をもち、我々が感じている閉塞感を一気に吹き飛ばしてくれるのではないだろうか。
Kyah(田中秀宗)
1972年12月12日生まれ、東京都出身。黎明期からのインフルエンサー。2004年から続くブログ「漢(オトコ)の粋」の著者であり、食や旅、ファッションなど質の高いライススタイル情報発信が幅広い世代から支持を受けている。
ファッション誌のライターや、ブロガーとしてイギリス大使館やイタリア大使館の現地ファッション取材を行ってきたほか、アンティークウオッチコレクターとして専門誌で数多くとりあげられてきたファッショニスタ。
*会場の写真は、読売新聞デジタルコンテンツ部撮影。
「ファッション イン ジャパン」展の詳細は、展覧会の公式サイトへ。
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◇内覧会の様子を伝える美術展ナビのツイート
あす9日に国立新美術館(六本木)で開幕する #ファッションインジャパン展 の内覧会に伺いました。ドン小西さんやコシノジュンコさんが姿を見せ華やかです pic.twitter.com/u9Ad43zEDr
— 美術展ナビ (@art_ex_japan) June 8, 2021
国立新美術館で開催中の #ファッションインジャパン展
世界に「Kawaii」を発信してきたデザイナーの津森千里さんは、自身の作品の前で「日本の経済とファッションは比例している」などと話していました pic.twitter.com/CAz0v12zVD— 美術展ナビ (@art_ex_japan) June 10, 2021