【プレビュー】 三井記念美術館コレクション名品展「自然が彩る かたちとこころ-絵画・茶道具・調度品・能装束など-」 三井記念美術館(東京・日本橋)で7月10日開幕

雪の煌めき、水の流れ、風の音、雲の動き、草花や樹木の表情……。「自然」が彩る「かたち」や「こころ」を美術作品がどう表現したか。館蔵の名品を通して「自然のすがた」を見ていく展覧会。同美術館はこの展覧会終了後、リニューアル工事のため2022年4月下旬(予定)まで休館する。
三井記念美術館コレクション名品展
「自然が彩る かたちとこころ-絵画・茶道具・調度品・能装束など-」
三井記念美術館(東京・日本橋)
会 期 7月10日(土)~8月22日(日)
開館時間 午前11時~午後4時(入館は午後3時30分まで)
入場者が多い場合は入場制限も
休館日 月曜日(8月9日は開館)
入館料 一般1300円ほか
メトロ銀座線「三越前」駅A7出口徒歩1分、同半蔵門線「三越前」駅徒歩3分A7出口徒歩1分、同銀座線・東西線「日本橋」駅B9出口徒歩4分
詳しくは同美術館ホームページへ
理想化された自然

人はしばしば画中の理想化された自然と向き合うことで、心の平穏を見出そうとしてきた。そうした絵画や調度品の中に求めた「理想的な自然の姿」を見る。「日月松鶴図屏風」は金地の背景や、大きく描かれた鶴や松が吉祥性を強調する。同時に右から左へと春から秋の草花が小さく描かれ、一双の屏風の中に四季の推移が表現されている。
自然物の造形化

造形芸術では迫真性が追及されるが、ここでは超絶技巧と評される近代の精巧な牙彫・金属工芸を中心に実物そっくりに表現された作品が並ぶ。安藤緑山によって生み出された牙彫は、巧みな彫技と忠実に再現された彩色により、驚くほどの質感に仕上げられている。「昆虫・魚写生図」からは正確な対象把握に努めた円山応挙の姿勢が読み取れる。

素材を活かして自然を表す

画家は対象を描く時、求める表現にあわせて紙や絹などの下地にも趣向をこらす。応挙の「雪松図屏風」の雪の白さは、塗り残した地の紙の色で表現されている。絵の描かれた紙の裏に白色度の強い和紙が貼られ、地色の白さが損なわれないよう工夫されている。酒井抱一の「秋草に兎図襖」では、数センチ幅の板を貼り合わせた木目の斜線で強風を表現している。
自然をデフォルメ

作品の一部分を大胆に強調するデフォルメは、装飾性を高めるだけでなく、一つの空間に立体感や奥行きをもたらす役目を担っている。柴田是真の「青海波塗皿」は櫛ベらを使い、幾重にも重なる激しい波の動きを表現している。波の表情は皿ごとに異なる。「紅白萌黄段扇面秋草観世水模様唐織」には、渦を巻くような水の流れを文様化した観世水(かんぜみず)が表されている。観世水の名称は能楽の観世家に由来しているという。

銘を通して自然を愛でる

「銘」には景色や形状から連想されるもの、和歌や漢詩、作者・所有者にまるわる事柄など、多くの由来がある。自然に関連する銘が付けられた茶碗の景色に見える「自然のすがた」や、銘に込められた人々の感性を探る。「黒楽茶碗 銘雨雲」は、筋状になった黒い釉薬と暗褐色の素地がつくる景色が黒い雲間から降る雨筋のように見える。「志野茶碗 銘卯花墻(がき)」は釉薬の下に描かれた垣根のような格子状の文様が見所で、銘はこの景色を垣根に咲く白い卯の花に見立てた。

(読売新聞事業局美術展ナビ編集班・秋山公哉)