【レビュー】「中国書画は難解」ではなかった! ポップでかわいい「揚州八怪」展(大阪市立美術館)を楽しもう

18世紀の中国・清の時代、経済都市として発展していた長江下流の都市・揚州で、独創性にあふれた作品を残した書画家たち「揚州八怪」の傑作を集めた展覧会が、大阪市立美術館で6月22日から開かれている。

 

特別展「揚州八怪」

会期:2021年6月22日(土)~8月15日(日)
※前期 6月22日~7月11日/後期 7月13日~8月15日で展示替えあり

休館日:月曜日(ただし8月9日は開館)

開館時間:午前9時30分-午後5時(入館は午後4時30分まで)

会場:大阪市立美術館〔天王寺公園内〕

「揚州八怪」といっても、妖怪でも怪物でもない。同時代に揚州で活躍した優れた書画家たちのことを指す。「三大○○」「神セブン」などと同じようなくくり方といえるだろうか。

「『怪傑』など、人より優れたという意味で『怪』という言葉を使っています」と話すのは、同館の森橋なつみ学芸員だ。

「なるほど、優れた8人の書画家ということですね」
「そうなのですが、実際には15人いたとされます」
「???」
「今回は、そのうち12人の作品を並べています」

会場に一歩入ると、そこはまるで中国。細かく描き込まれた風景画、色鮮やかな静物画や伸びやかな書など、揚州八怪が活躍した前後の時代、近現代の中国の個性あふれる作品が出迎えてくれた。

ポップでかわいい金農の書

八怪の代表とも言えるのが、金農。刷毛で書いたかのような太い横画に、細く鋭い払いを組み合わせた黒々とした独特の字体は、「漆書(しっしょ)」と呼ばれる。仏教経典を抜粋した「隷書大智度論句(れいしょだいちどろんのく)」は、現代のグラフィティアートにも通じるポップな字体で、中身はわからなくても見ているだけでわくわくする。

金農「隷書大智度論句」清・乾隆九年(1744)個人蔵

白楽天ら9人の老人の故事を記した「楷書九老図記」も、レトロ感あふれる、どこかかわいらしさが。芸術的な書を「かわいい」と表現してもいいのだろうかと不安になるが、森橋さんが「字体を自由に味わっていただくのも書の楽しみ方です」と教えてくれた。

金農「楷書九老図記」清・18世紀 東京国立博物館蔵

個性的な3人の「おじさん」

釣った魚を手にした老漁師を描いた黄慎「仙子漁者図」。

黄慎「仙子漁者図軸」清・18世紀 大阪市立美術館蔵

仙人のような風貌(ふうぼう)のこの漁師。絵に書かれた文によると、釣った魚を売って酒を買い、酔ったら草の間で寝るという自由な生活を楽しんでいるというから、うらやましい。飄々としたおじいさんの顔とのびのびとした自由な書体がマッチして、独特のゆるい世界が広がっている。

「こういう厳しそうな顔のおじさん、いるな」と思わず共感してしまうほどに写実的も描かれた、羅聘(らへい)の「袁枚(えんばい)像」。

羅聘「袁枚像」清・乾隆四十六年(1781)以前 京都国立博物館蔵 【前期展示】

菊の花を持った袁枚は詩人。食通としても名高く、女性教育の振興にも貢献した人物なのだという。この絵が本人に似てないと家族が嫌がるので、捨てられないように羅聘に託したというエピソードも聞くと、いかめしいおじさんがなんだか優しげに見えてくる。

同じく羅聘の「浄名(じょうみょう)居士像」は、釈迦の弟子の維摩(ゆいま)を描いたもの。つい人物の柔らかな表情に目がいきがちだが、もたれかかる脇息(きょうそく)の木の細やかすぎる描写が、どこか不気味。立ち止まって、じっくり観察いただきたい。

羅聘「浄名居士像軸」(部分)清・18世紀 澄懐堂美術館蔵

病と闘いながら創作に励んだ書画家

高鳳翰(こうほうかん)は、関節リウマチのため55歳の時に右手を使えなくなり、左手で制作を始めたという。今回の展覧会では、利き腕の右手で描いた緻密(ちみつ)な絵と、左手のみで描いた、どこかおおらかさを感じさせる書が並べて展示されている。見比べると、書画家の気迫や生きざまが伝わってくるようだ。

左手で書かれた作品。高鳳翰「草書老樵詩」清・乾隆三年(1738) 東京国立博物館蔵

揚州八怪の書画家らは、専業の画家というよりは芸術をたしなんだ学者や元高級官僚らが多く、職場での罷免や追放、病気など、さまざまな人生の苦しみを芸術へと昇華させていったとされる。

会場には、揚州八怪の影響を受けた次世代画家の作品も並ぶ。出口直前に掲げられた斉白石(せいはくせき)の「紅蓮游漁(ぐれんゆうぎょ)図」は、水中から高く伸びる蓮と、根元でおよぐ小魚を描く。漫画のように突き出た表情が何とも愛らしい。最後まで見逃せない。

斉白石「紅蓮游漁図」20世紀 京都国立博物館蔵【前期展示】
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森橋学芸員は「大阪市立美術館では半世紀ぶりとなる揚州八怪の展覧会です。多くの方にはなじみのない画家集団で、難しいと思われてしまうかもしれませんが、現代の私たちもかわいらしさを感じられるような作品も多いので、ぜひ多くの方に楽しんでいただきたい」と話していた。

会場には、新型コロナウイルスの影響で届かなかった上海美術館の作品がパネルで展示されているが、国内から集められた作品だけでも、見応えはたっぷり。展示されている作品は実に多彩で、自分のお気に入りの一枚を探してみるのも楽しそうだ。

公式サイトはこちら
https://yoshu8.com/index.html

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(読売新聞大阪本社事業本部 美術展ナビ編集班 沢野未来)