【レビュー】戦争の逆境にも歩みを止めなかった前衛画家たち 「さまよえる絵筆」展 京都文化博物館

小牧源太郎《生誕譜No.1》1938(昭和13)年 板橋区立美術館

展覧会名:さまよえる絵筆―東京・京都 戦時下の前衛画家たち

会期:2021年6月5日(土)~7月25日(日)

  (前期6月5日~6月27日、後期6月29日~7月25日)

会場:京都文化博物館(京都市中京区三条高倉、地下鉄「烏丸御池」駅下車徒歩約3分、阪急「烏丸」駅下車徒歩約7分、京阪「三条」駅下車徒歩約15分)

開館時間:10:00~19:30(入場は19:00まで)

休館日:月曜日

入場料:一般500円、大学生400円

先の大戦のさなか、東京や京都を拠点とする前衛画家たちが厳しい時代状況の中、新しい表現を求めて「古典」や「伝統」などに足場を置き、様々なチャレンジを続けた歩みを紹介する展覧会だ。軍部による言論や表現の統制強化の下であっても、粘り強く芸術の可能性を模索した先人の姿は、ぜひ記憶にとどめたい。構成と主な作品を紹介する。

第1章 西洋古典絵画への関心

1939年、日本におけるシュルレアリスムを牽引した福沢一郎(1898-1992)を中心に、前衛団体の「美術文化協会」が結成された。彼らは一方でルネサンスなどの古典芸術からもモチーフを借りて、戦時下の日本の社会状況を浮き彫りにするような作品を試みる。福沢はその後、共産主義の関係を疑われて治安維持法違反の容疑で逮捕(1941年)。シュルレアリスムの弾圧として知られる事件で、このこともまた、相反するはずの「前衛」と「古典」の共存に拍車をかけた。

小川原脩「ヴィナス」 1939(昭和14)年 板橋区立美術館

福沢の元に通っていた小川原脩、吉井忠らシュルレアリストの影響を受けた作家たちも、1940年ごろから次第に西洋古典絵画に関心を寄せるようになったという。

第2章 新人画会とそれぞれのリアリズム

1943(昭和18)年に、靉光、麻生三郎、糸園和三郎、井上長三郎、大野五郎、鶴岡政男、寺田政明、松本竣介の8人で結成されたグループ。3回開いた展覧会では静物画、人物画、風景画などが出品され、戦争を題材とした作品がもてはやされる時局にあって、異色な内容だった。

松本竣介「顔(自画像)」1940(昭和15)年 個人
靉光「静物(雉)」1941(昭和16)年 東京都現代美術館

時代を超えた力強さと説得力があり、引き込まれる。戦時下にあえてこうした題材を選んだ彼らの心境を思う。応召された靉光は戦後まもなく惜しくも大陸で病没する。

第3章 古代芸術への憧憬

1937年に結成された「自由美術家協会」に参加した画家たちの作品を紹介する。作風は様々だが、画家たちの間には「古典」や「古代」へのあこがれが共通のテーマとしてあった。日本の社会全体が国粋的になっていく状況の中で、彼らは古代ギリシアや日本古来の仏像、埴輪など、さらに基底なものに美を見出していったようだ。

難波田龍起「ヴィナスと少年」1936(昭和11)年 板橋区立美術館
難波田龍起「埴輪」 板橋区立美術館

第4章 京都の「伝統」と「前衛」

京都の前衛を牽引した北脇昇(1901-1951)と、独自の思想で自己の絵画世界を探求した小牧源太郎(1906-1989)を中心に、当時の京都のアーティストたちの取り組みを振り返る。官憲による言論統制が強まる中、彼らが模索した表現の形は実にユニークだった。

北脇昇「竜安寺石庭測図」1939(昭和14)年 東京国立近代美術館
北脇昇「竜安寺石庭ベクトル構造」1941(昭和16)年 東京国立近代美術館
小牧源太郎「壁画(十一面観音像)」1943(昭和18)年 京都市美術館

俳諧の連句を思わせる共同制作も行われた。1937(昭和12)年の共同制作「浦島物語」は、ストーリーの各場面を割り振られた14人のアーティストが、与えらえた「命題」を作品化した。

吉加江清(京司)「浦島亀を救う(憧憬)」 京都市美術館
北脇昇「海上へ(好奇)」 京都市美術館

ずらりと並んだ様は壮観だ。「混乱する時勢の中で、北脇らは世界の構造を捉えよう、普遍的なものを探求しよう、と没頭した」と同美術館の清水智世学芸員はみる。

一方、小牧源太郎の作品群のコーナーもひときわ異彩を放つ。「小牧は人間や社会の深層に潜む非合理社会を探求し続けた」(清水学芸員)。戦時下でも飽くなき挑戦を続けた彼らには敬服するばかりだ。

第5章 「地方」の発見

戦中、たびたび東北地方をめぐった吉井忠(1908-1999)の膨大な記録の一部を紹介する。1941年9月から44年10月まで故郷の福島はじめ、岩手、青森、秋田、山形、宮城と精力的に各地を取材した。福沢一郎の逮捕などを契機に、前衛画家たちは今までとは違う表現の形を見つけることを迫られた。吉井の場合、東北の風土や人々、その暮らしが新しいモチーフになっった。その移動距離といい、メモやスケッチなどの記録の量といい、戦時中ということを考えると気が遠くなるほどの作業だ。その情熱に圧倒される。

吉井忠「南会津山村報告記」1942(昭和17)年 個人
吉井忠「山村の形態」1941(昭和16)年 個人

表現の自由が大きく制限される中で、拠り所を求めてもがいたアーティストたちの姿には胸を打たれるものがある。戦時下でも前衛芸術の火は消えることなく、彼ら培ったものが戦後アートの礎になったことは、本展に登場した錚々たる顔ぶれを見れば言うまでもない。

いつであっても何ら制約を受けない芸術表現はありえず、現代もコロナ禍で数多くの表現者が厳しい条件下で制作を続けている。そういった意味でも普遍性のあるテーマともいえる。振り返られることの少ない時代とジャンルを追った価値ある展覧会だけに、多くの方に見てほしいと思う。同展について詳しくは同美術館ホームページへ。

(読売新聞東京本社事業局美術展ナビ編集班 岡部匡志)

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