【レビュー】「シブい工芸 たばこ盆」 超絶技巧な工芸と「好き」がつまったデザイン

朱漆塗たばこ盆

展覧会名:「シブい工芸 たばこ盆~地味な立ち位置・たしかな仕事~」
会期:2021年6月1日(火)~7月4日(日)
会場:たばこと塩の博物館(東京都墨田区横川1-16-3、とうきょうスカイツリー駅から徒歩8分)
入館料:大人・大学生100円ほか

現代では歌舞伎の舞台や時代劇くらいでしか見ることがない「たばこ盆」。
「たばこ盆」という言葉も聞き慣れないが、きせる(煙管)でたばこを吸うための一式だ。とくに定型があるわけではなく、現代に当てはめると、箱に入ったたばこ・ライター・灰皿をまとめて置く小さな家具になる。
日本にたばこが伝来したのは、16世紀後半ごろと考えられている。その後、庶民から大名まで、江戸時代の人たちにとって、きせるを使った喫煙に欠かせない「たばこ盆」は生活必需品となった。

「冨嶽三⼗六景 東海道吉⽥」葛飾北斎 天保2年(1831)頃 ⼤判錦絵

いつも手元に置き、リラックスするための手段だからこそ、個人個人の好みが反映されたのだろう。今展に並ぶ「たばこ盆」は、実に多種多様。ほとんどが制作者も分からないが、木工、漆芸、彫金など当時の職人たちの技が集約されている。

朝顔蒔絵螺鈿⼿付きたばこ盆

江戸時代の終わりに、紙巻きたばこが流入し、きせるでの喫煙に取って代わると、「たばこ盆」もマッチやライター、灰皿などに姿を変えていった。今はほとんど見ることがなくなった、そんな「たばこ盆」を、たばこと塩の博物館は700点以上所蔵している。その中から、日用的なものから、大名家に伝わった高級品まで約80点を展示する。

目を見張る高い工芸の技術

「たばこ盆」は日用品のため、だれが使っていたのか分からないものが多い。この「牡丹蒔絵手付きたばこ盆」は、持ち主がわかる貴重な品。
紀州徳川家14代藩主夫人で、伏見宮家の王女倫宮が、紀州徳川家に嫁いだ際の嫁入り道具。このたばこ盆は倫宮の没後、娘の久子に引き継がれたことが記録されている。
特に注目したいのは、上部の三方を囲む銀製の御簾みすだ。高い技術にため息がでる。

一方、持ち主が不明ながら、質の高さから、良家が所有していたかもしれないと推定されるのが「葵蒔絵手付きたばこ盆」。細かい装飾が目を引くが、こちらの囲いは布で、実に涼しげだ。

個性的なデザイン

「たばこ盆」は決まった形がなく、自由な造形の作品が多い。「夕顔蟋蟀こおろぎ蒔絵たばこ盆」は、全体は夕顔の実と大きな葉。そこに虫食いの穴があき、穴からコオロギが顔を出すというユーモラスなデザインだ。
本体の裏には、蒔絵師の柳沢一抱いっぽうの銘があり、作者が分かる珍しい「たばこ盆」。

一見するとシンプルなデザインの「おけ形たばこ盆」は、ただの桶ではない。実は、竹や桑、黒檀こくたんなど様々な素材の板を寄せたもの。

それぞれの「たばこ盆」には、こだわりのポイントがあるようで、持ち主の好みを想像してみるのも面白い。

「たばこ盆」で江戸文化を知る

たばこ盆の構成と名称(*「きせる掛け」は便宜上の名称)
「邸内遊楽図」(17世紀中期、紙本着色)

江戸時代の人は、どこにたばこをしまい、どうやって火を付け、灰はどこに落としたのか。「たばこ盆」は現在の生活では触れる機会がほとんどない。その構造や歴史を知っておくと、歌舞伎や時代小説など江戸文化をより楽しむことができるだろう。
(読売新聞デジタルコンテンツ部 岡本公樹)

たばこと塩の博物館のホームページはこちら

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