【レビュー】 美しく飾られた紙に込めた想い 企画展「彩られた紙-料紙装飾の世界-」展 大倉集古館(東京・港区)で6月1日再開

「平家納経(模本)妙法華経 提婆達多品第十二」大正~昭和・20世紀  平家が厳島神社に納めた「平家納経」の模本。紙の色に合わせて字の色も変えている。

文字や絵をより美しく見せるために加工し彩られた紙の数々。湿らせて叩くことで滑らかにした「打紙」、版木に絵の具を付けず凹線だけで模様を出す「空摺り」、色紙に金銀を蒔いて装飾した紙…。人々の願いや美意識が反映された各時代の料紙装飾から、そこに託された祈りや夢、美の移り変わりを探る。

 

企画展「彩られた紙 -料紙装飾の世界- 」展

大倉集古館(東京・港区) 

会  期  4月6日(火)~6月6日(日)

開館時間  午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)

休館日   月曜日 5月3日(月・祝)は開館 5月6日(木)休館

入館料 一般1000円ほか 中学生以下無料

 

※休館、入館制限など詳しくは同館ホームページ

担当学芸員によるギャラリートーク

6月1日(火)午後2時から

参加費無料。ただし「彩られた紙」展の入場券が必要。予約不要。

地下鉄南北線・六本木一丁目駅中央改札口より徒歩5分、同日比谷線・神谷町駅より徒歩7分 、同銀座線・溜池山王駅か虎ノ門駅より徒歩10

 

料紙とは一般に書に用いる紙のこと。展覧会では奈良時代の荘厳な写経である「賢愚経(大聖武)」や王朝貴族の栄華を伝える「古今和歌集序」、「貫之集下(石山切)」、江戸絵画として再評価されつつある大津絵、「平家納経」の料紙を精巧に再現した田中親美の模本などを、マイクロスコープの拡大画像とともに紹介している。詳細な説明付いており、先人たちの美しい紙製作にかける熱意がひしひしと伝わって来る。

聖武天皇の筆と伝わる特別な紙

「賢愚経断簡(大聖武)」 奈良時代・8世紀 特種東海製紙株式会社蔵

正面から入って右、最初に出てくるのは奈良時代の「賢愚経断簡(大聖武)」だ。賢愚経とは賢者と愚者の寓話を記した経典のこと。雄渾な筆跡から聖武天皇の筆と伝えられ「大聖武(おおじょうむ)と呼ばれる。1行1317字で書かれた経文が多い中、12字前後の堂々とした字。古筆の断簡を貼った作品集で書の手本にされる手鑑(かがみ)の冒頭に貼られる。表面に粒粒があるのが分かる。マイクロスコープで見ると、原料であるマユミが凝固した粒と、白くするための胡粉(ごふん)や微細な金箔が見える。粒粒は釈迦の舎利(遺骨)を入れたものだという伝承があり、荼毘紙(だびし)とも呼ばれる。奈良・天平時代のわずか9年間しか使われなかったと考えられ、高貴な身分の人が使用した特別な料紙。

瑠璃色の紙に金文字「訶利帝母(かりていも)真言経(神護寺経)

「訶利帝母真言経(神護寺経)」(透過光画像)

鳥羽院が発願して制作し、神護寺に寄進された紺紙金字一切経の一巻で、鬼子母神(きしぼじん)について説明した経典。見返しは金銀泥で描いた釈迦説法図。料紙を瑠璃色に染めるため、何度も藍甕に浸した。瑠璃色は仏教で七宝の一つとして重んじられた色だ。金泥書きの経文は輝きが増すように、専門の職人が硬いもので磨いたという。よく見ると文字に沿って縦の線が見える。

植物の断片から産地が分かるかも

「貫之集下(石山切)」 藤原定信筆 平安時代・12世紀特種東海製紙株式会社蔵

「本願寺三十六人家集」より分割された「貫之集下」の断簡。もとは両面書きの冊子本だったものを掛軸に仕立てた。コウゾ紙に藍と黄蘗(きはだ)(ミカン科の落葉高木)で染められた右側の緑色の料紙の表面には、1ミリほどの異物がある。これは植物の断片でDNAを解析することで産地が分かる可能性がある。また左側の紙は中国の唐紙を模倣して作られた和製唐紙。ジンチョウゲ科の植物から作られた雁皮紙(がんぴし)に胡粉を塗り、細かく砕いた雲母(うんも)を使う雲母(きら)刷りを施している。もともとの唐紙とは平安時代に中国から輸入された、竹を原料とした紙で墨汁の吸収がいいと言う。

北宋時代の唐紙を使った国宝「古今和歌集序」

国宝 「古今和歌集序」 藤原定実筆(部分) 平安時代・12世紀 大倉集古館蔵

中国・北宋時代に作られた装飾料紙の唐紙を用いている。保存状態がよく、ほぼ裏打ちをしていないため美しく装飾された紙の裏と表が観察できる。版木を使い雲母摺りと空摺りの2種類の技法により、伝統的な吉祥文様などを摺りだしている。空摺りは膠に混ぜた胡粉を刷毛で塗る具引きをした紙の下に、型文様の版木を置いて上から硬いもので文様を摺り出す手法。

紙の利用者層が広がる

重要文化財 東大寺文書扉風(部分) 奈良~平安時代 8~13世紀

平安時代の康和4(1102)年、裁判で土地を取り戻した尼僧が世話になった人物にその土地を譲る際に、内容を保証するために文書に手形を押している。紙は乾燥時の板目やチリなどが目につく。貴族や僧などに限られていた紙の利用層が広がったことが分かる。当時、女性は手形や母印を押す例が多いと言う。

原本の姿を正確に再現した「平家本納経」(模本)

平家納経(模本) 法華経勧特品第十三(部分) / 大正~昭和時代・20世紀 大倉集古館蔵

大正9(1920)年に厳島神社の依頼を受け、日本美術研究家で書家、料紙製作者の田中親美(18751975)による「平家納経」模本の制作が始まった。5年をかけ模本全33巻が完成した。さらに原本の当初の姿を復元した数組の模本が制作され、1組が大倉集古館の所蔵となる。「平家納経」は大量の金銀を使い豪華さを極める。銀の砂子を撒いた国産の紙に、空摺りで天女や孔雀の文様などを磨き出し、さらに金の雲形を施した他には見られない技法を用いている。

国宝 普賢菩薩騎象像/平安時代・12世紀 *特別公開
平家納経「法華経法師功徳品」の見返しには白象に乗った普賢菩薩像が描かれている

 

(読売新聞事業局美術展ナビ編集班・秋山公哉)

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