【レビュー】センス・オブ・ワンダーを刺激する 「大・タイガー立石展」 千葉市美術館

《昭和素敵大敵》1990年 田川市美術館蔵

大・タイガー立石展 POP-ARTの魔術師

TIGER Tateishi:The Retorospecyive

会期:2021年4月10日(土)~7月4日(日) 休室日=5月6日(木)、24日(月)、6月7日(月)

会場:千葉市美術館(千葉市中央区、JR千葉駅東口から徒歩約15分、京成バス=バスのりば7=から大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」または「大和橋」下車徒歩約3分、千葉都市モノレール県庁前方面行「葭川公園駅」下車徒歩5分、京成千葉中央駅東口から徒歩約10分)

観覧料:一般1200円、大学生700円ほか

「大・タイガー立石展」が開催されている千葉市美術館

タイガー立石(1941~1998)はSFが好きで、よく読んでいたそうだ。もっとも好きだったのは、アメリカの作家、ロバート・シェクリイの短編集「人間の手がまだ触れない」だったとか。ほかに好きだったのは、レイ・ブラッドベリ、ロバート・A・ハインライン、ブライアン・W・オールディス――。これらの巨匠、数多の作品の魅力を説明するのに、よく使われる言葉がある。

センス・オブ・ワンダー。

何か不思議なことに出会った時の驚き、神秘さや不思議さに目を見張る感性……。良質のSFやファンタジーは、それに触れる読者や視聴者の心を刺激し、非日常の世界へと誘う。タイガー立石の作品もそうだ。カラフルな色彩、ちょっとユーモラスな造形で、見ている者の心を異化していくのである。

《富士のDNA》1992年 courtesy of ANOMALY

思えば、タイガー立石が名を成していった1960~70年代は、日本にセンス・オブ・ワンダーがあふれた時代だった。筒井康隆、小松左京といった「レジェンド」が次々に誕生したSFの世界だけを指すのではない。例えば岡本太郎の「太陽の塔」、例えば唐十郎のテント芝居……。横尾忠則や赤瀬川原平らが手がけた前衛演劇のポスターを見ていると、ポップでアバンギャルドな空気にあふれた時代の香りが漂ってくる。そうした流れの中でタイガー立石の活動を眺めてみると、マンガから彫陶、絵画まで、幅広いジャンルでポップな作品を発表し続けた足跡は、むしろ自然なもののようにもみえるのだ。

「コンニャロ商会」より原画 1967年 courtesy of ANOMALY

時代の空気に敏感で才気あふれた若者。もちろん、タイガー立石は「現在」だけを見ていたわけではない。ピカソやダリ、エルンストやデ・キリコといった先人たちに影響を受け、その美や哲学を心身に取り込んでいる。デ・キリコへのオマージュともいえる「輪のミステリー」。「過去」のアイコンをキャラクターとして使いながら、見る者たちを新しい世界に誘おうとする。「やつし」とか「本歌取り」とか「見立て」とか、その根底に江戸文化の本質と共通する日本人的精神を感じる、とは我田引水に過ぎるだろうか。

「輪のミステリー」1975年 板橋区立美術館蔵

さらに80年代になると、「自分自身の」アイコンが縦横無尽に作品を歩き回る。無限連鎖的なイメージを描いた緑のトラ。スキがあれば登場する「とらのゆめ」のモチーフ。そのキャラクターが、夢幻的でもあり、ユーモラスでもある世界観を増幅させている。

「とらのゆめ」より原画 1984年 個人蔵

「明治」「大正」「昭和」をコラージュした大作を眺めてみると、結局、タイガー立石の「現在」と「過去」は、高度成長時代の日本が中心になっているようだ。美空ひばり、新幹線、戦争とご成婚。混沌とエネルギーにあふれた右肩上がりの日本。タイガー立石的「同時代」は、そこにこそあることが、改めて見て取れる。

《昭和素敵大敵》1990年 田川市美術館蔵

そして「未来」。90年代に入ってからの作品に目立つのは、縄文的な模様に彩られた幾何学的な世界だ。それは前述の「昭和」の絵の中に、差し込まれている「壁」のようなオブジェにも現れている。「情報化社会」の象徴として、新たな世界の到来の暗喩として、様々な作品に使われているこのイメージ。コンピューターの内部回線の様に見えながら、どこかインカやマヤの神話の世界を思わせる造形だ。「壱富士」では和のモチーフを異世界のものに換骨奪胎し、「大地球運河」では、未知への期待と不安をそこはかとなく漂わせている。タイガー立石は「来たるべき21世紀」をどのように感じていたのだろうか。最後まで彼の作品は、ぼくたちのセンス・オブ・ワンダーを刺激し続ける。

《壱富士》1992年 泉和浩氏蔵
《大地球運河》1994年 courtesy of ANOMALY

(事業局専門委員 田中聡)

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