【レビュー】 知る人ぞ知る名品の数々 特別展「遠山記念館の50年」展 開催中(埼玉県川島町)

重要文化財 英一蝶《布晒舞図》江戸時代  武家屋敷に招かれたと思われる舞妓が布晒の舞を舞う。舞妓の一瞬の動きを捉えた姿、囃子方の豊かな表情と鼓などの動きが見る者を飽きさせない。英一蝶(はなぶさいっちょう)は狩野派に学び風俗画家として成功したが、罪を得て三宅島に流された。この絵はその時描いたと言われる。

仮名書の至宝と呼ばれる寸松庵色紙「むめのかを」や源頼朝41歳の時の「書状」、岡田半江の「春靄起鴉図」、黒田清輝の最初期の裸婦画など、数々の名品を展示した特別展(後期)が遠山記念館で開かれている。

 

  • 特別展「遠山記念館の50年」
  • 遠山記念館(埼玉県川島町)
  • 会 期(後期) 5月1日(土)~5月30日(日)
  • 開館時間   午前10時~午後4時30分(入館は午後4時まで)
  • 休館日    月曜日、5月6日(木)、5月7日(金)
  • 入館料    一般1000円ほか 中学生以下無料
  • 詳しくは同記念館ホームページ
  • 東武東上線「川越駅」、JR「川越駅」「桶川駅」、西武新宿線「本川越駅」からバスで牛ケ谷戸下車、徒歩約10分。
  • 車で圏央道川島ICより7分。

遠山記念館は旧日興証券創業者の遠山元一が母のために建てた建物と、彼が蒐集したコレクションを展示するため、昭和45(1970)510日に埼玉県内で初の美術館として開館した。今回は開館50年を記念して、平安時代から近代までの重要文化財6件、重要美術品9件を含む25件の館蔵品を展示している。のどかな田園風景の中の遠山邸は、元一が幼いころに没落した生家を再興し、苦労した母の住まいとなるよう昭和8年から2年7か月をかけて完成させた大邸宅。近代和風建築の傑作として国の重要文化財(建造物)にもなっている。

紀貫之の筆と伝わる仮名書の至宝

重要文化財 伝紀貫之《寸松庵色紙》平安時代 11世紀後半

冊子本の断簡で『古今和歌集』の四季の和歌を書写したもの。料紙1枚に1首が書かれており、現在は30数葉しか残っていない。一部が大徳寺の「寸松庵」に伝わったことからこの名がある。紀貫之の筆と伝わる。張りのある筆線、均整のとれた字体に散らし書きの技、唐紙の美しさ。仮名の王者としての力と風格がある。書を習う人には必見の一枚だろう。

源頼朝41歳 自筆の書状

重要文化財 源頼朝《書状》鎌倉時代 文治3(1187)年11月9日

数少ない頼朝自筆の書状のひとつ。後筆に「文治三年」と書かれており、2年前に平家を壇ノ浦で滅ぼして権力を揺るぎないものとした41歳の時の書。伸びやかな筆遣いや自然な墨継ぎなど、貴族と同じような教育を受けたことをうかがわせるという。

制作年の分かる絵巻

重要美術品 《遊行縁起絵巻》室町時代 永徳1(1381)年8月

時宗の開祖である一遍上人=遊行上人(ゆぎょうしょうにん)の事績を描いた絵巻。「一遍上人絵詞」の名称で知られる十巻本のうち、複数の場面をつなぎ合わせている。奥書(写真左端)に制作年が書かれている。鮮やかな彩色が残っており、人物の表情や動きもよく分かって面白い。

二人の正恒 平安末の太刀と小太刀

(左棚上段) 重要美術品 青江正恒《太刀 銘 正恒》平安時代末期 12世紀
(同下段) 備前正恒《小太刀 銘 正恒》平安時代末期 12世紀

正恒という刀工は備前国(岡山県東南部)と備中国(同県西部)におり、両者とも平安時代末期から鎌倉時代初期に活躍し作風も近い。備前国の正恒は同国でも最初期の刀鍛冶であるため「古備前正恒」と、備中国の正恒は同国の青江派という一派の刀工であるため「古青江正恒」と呼ばれる。

文様の中に隠された十二の漢詩の文字

重要文化財 《秋野蒔絵手箱》鎌倉時代中-後期 13-14世紀

化粧道具や手回り品を入れるための手箱。蓋表には渓流を中心に松の木や秋の草花が配され、その意匠は胴の周囲をめぐるように展開している。文様の中に「和漢朗詠集」にある源英明の漢詩の十二文字が隠されている。写真右上は蓋の裏側の写真。右下は箱の中にはめられる懸子(かけご)で、これが残っているのは珍しいという。

大坂城の灰の中から再生

大名物 《文琳茶入 銘 玉垣》南宋時代 13―14世紀

中国で香辛料の輸送用に作られた小壺が、日本では茶席用の抹茶を入れる容器として使われた。その中で特に形や大きさの優れたものは「名物」として権威化した。この品は足利義政の同朋衆(どうぼうしゅう=将軍に近侍して雑事や諸芸能をつかさどった僧の姿をした者)の相阿弥の持ち物と伝えられ、大坂城落城の際に破損。瓦礫と灰の中から真っ先に探し出され、漆により修復されて徳川将軍家の家宝として伝わった。漏斗状の口が残るこの品は「文琳」と呼ばれる古様を示し、貴重な物だという。右下の写真は現代の修理の際に破片に戻された状態。大坂城から回収・修復された茶入れは《付藻茄子(つくもなす)》が有名だが、この黒味を帯びた古様の茶入れも優劣つけ難い気品を感じる。また、破片の状態の写真を見ると修復技術の高さにも驚く。

実物でしか味わえない色合い

重要文化財 岡田半江《春靄起鴉図》江戸時代

連なった新緑の山々が織りなす微妙な色合い、谷間を流れる朝靄の中を飛び立つカラス、小さいが生き生きと描かれた人間。この味わいは実際に絵を目の前にしないと得られない。岡田半江(はんこう)は江戸時代の大坂南画を代表する文人画家。輪郭線を使わず点を押すように筆を用いることで、湿潤な空気を表現している。「米法」と呼ばれるこの山水画の手法は、中国北宋の米父子が完成させた。

日本最古級の裸婦像

黒田清輝《裸婦習作》明治22年頃

日本西洋画の先駆者である黒田清輝のフランス留学時代の習作。絵画学校で描いており、留学時代の一番古い作品の一つと言われる。日本ではまだ芸術としての裸婦像が確立しておらず、日本西洋画の中で歴史的な絵と言えるのではないだろうか。

講演会のオンライン開催

専門家による講座をオンラインで開催している。今後の日程等は以下の通り

  • 5月8() 「大坂の南画家 岡田半江」  星野鈴(前東京造形大学教授)
  • 5月16() 「源頼朝書状と山城介久兼・畠山重忠」  清水亮(埼玉大学)
  • 5月22() 「秋野蒔絵手箱-蒔絵を楽しむ」  永田智世(根津美術館)
  • 5月29() 「はじめての寸松庵色紙-書かれた当初の姿と千年伝来-」      久保木彰一(遠山記念館)

詳しくは同記念館ホームページ

 

 

 

(読売新聞事業局美術展ナビ編集班・秋山公哉)

 

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