特別展「最澄と天台宗のすべて」 秘仏・本尊、寺外初公開が多数 10月12日から東京国立博物館で

天台宗を日本に広めた最澄の1200年大遠忌を記念した特別展「最澄と天台宗のすべて」は10月12日、東京国立博物館で開幕する。
天台宗の総本山・延暦寺をはじめ、各地の寺院が守り伝えてきた秘仏や仏画などの優品を展示する特別展は、東京、九州、京都の3国立博物館を巡回する。
発表された主な見どころを章ごとに紹介する。
(*9月27日、チケットの販売情報を更新しました)
伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」 |
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会期:2021年10月12日(火)~11月21日(日) |
会場:東京国立博物館 平成館 (東京・上野公園) |
休館日:月曜日 |
観覧料 (前売日時指定券) 一般2100円 大学生1300円 高校生900円 |
観覧料 (当日券) 一般2200円 大学生1400円 高校生1000円 予約不要の「当日券」を会場で若干数用意 |
チケットは9月27日から発売(「美術展ナビチケットアプリ」「ローチケ」「アソビュー!」で) |
九州国立博物館(福岡県太宰府市)2022年2月8日(火)~3月21日(月・祝)
京都国立博物館(京都市)2022年4月12日(火)~5月22日(日)
詳細は、特別展「最澄と天台宗のすべて」展覧会公式サイトで。
第1章 最澄と天台宗の始まり―祖師ゆかりの名宝
日本の天台宗は、比叡山延暦寺を創建した伝教大師・最澄(767年~822年)から始まる。
天台の教えは、中国・隋時代の天台大師・智顗
(538~598年)によって大成。その教えは、『法華経』を根本経典とするものだった。これを日本に伝えたのが唐の名僧・鑑真(688~763年)である。
鑑真が日本にもたらした経典から、最澄は智顗の教えを学びとった。最澄はさらに学びを深めるために、遣唐使船で中国・唐に渡り、「円禅戒密の四種相承」という多彩な法門を伝授、帰国した。
帰国後、日本で天台宗が公認され、最澄は従来の南都(奈良)諸寺院とは違う独自性を打ち出していく。
そんな最澄の波乱に満ちた足跡を名宝からたどっていくのが第1章だ。

展示期間:10月12日(火)~11月7日(日)(東京会場) 展示会場:東京、京都
見どころは、現存最古の最澄の肖像画である国宝「聖徳太子
及
び天台高僧像
十幅
のうち最澄
」だ。(東京展・京都展)
頭巾をかぶり、両手を組んで、椅子の上で瞑想する姿は、教科書などでもおなじみ。
東京展では期間限定ながら、この1幅だけでなく、10幅すべてを一挙に展示されることが報道発表会で明らかにされた。大迫力の展示となりそうだ。
同時代の空海と並んで名筆と名高い最澄の自筆の書も出展される。
国宝「尺牘(久隔帖)」は、現存する唯一の最澄自筆の手紙(尺牘は手紙や書状のこと)。書き出しに「久隔清音」とあることから「久隔帖」と呼ばれている。弘仁4年(813年)に、最澄が、空海のもとにいた弟子の泰範に宛てて出したもの。書のすばらしさのみならず、空海とのコミュニケーションを具体的に物語る、日本史で最も有名な手紙の一つだ。東京展に出展。

展示期間:10月12日(火)~10月31日(日) 展示会場:東京
東京展では、延暦寺蔵の三筆の書も出展される。三筆とは、空海、嵯峨天皇、橘逸勢のこと。展示されるのは、嵯峨天皇の宸筆、国宝「光定戒牒」だ。

展示会場:東京
京都展で出展される延暦寺蔵の国宝も注目される。国宝「七条刺納袈裟」は、最澄が教えを受けた中国天台山・仏隴寺の行満から相伝した、天台六祖・湛然
(711~782年)の袈裟と伝えられる。中国・唐時代(8世紀)のものだ。

展示会場:京都
第2章 教えのつらなり―最澄の弟子たち
第2章では、最澄の弟子たちが中国・唐へ渡り、密教を学び、日本の天台宗に取り入れていったことが紹介される。『入唐求法巡礼行記』で知られる慈覚大師円仁(794~864年)や、智証大師円珍(814~891年)らの足跡を、仏像の優品などでたどる。
延暦寺蔵の重要文化財「聖観音菩薩立像」は、九州展と京都展に出展される。円仁が比叡山横川に開いた首楞厳院の本尊に聖観音を安置し、その再興像がこの仏像と考えられているという。

展示会場:九州、京都
近年、その存在が知られるようになった秘仏が九州展、京都展にお目見えする。
「菩薩遊戯坐像(伝如意輪観音)」は、愛媛県の等妙寺の本尊で、鎌倉時代の作で、60年に一度のみ公開される秘仏だ。

展示会場:九州、京都
京都にあった法勝寺は、南北朝時代以降、延暦寺とは別に特殊な受戒儀式を持つ黒谷流という一派を形成し、受戒を法勝寺と遠国四戒壇に限定した。この地方の戒壇の一つが等妙寺だ。等妙寺の旧境内は、中世以来の寺の遺跡がよく残っているとして、国の史跡に指定され、注目されている寺院だ。
第3章 全国への広まり―各地に伝わる天台の至宝
この章では、全国各地に花開いた天台の様相を仏像の優品などで伝える。
延暦寺の総本堂、根本中堂には、最澄作の秘仏本尊の薬師如来像が安置されている。この仏像は秘仏のため見ることができないが、これに近い姿の仏像が各地で作られ、それぞれの寺院の本尊や秘仏として伝えられてきた。今展覧会では、そんな秘仏が、寺外初公開を含めて複数出展される。

京都市の郊外、日野の法界寺で、厨子の奥深くにまもられてきた平安の秘仏が、重要文化財「薬師如来立像」だ。東京展と京都展に出展され、寺外初公開となる。

展示会場:東京、京都
京都と地方を結ぶ重要な交通の要衝に、天台宗の寺院があることが多く、これは、現代の交通網とは異なるいにしえの道の存在を示唆するという。そうした寺の一つが、東山道沿いの岐阜県可児郡御嵩町にある願興寺(蟹薬師)だ。
寺外初公開(東京展)となる重要文化財「薬師如来坐像」は平安時代後期の優品である。

展示会場:東京
九州・大分の国東半島は、天台密教と山岳信仰が結びついた独自の信仰形態が発展した。大分・長安寺蔵の重要文化財「太郎天及び二童子立像」は、美豆良を結った愛らしい姿が特徴だ。九州展に出展。

展示会場:九州
第4章 信仰の高まり―天台美術の精華
この章では、貴族の信仰と結びついた華やかな天台の名宝が展示される。
東京展の期間限定(10月19日~11月3日)で展示されるのが、京都・真正極楽寺(真如堂)蔵の重要文化財「阿弥陀如来立像」だ。紅葉の名所として有名な同寺の秘仏本尊で、年に一度、11月15日に厨子の扉が開かれるが、今回は寺外初公開となる。

展示期間: 10月19日(火)~11月3日(水・祝) 展示会場:東京
独特の個性あふれる表情が特徴の高僧像も注目だ。九州展と京都展に出展される重要文化財「性空上人坐像」(兵庫・圓教寺蔵)は、鎌倉時代(1288年)の慶快作。

展示会場:九州、京都
性空(?~1007年)は、霧島山(宮崎県・鹿児島県)や背振山(福岡県・佐賀県)など九州各地で修行をした経歴を持つ僧侶。近年の調査で、頭部にはガラス製と思われる壺が納められていることが判明、今展示に合わせて、九州国立博物館でさらなる調査が行われる予定という。
延暦寺の名宝のひとつ国宝「宝相華蒔絵経箱」が京都展に出展される。平安時代に遡る蒔絵の稀少な伝世例だ。

展示会場:京都
元亀2年(1571年)の織田信長による比叡山焼き討ちで難を逃れたと伝えられるのが、国宝「釈迦金棺出現図」(京都国立博物館蔵)。京都西郊の長法寺に伝来していた作品で、釈迦の再生説法という珍しくも輝かしい場面を主題とし、天台宗最盛期を飾る優品の一つ。九州展に出展。

展示会場:九州
第5章 教学の深まり―天台思想が生んだ多様な文化
万人救済を目指した『法華経』の思想は、法然(1133~1212年)や親鸞(1173~1263年)、日蓮(1222~1282年)など鎌倉仏教の祖師たちを育んだ。一方、日本の神々は仏が姿を変えたものとする本地垂迹説のもと、比叡山の鎮守の日吉山王社への信仰が盛んになった。この章では、『法華経』思想から多様な展開を見せた、中世天台宗の様相を紹介する。
京都展に出展される重要文化財「日吉山王金銅装神輿」(樹下宮)は、江戸時代・17~19世紀の御輿。
日吉社の神輿は平安時代以来、強訴の象徴として、日本史の数々の転換点となったことでも有名だ。この神輿は、14基が現存する日吉大社所蔵の神輿のうち、重要文化財に指定された7基の一つ。

展示会場:京都
第6章 現代へのつながり―江戸時代の天台宗
織田信長による焼き討ちにあい比叡山は大きな被害を受けたが、豊臣秀吉や徳川将軍家によって復興された。復興に重要な役割を果たしたのが、慈眼大師天海(1536?~1643年)だ。天海は、江戸に「東の比叡山」とよばれる寛永寺を創建した。この章では、徳川将軍家の庇護下が育まれた華麗な江戸天台の作品が紹介される。
寛永寺蔵の重要美術品「慈眼大師縁起絵巻」は、慈眼大師天海の生涯を描いた絵巻物。東京展に出展で、写真の中巻の展示期間は10月26日(火)~11月7日(日)。

中巻展示期間:10月26日(火)~11月7日(日) 展示会場:東京
東京展出展の重要文化財「天海僧正坐像」(栃木・輪王寺蔵)は、天海の生前に造られた肖像(寿像)だ。寿像ならではの写実性が特徴で、天海の力強さが表現されている。

展示会場:東京
伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」
東京国立博物館 平成館(東京・上野)2021年10月12日(火)~11月21日(日)
九州国立博物館(福岡県太宰府市)2022年2月8日(火)~3月21日(月・祝)
京都国立博物館(京都市)2022年4月12日(火)~5月22日(日)
詳細は、特別展「最澄と天台宗のすべて」展覧会公式サイトで。
(読売新聞デジタルコンテンツ部 岡本公樹)