【プレビュー】「11ぴきのねこ」 世代を超え、愛されるキャラクター 「没後20年 まるごと馬場のぼる展」 練馬区立美術館で今夏開催

展覧会名:没後20年 まるごと馬場のぼる展 描いた つくった 楽しんだ ニャゴ!
会期:2021年7月25日(日)~9月12日(日)
会場:練馬区立美術館(東京都練馬区、西武池袋線中村橋駅徒歩3分)
休館日:月曜日(ただし8月9日(月・休)は開館、8月10日(火)は休館)
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
観覧料:一般1000円、高校・大学生および65~74歳800円、中学生以下および75歳以上無料ほか
絵本「11ぴきのねこ」シリーズなどで、今も幅広い世代に根強い人気を誇る漫画家・馬場のぼる(1927~2001)を様々な側面から紹介する展覧会。
青森県三戸町生まれで、1949年に漫画家を目指して上京。翌50年には少年誌で早くも連載漫画を手がけ、一時期は手塚治虫、福井英一とともに「児童漫画界の三羽ガラス」と呼ばれるほどの人気を博した。
その後、徐々に絵本の世界に活躍の場を移し、1967年刊行の『11ぴきのねこ』(こぐま社)が一大ロングセラーに。現在に至るまで絵本だけでなくキャラクターグッズや人形劇などを通じて、世代を超えて愛されている。また、作家は1952年から亡くなるまで約50年間、練馬に居住。自宅には膨大な資料が残された。本展では漫画や絵本の業績を展示するとともに、地元ゆかりの作家ならではの50年分のスケッチブックや、個人の楽しみで残した絵画、立体作品、交友関係などにも焦点。人としての馬場のぼるの全体像を紹介する。
本展の構成は以下のとおり。
1.11ぴきのねこ

作家の代名詞ともいえる「11ぴきのねこ」シリーズ。1作目の『11ぴきのねこ』(1967年)から最後の『11ぴきのねこ どろんこ』(1996年)まで6作品を、貴重な校正原稿で紹介する。

初期のこぐま社では、リトグラフを応用した版画方式で原画を作っていたため、作家は1色ずつ色版を描き、刷り師が各色版を特色インクで手刷りして、校正刷を作っていた。本展では『11ぴきのねことあほうどり』(1972年)を例に、この印刷方式を解説、その前段階のラフスケッチや色指定の記録などと合わせ、当時の絵本の制作過程を詳しく紹介する。
2.スケッチブック

アトリエには1951年から2001年まで約50年分のスケッチブックが残されていた。これは2009年に青森県立美術館で開催された回顧展準備の際に発見され、生前には家族を含め誰の目にも触れていなかった。ルポの取材メモ、時代や猫といった特定のモチーフに埋め尽くされたものや、いくつもの要素が詰まったものなどその内容は様々。7つに分類して紹介する。
3.ふるさと三戸

青森と岩手の県境に位置する自然豊かな城下町、三戸町に3人兄弟の末っ子として生まれた。1944年に海軍飛行予科練習生として入隊するまでの17年間をこの街で育ち、町を取り囲む名久井岳や町を流れる馬淵川、三戸城跡などが作品に時折、顔を出す。故郷の風景画や小学校時代の絵や作文、旧制中学時代のノートなどを展示し、作家の原点を探る。
4.漫画

終戦後に流行した赤本漫画を描き、1949年に21歳で上京、その年のうちに学年別学習誌でデビューを果たした。翌50年、少年誌に連載を始めた長編「ポストくん」が一躍大ヒットする。ストーリー漫画の手塚治虫、柔道漫画で人気を博した福井英一ともに、「児童漫画界の三羽ガラス」と呼ばれるほどに。しかし少年漫画で主流になっていった冒険活劇ブームにずれを感じ、大人向け漫画に転向。1960年頃から『週刊漫画サンデー』や『週刊漫画TIMES』などの雑誌や、新聞に連載を描くようになった。初期から晩年までの代表作で50年の漫画家としてのキャリアを振り返る。
5.絵本

「11ぴきのねこ」以外の絵本作品を紹介する。絵本デビューは1963年の「きつね森の山男」(岩崎書店、1974年にこぐま社より改訂新版)。その後、こぐま社の佐藤英和氏が漫画家としての「絵で語る」力に注目。佐藤氏と海外の絵本を読みこんだり、絵本について話し合ったりする中でスタイルを確立していった。

ここでは『アリババと40人の盗賊』(こぐま社、1988年)、『くまのまあすけ』(ポプラ社、1980年)、『ぶたたぬききつねねこ』(こぐま社、1978年)など12作の絵本を紹介。作家の人生に沿ったキーワードでたどっていく。加えて、書籍の挿絵とルポも展示する。
7.立体・タブロー作品
仕事以外でも描くこと、作ることを楽しんでいた。代名詞である「ねこ」たちの様々な姿をキャンバスにアクリルで描いたり、自ら土をこねて鬼瓦を生み出したり、立体作品を制作したりなど。おなじみのキャラクターたちが思い思いに動く姿には、見る側もワクワク。過去の展覧会では仕事以外の制作物を紹介する機会があまりなかったといい、今回は知られざる一面を見ることができる。
8.遺作『ぶどう畑のアオさん』

遺作となった『ぶどう畑のアオさん』で展覧会を締めくくる。アオさんという名前の馬が主人公で、1980年に婦人之友社から出版されたのち、こぐま社からの改版の依頼によって絵を全て描き直した。奥付の空を見上げるアオさんのカットは、亡くなる4日前に描かれた。
ふるさと三戸町の郵便局が「ねこ局長」で全国のファンに親しまれるなど、今もかわいらしい絵柄と、楽しいストーリーで幅広い世代に愛される馬場のぼる作品。夏休みに親子でハマれる展覧会だ。
(読売新聞東京本社事業局美術展ナビ編集班 岡部匡志)