【レビュー】3000年、母娘で伝えられてきたミティラー画などインドの民族アートが一堂に「ミティラー美術館コレクション展」(たばこと塩の博物館)

ミティラー美術館コレクション展

たばこと塩の博物館が「ミティラー美術館コレクション展 インド コスモロジーアート 自然と共生の世界」を開いている。
インドのミティラー地方において母から娘へと3000年にわたって伝承されてきた壁画であるミティラー画をはじめ、インド先住民族ワルリー族が描くワルリー画やゴンド族の描くゴンド画、5000年以上の歴史を持つテラコッタ(素焼の陶器)の大きく4つのカテゴリーの作品約90点が展示されている。

展覧会名 「ミティラー美術館コレクション展 インド コスモロジーアート 自然と共生の世界」
会場 たばこと塩の博物館(東京都墨田区横川1-16-3)
会期 2021年2月6日〜5月16日
入館料 大人・大学生100円など
詳細は、同博物館の公式サイトへ。

インドの民族アート約90点

「ミティラー美術館コレクション展」の会場

神々や結婚、豊穣など、原初的な祈りのあり方を今に伝えるインドの民族アートについて、見どころやその歴史を、たばこと塩の博物館学芸部長の鎮目良文主任学芸員に聞いた。

ミティラー美術館は新潟にある私立美術館

まず「ミティラー画」自体が分からなかったので、教えてもらった。

今回出展される3つの絵画ジャンルである「ミティラー」「ワルリー」「ゴンド」。「ミティラー」は地方の名称で、「ワルリー」と「ゴンド」は、それぞれインドに約500ある先住民族集団のひとつ。ヒマラヤ山脈に近いミティラー地方と、ワルリー族が住むムンバイに近いターネー県は、地図でみるとざっと約1800㎞も離れている。

同じインド内とはいえ、趣の異なる絵が楽しめるわけだ。

「ミティラー美術館」についても、少し説明が必要だろう。ミティラー美術館は、新潟県十日町市の廃校となった小学校校舎を利用した私立美術館だ。1982年に設立された同美術館は、インドの先住民の経済的支援の目的も踏まえ、インドの作家を当地に招いて日本で新しい「ミティラー画」「ワルリー画」「ゴンド画」を制作してもらうなどの活動を続けてきた。新しい作品を含めて、量と質は世界に類がないものとインド政府からも高く評価されているという。

女たちの祈りの儀礼を描く「ミティラー画」の世界

インド北部のミティラー地方では、3000年にわたり、ヒンドゥーの神々などを、家の土壁や床に描くことを、母親から娘に伝承してきたという。太陽や月の運航にあわせ、家族の幸せや豊穣を祈る素朴な宗教的生活から生み出された壁画と床画だった。

ただ、芸術品として永続して残すための絵ではなかった。1967年に、当時の全インド手工芸局長の女性ププル・ジャヤカルさんが、ミティラー地方の貧しい女性の経済的な自立をはかるため、紙に描くように薦め、海外に渡ると「ミティラー画」と呼ばれるようになり、その芸術性が認められるようになった。

今回展示されているものは、ミティラー美術館が設立されて以来収集されてきた作品群で、その多くは同美術館で新たに生み出されたものである。素朴なものから、高いデザインの作品まで多彩な展示となっている。

カーリー(制作年不詳、69×54㌢)ジャエールピー・デーヴィー
上弦の月を喰べる獅子(1990年 26×32cm)ガンガー・デーヴィー

上弦の月を喰べる獅子は、夢枕獏さんの同名のSF小説誕生の契機ともなった作品だ。この小説は、第10回日本SF大賞を受賞した。

ミティラー画は、もともと壁や床に描かれてきた。そのため、日本で制作された作品は、その歴史と伝統を踏まえて、紙ではなく、あえてコンクリートをキャンバスにした作品も多い。

スーリヤムッキーの木(1989年 281×190.5cm)ガンガー・デーヴィー

高さ2.8メートルのこの大作も、そのように描かれた。ガンガー・デーヴィーさんは、インドを代表する女性アーティストで、ミティラー画の第一人者として高く評価されている。完成を前に亡くなったため未完であるが、彼女の最高傑作と言われている。未完成の「空」の部分が、見る人の想像をかき立てる。

クリシュナとラーダー(1985年 220×112cm)シーター・デーヴィー

「クリシュナとラーダー」は、ミティラー画の代表的な描き手シーター・デーヴィーさんによるもの。ヒンドゥー教の神クリシュナとラーダーが描かれている。ミティラー画は、米をすりつぶした汁や果実などを使った鮮やかな色合いが特徴だ。
まるでマンダラのような作品も興味深い。

インドでは、女性たちが地面を掃き清めて、そこに一種のマンダラ風の絵を描く伝統が今もあるという。

36の月神チャンドラマ(1985年 152×150㌢) ヤムナー・デーヴィ
チャクラ(1990年 190×190cm)ゴーダーワリー・ダッタ

チャクラとは、ヒンドゥー教の神ヴィシュヌ神が、指先に持つ土星の輪のような武器のこと。この作品は、ゴーダーワリー・ダッタさんが日本に滞在したことが契機となって生まれたという。

赤と白の世界 ワルリー画

色とりどりなミティラー画と対照的なのが、「ワルリー画」だ。
ワルリー族は、インド西部の先住民族。婚礼の儀式の際に、米をすり潰して水と混ぜた真っ白な絵の具と竹を削った筆で、儀式が行われる部屋の壁面に赤土を塗り、絵を描く伝統がある。ミティラー画は、母と娘が描く伝統(現在は男性作家もいる)だが、ワルリー画は男女関係ないという。

1970年代初頭からは、ミティラー画と同様に、先住民族の経済支援の目的に、紙に神話や民話、生活などを描くようになった。

記者が、特に圧倒され、かつ想像が広がった作品が、これだ。

カンサーリー女神(豊穣の女神)(2004年 140×305cm)シャンタラーム・ゴルカナ

シャンタラーム・ゴルカナさんが、新潟の「ミティラー美術館」に招かれた際に、「米」をモチーフに描いた作品だ。山に見えるのは、小さな白い米粒の集合体だ。ぜひ、本物の作品に近寄って細部を見てほしい。

民族アートの枠を超えた「ゴンド画」

ゴンド族は、デカン高原の中部から北部にかけての地域に住み、人口約1300万人。インドの諸民族集団の中でも最大の先住民部族だ。
民族アートの枠を超え、飛行機やバスなど現代的なモチーフにも取り組み、ゴンド画の創設者として知られるジャンガル・シン・シュヤムさん(1960〜2001)の作品群が展示されている。

虎(1999年 95×157cm)ジャンガル・シン・シュヤム

日常をしばし忘れ、遠いインドへの空想の旅が楽しめる展覧会だ。

原画も買える

ミュージアムショップでは、原画も販売している。展覧会にも出展している「ミティラー画」のカルプーリー・デーヴィーさんの「クリシュナとラーダー」はショップで販売している作品で、66万円! ほかにも無名作者によるミティラー画が数量限定、660円とお手頃な値段で販売されている。

ショップで販売されているカルプーリー・デーヴィーさんの「クリシュナとラーダー」(中央上)

展覧会の日程や開館時間などの詳細は、同博物館の公式サイトへ。
(読売新聞デジタルコンテンツ部 岡本公樹)

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