【レビュー】鮮やかな「見立て」を堪能 「しりあがりサン北斎サン」展 すみだ北斎美術館

しりあがりサン北斎サン -クスっと笑えるSHOW TIME!-

会期:2021年4月20日(火)~6月27日(日) 月曜休館、ただし5月3日(月・祝)は開館、5月6日(木)は休館

前期 4月20日(火)~5月23日(日)

後期 5月25日(火)~6月27日(日)

会場:すみだ北斎美術館(東京都墨田区、JR総武線両国駅から徒歩9分、都営大江戸線両国駅から徒歩5分)

観覧料:一般1000円、高校生・大学生700円、中学生300円ほか

 

「すみだ北斎美術館」は葛飾北斎生誕の地にある

 

江戸の庶民文化はパロディー精神にあふれていた。

いにしえの名作を換骨奪胎して、現代社会の風刺にしてみたりナンセンスな笑いにつなげたり。例えば現代の漫画の源流とも言える「黄表紙本」をひもとけば、様々なテクニックが見て取れる。何かを何かになぞらえてみる「見立て」とか、歴史上の有名人などを俗化させてみる「やつし」とか、何でもないところに鋭くツッコミを入れてみる「うがち」とか……。そこに言葉遊びの「地口」や様々な事象をデフォルメしキャラクター化した絵が加わって、ひとつのお話が展開するのだ。

そういう「江戸的センス」は現代にも受け継がれている。競走馬を美少女化した最近流行のゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」は「見立て」、ブッダとイエスが東京・立川のアパートで生活する漫画「聖☆おにいさん」はそれこそ「やつし」。そしてレーザーラモンRGらお笑い芸人が歌う「○○あるある~」には、「うがち」の片鱗があったりするのである。

「しりあがりサン北斎サン」の展示会場

 

さて本題。

そういう江戸時代ポップカルチャーの代表的な担い手・葛飾北斎の作品を、令和ポップカルチャーの旗手の一人・しりあがり寿があの手この手でパロディー化したのが、「しりあがりサン北斎サン」である。2018年の「ちょっと可笑しなほぼ三十六景」では、「冨嶽三十六景」をモチーフにしていたが、今回は「東海道五十三次」「諸国瀧廻り」などもパロディーの対象にして、より幅広い内容になっている。

原典とパロディー作品が見比べられる展示

見ていて楽しいのは、パロディー化された作品と原典が、簡単に比較できることだ。しりあがりサンが北斎サンの作品のどこにインスパイアされて、それをどんなふうに展開していったのか、想像できる内容になっている。「赤富士」として知られる「凱風快晴」や波の描写が印象的な「神奈川沖浪裏」などの有名作品は、何度も取り上げられており、これでもか、とばかりにしりあがりサンのアイデアが放り込まれていく。その機知が楽しいし、次は何が出てくるんだろうというワクワク感が会場を歩いて行くうちにわき上がってくる。

葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」すみだ北斎美術館蔵(後期)

 

しりあがり寿「ちょっと可笑しなほぼ三十六景 青富士」🄫しりあがり寿 すみだ北斎美術館蔵(通期)

しりあがりサンの漫画の特徴は「脱力タッチ」と「軽妙なナンセンス」だと思うが、その特徴はこのパロディー展全体を覆っている。特筆すべきは、「見立て」のうまさだろう。筆者が好きなのは、「諸国瀧廻り 美濃ノ国養老の滝」のパロディー「諸国瀧廻り アトラクション」。勇壮で厳かな自然が明るく楽しい遊園地の乗り物になってしまう。ほんのちょっとした加筆だけで、がらりと色合いを変える。その腕前が鮮やか。この筆さばきで「うがち」や「やつし」の作品ももっと見たい。

葛飾北斎「諸国瀧廻り 美濃ノ国養老の滝」すみだ北斎美術館蔵(後期)
しりあがり寿「諸国瀧廻り アトラクション」🄫しりあがり寿 すみだ北斎美術館蔵(通期)

江戸文化の特質のひとつに「軽み」がある。さっきも書いたが、それはしりあがりサン自身の特徴にもつながっている。江戸の軽みと令和の軽みが、いい感じで融合した北斎サンとのコラボレーション。次に見せてもらえるのは、何年後かな。

(事業局専門委員 田中聡)

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