【レビュー】 日本人の心に刺さる姿 「江戸の敗者たち」展  太田記念美術館で始まる

《魁題百撰相 島左近友之》 月岡芳年 明治元年(1868)8月    石田三成の家臣である島左近が、関ケ原の戦いで銃撃を受け致命傷を負ったと言われる(諸説あり)場面。横に走る線は銃弾の跡を示し、上の線は体に命中している。血みどろの表情が生々しい。

判官ほうがんびいき」という言葉があるように、日本人は敗者に共感する感性を持っている。紙芝居で見るかのように、日本の歴史を敗者の浮世絵でたどる展覧会が太田記念美術館で始まった。

 

「江戸の敗者たち」展

会期:2021年4月15日(木)~5月16日(日)

会場:太田記念美術館(東京・原宿)

開館時間 午前10時30分~午後5時30分(入館は午後5時まで)

休館日 月曜日(5月3日=月・祝日=は開館)、5月6日(木)

入館料 一般800円ほか   中学生以下無料

JR原宿駅から徒歩約5分

地下鉄明治神宮駅から徒歩3分

詳しくは同美術館ホームページ

 

平家一門や源義経、楠木正成、明智光秀、西郷隆盛などなど、日本人は昔から戦いに敗れ滅びていく者たちに同情し、肩入れして来た。展覧会では平安時代の菅原道真から明治の西郷隆盛までの敗者たちを、主に江戸時代に描かれた61点の浮世絵で見ていく。結果として敗者の視線で日本の歴史をたどることになる。近年、歴史を敗者の立場から見直すことで、新たな視点を見出そうと言う動きが盛んになっている。「浮世絵の好きな人も、歴史の好きな人も、展示を通して新たな好きなものを見つけて欲しい」と学芸員の渡邉晃さんは話す。

《西海蟹女水底ニ入リテ平家ノ一族二見》 歌川芳虎 天保15~弘化2年(1844~45)頃

栄枯盛衰、栄華を誇った平氏は壇ノ浦で敗れ滅んだ。勝者の源氏が平清盛の孫である安徳天皇とともに海に沈んだ三種の神器を海女に捜させたところ、海底から平家の亡霊たちが現れたという絵。たくさんの平家蟹も描かれている。

 

《義経一代記之内 義経智略一の谷鵯越逆落し》歌川広重 天保5~7年(1834~36)頃

勝利の立役者が一転、悲劇のヒーローとなった源義経。「判官びいき」という言葉も義経が判官の職にあったころからできた言葉だ。義経を題材にした浮世絵はたくさんある。これは義経を一躍有名にした、一ノ谷の合戦における鵯越ひよどりごえの逆落とし。急な坂を人馬一体となって駆け下りて、陣を構える平家軍の背後を突いたという場面。風景画を得意とした広重の絵だが、山並みなどはいかにも広重という趣きだ。

 

《楠木正成》豊原国周 明治26年(1893)

戦前戦後で評価が変わったとも言われるが、後醍醐天皇を助けて鎌倉幕府を翻弄した楠木正成まさしげも悲劇のヒーローの一人だ。陣を訪れた息子の正行まさつら=左=との最後の別れとなる芝居の「桜井の別れ」の場面。正成を演じるのは「新派劇の父」と称される川上音二郎。

 

《新撰太閤記 此人にして此病あり》歌川豊宣 明治16年(1883)6月

前作の大河ドラマで、主人殺しの悪人から悲劇の人に変わった感のある明智光秀。実は江戸時代にも『絵本太閤記』などの小説や歌舞伎では、非情な主君の侮辱に耐えた末のやむを得ない行動というイメージがあった。上の絵は『絵本太閤記』で、信長による武田信玄の菩提寺、恵林寺焼き討ちを諫めた光秀が鉄扇で打たれる場面。

 

《初代中村吉右衛門の馬だらひ光秀》名取春仙  大正14年(1925)5月

前の絵と同様、同情すべき光秀を描いたもの。歌舞伎の一場面で、馬を洗うのに使うたらいに注いだ酒を飲まされた光秀。恨みを秘めた役者の表情に凄みがある。

 

《魁題百撰相 滋野左ヱ門佐幸村》月岡芳年 明治元年(1868)12月

大阪夏の陣を描いているのだが、人物を見ると明治維新時の上野戦争のようにも見える。江戸時代は幕府への批判と取られるのを避けるため、人物の名を換えて表現した。これも旧幕府軍への共感を、明治新政府を意識して大阪夏の陣に託して描いたということか。

 

《忠臣蔵 夜討》歌川広重  天保7~9年(1836~38)頃

江戸時代の人気芝居と言えば忠臣蔵。これは四十七士が本所の吉良上野介 (芝居では高師直) 邸に討ち入った場面。右に炭小屋から引き出される上野介が見える。広重の絵らしく松や月の描写が美しく、生臭さは無い。

 

《江戸三幅対》勝川春好 天明後期(1785~89)頃

1対1の対決の絵も並ぶ。中にはユーモアにあふれたものも。上の絵は当時人気の横綱谷風が遊女と酒の飲み比べをするというもの。行司も当時人気の役者。どちらが勝ったかは、見る人の想像にお任せ…というところだろうか。

 

 

次回展覧会「鏑木清方と鰭崎英朋」展

5月21日~620(月曜休館)

 

(読売新聞事業局美術展ナビ編集班・秋山公哉)

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