【レビュー】己の姿をそこに見る 「国宝 鳥獣戯画のすべて」展 東京国立博物館

甲巻は、ゆっくりと進む「動く歩道」から鑑賞する

特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」

NATIONAL TREASURE FROLICKING ANIMALS

会期:2021年4月13日(火)~5月30日(日) 月曜休館※ただし5月3日(月・祝)は開館

前期 4月13日(火)~5月9日(日)

後期 5月11日(火)~5月30日(日)

会場:東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園、JR上野駅公園口、鶯谷駅南口からそれぞれ徒歩10分、東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、千代田線根津駅、京成電鉄京成上野駅からそれぞれ徒歩15分)

入場料:一般2000円、大学生1200円ほか。事前予約制

詳細は同展サイトへ。

国宝 鳥獣戯画 甲巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期

平安時代の終わりから鎌倉時代初期にかけて描かれたと言われる「鳥獣戯画」。甲から丁までの全4巻を初めて会期を通じて「一挙公開」するのが、この特別展である。中でも目玉は、「動く歩道」を使った「甲巻」の展示。おなじみ、擬人化されたサルやウサギ、カエルたちの活躍が、観覧者自身が巻物をひもとくように見られる。

国宝 鳥獣戯画 甲巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期

ゆったりとした歩道の流れ。そこに身を任せながら絵巻を眺める。目に入るのは、弓矢を射たり相撲を取ったり、天衣無縫に人生(?)を楽しむサルやウサギ、カエルたち。シンプルでユーモラスなタッチが、喜怒哀楽の表情を明快に表す。

国宝 鳥獣戯画 甲巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期

昔の人はどんな風に絵巻を楽しんだのかな? 裃付けてしゃっちょこばって見たわけではないんだろうな。 そんなことを考えているうちに、歩道は少しずつ進んでいく。「国宝」を楽しく、リラックスした気分で見てもらおう。そういう意図で企画したのであれば、まあ「あり」な趣向ですよねえ。

国宝 鳥獣戯画 乙巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期

4巻のうち、有名なのは「甲巻」だが、「乙巻」から「丁巻」までも、それぞれに味がある。登場するのは、現実世界にいる動物だけではない。龍や麒麟など、想像上の動物(?)も描かれているし、多数の人間も登場する。わいわいがやがや。将棋をしたり、踊ったり。老若男女、登場する人は様々だ。

国宝 鳥獣戯画 丙巻(部分) 平安~鎌倉時代 12~13世紀 京都・高山寺 通期

見ていてちょっと思い出したのは、ボッシュやブリューゲルといった中世欧州の「奇想の画家」たちの作品である。例えばボッシュの「快楽の園」とか「地獄」とか。時代もタッチも、たぶん描いているテーマも動機も全然違うのだろうけど、こちらはこちらで人間だったり人間じゃないものだったりが、あらゆる所であらゆる好き勝手なことをしている。どちらも雑多でにぎやか、現実の社会をギュッと潰してデフォルメしたような世界なのだ。

国宝 鳥獣戯画 丁巻(部分) 鎌倉時代 13世紀 京都・高山寺 通期

SF作家だった野田昌宏氏に「ラプラスの鬼」という短編がある。ここにグリューネ・ボッシュワルトというグリューネヴァルトとボッシュを合体させたような画家が登場する。《『地獄池の夢』とかいう、裸の女が百人位うようよしている気味のわるい絵》を描いたというのだが、その画集を見ていた「僕」はふと気付いてしまう。

《水責めに逢って悶え苦しんでいるその女性の傍で、その光景をいとも楽しげに手を打って喜んでいる薄汚れた三匹の豚がいるのだが、その豚の表情が、どう見ても〈佐渡の守〉と稲垣と僕の顔付きにひどく似ていることなのである…》

重要文化財 鳥獣戯画断簡(東博本) 平安時代 12世紀 東京国立博物館 通期

「鳥獣戯画」を「甲巻」から「丁巻」まで、さらに断簡の数々までじっくり見てみよう。人間、サル、ウサギ、カエル…うろつき回るその中に、あなたによく似た何かが発見できるかも。

(専門委員 田中聡)

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