【レビュー】 ついに最終章 「白川義員写真展 永遠の日本/天地創造」 東京都写真美術館(東京・恵比寿)で開催中

世界的写真家で山岳写真家としても知られる白川義員による、「地球再発見による人間性回復へ」を基本理念としたシリーズの最終章「白川義員写真展 永遠の日本/天地創造」が東京都写真美術館(東京・恵比寿)で開かれている。
「白川義員写真展 永遠の日本/天地創造」
東京都写真美術館(東京・恵比寿)
会 期 2月27日(土)~5月9日(日)
第1期 「永遠の日本」 2月27日(土)~4月4日(日)
第2期 「天地創造」 4月6日(火)~5月9日(日)
開館時間 午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
予約制なし 混雑時は入場制限あり
休館日 月曜日(5月3日を除く)
入館料 一般700円ほか
JR恵比寿駅東口より徒歩約7分 、地下鉄日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分
詳しくは同美術館ホームページへ
白川は地球がもつ美や神秘、荘厳さを追求して、1969年の『アルプス』以来、『ヒマラヤ』『アメリカ大陸』『聖書の世界』『中国大陸』『神々の原風景』『仏教伝来』『南極大陸』『世界百名山』『世界百名瀑』の10シリーズを発表してきた。今回はその集大成となる二つのシリーズを二期構成で紹介する。
第1期の展示はシリーズ11作目の「永遠の日本」。北海道の大雪山系から沖縄県の西表島まで、日本の風景を撮った130点の写真が並ぶ。白川は「四季が明瞭で色相の豊かな日本の風土が、繊細でたおやかな日本人の感性を生んだ」と言う。「その日本人の精神を育んだ感性を作品から感じ取ってほしい」と同美術館の関次和子・事業企画課長は話す。また、白川というと山岳写真のイメージが強いが、今回の展覧会を見ると海景にも強いこだわりを持つことが分かる。これは関次さんたちにも新鮮だったようだ。

《剣岳黎明》は日の出30分前、東の地平線上の空が赤く色づき始めたころ、空の反射を受けて東側の一部がわずかに変色した姿。劇的な色彩絵巻が始まる前の緊張が迫ってくる一瞬だという。《剣岳黄変》、日の出直後に赤く染まった雪山はオレンジ色から黄色に変わっていく。その赤が完全に抜ける直前の剣岳。《剣岳白景》は日の出後30分から1時間以内の風景。雪山は真昼になると青空の色が反射して青く写ってしまうのだという。ほぼ同じアングルの3枚。色と影の表情の対比が、それぞれの美しさを主張しているように見える。

昼間は噴火しても火はほとんど見えず写真にも写らないため、噴火の写真は夜に狙うしかない。この写真は計26日間、夕方から明け方まで噴火口をにらみながら、光ったらシャッターを切るという作業を繰り返したという。地球と言う“生き物”の激しい息遣いが伝わってくるようだ。

北海道大雪山系にある銀泉台から赤岳へ登る途上で撮影した。『永遠の日本』では全国4万か所、紅葉の名所も数多く撮影した。白川は「淡い緑に濃い緑、黄色にオレンジに真っ赤と、紅葉を見事に構成する色が豊に揃っている最高の場所」と書く。日本の自然の豊かな彩りが日本人の感性を育てたと言う白川の話が実感できる写真だ。


愛媛県の釣島の落日。白川は愛媛県で生まれ「自然に囲まれて育ち、子どもの頃に山に登って海を見た体験が大きい」(平澤綾乃・広報宣伝担当)のだと言う。《新舞子浜薄明》は播磨灘(兵庫県)の海岸線を夜明け前に崖の上から撮影したもの。《新舞子浜黄金光》は日の出の太陽光を撮ったもので、日の出から4~5分経ってオレンジ色になった太陽光が黄金色に変わるわずか15秒ほどの間に撮ったのだという。海景へのこだわりが納得できる写真が並ぶ。

和歌山県串本町にある大小40本の岩峰が850メートルにわたって立っている。白川は7月24日から4日間毎朝撮ったという。

壱岐諸島の島後の北西に海から20メートル突き出たローソク岩。夕陽がこの頂上に落ちると、ローソクに灯がともったように見えることからこの名が付いた。白川は船の上からこの撮影している。観音岩は海側から見ると百済観音の姿に似ているのでこの名が付いたという。この写真は陸上から撮ったが、前方が崖で「あと5メートルカメラ位置を下げることができなかった」のだそうだ。それぞれの岩の名の由来が良く分かる。同時に狙った写真を撮るための執念もよく分かる。
第2期は「天地創造」。これまで世界中で撮った写真を中心に196点を展示する。文字通りシリーズの最終章となる。白川はこのシリーズを始める時に12作で終えると決めていたのだそうだ。写真を撮る基準は「発見があるか」「感動があるか」。1962年にヨーロッパアルプスを撮り始めてから、2018年に「天地創造」の最終作を撮り終えるまで58年。すべてを撮り切ったと言う。


白川の写真集は同美術館の図書室で見ることができる。予約制だが空いていればその場で見ることも可能。
(読売新聞事業局美術展ナビ編集班・秋山公哉)