【レビュー】計り知れないスケール、その深淵に触れる 「デビュー50周年記念 諸星大二郎展 異界への扉」 イルフ童画館(長野県岡谷市)

諸星大二郎「妖怪ハンター」 カラー原画 1998年 ©諸星大二郎

デビュー50周年記念 諸星大二郎展 異界への扉

2021年1月24日(日)~3月13日(土)

イルフ童画館(長野県岡谷市、JR岡谷駅から徒歩5分)

入館料:一般510円、中・高校生310円、小学生160円

今後の巡回予定:北九州市漫画ミュージアム(福岡県、3月20日~5月23日)、三鷹市美術ギャラリー(東京都、8月7日~10月10日)、足利市立美術館(栃木県、10月23日~12月26日)

主要作の原画や豊富な資料が楽しめる展示会場

現代の漫画界を代表する鬼才、諸星大二郎(1949~)のデビュー50周年を記念した展覧会。「妖怪ハンター」「西遊妖猿伝」「暗黒神話」「孔子暗黒伝」「栞と紙魚子」「マッドメン」等の代表作の原画など230点を紹介するのをはじめ、諸星氏の作品世界に関わりの深い美術作品や歴史・民俗資料などを合わせて展示。読み手を「異界」へと導く独特の世界観の原点をさぐっていく意欲的な内容だ。北海道立近代美術館(札幌市)で昨年11月21日に開幕し、年末までに全国計5か所を巡回する。

稗田礼二郎、悟空、無支奇(西遊妖猿伝)ら人気キャラクターが勢ぞろいした展覧会のメインビジュアル。諸星氏書下ろしの鉛筆画でこれだけでも貴重品だろう

諸星氏は長野県軽井沢町に生まれ、東京都足立区で幼少期を過ごす。公務員生活を経たのち、1970年に「ジュン子・恐喝」で漫画家デビュー。以後、圧倒的な想像力と構築力、博覧強記を駆使し、現実と異界や古代世界を自在に往還する独自の作品群で多くのファンをつかんだ。専門家からも高い評価を受け、2000年に第4回手塚治虫文化賞マンガ大賞、2008年に文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、2014年に芸術選奨文部科学大臣賞、2018年に第47回日本漫画家協会賞コミック部門大賞など受賞は多数。宮崎駿氏や庵野秀明氏ら影響を受けたことを公言しているアーティストも多い。現在も活発な創作活動を展開しており、多くのクリエイターに有形無形の影響を与え続けている。

諸星大二郎『暗黒神話』より「天の章」本文原画 1976年 ©諸星大二郎
諸星大二郎『マッドメン』より「変身の森」扉絵原画 1981年 ©諸星大二郎
諸星大二郎「西遊妖猿伝」 カラー原画 1998年 ©諸星大二郎
諸星大二郎「栞と紙魚子」カラー原画 2015年 ©諸星大二郎

ほとんどアシスタントを使わず、背景など含めて一人で書き続けてきた作品の原画はファン必見。単独のイラストレーション作品も展示されており、作画の力量を感じ取ることができる。

館内には諸星氏の作品世界に関連する内外の民俗資料や文献、絵巻、美術作品も展示されており、改めて極めて広範囲な知識と教養の裏付けが、創作の背景にあることを思い知る。

作品の登場キャラクターから来館者が一人を選んで人気投票をするコーナーもある。早見表として掲示された<諸星キャラ100選>のキャラクターだけでも目移りするが、河西見佳学芸員は「こちらが選んだ100選以外から投票される方も多く、『それはどの作品に出てきた誰?』ということもある。作品世界の豊かさとファンの思い入れの強さを感じます」と話す。最終結果は巡回展の最後となる足利市立美術館(栃木県)で発表されるという。

ファン垂涎のグッズも多彩だ。ぜひ先立つものを用意して来館したい。

「イルフ童画館」は地元出身の童画家、武井武雄(1894-1983)の童画や版画、書籍などを豊富に所蔵する。「イルフ」とは武井の造語で、「古い」を反対から読んで新しい、という意味を込めた。

常設展でも諸星大二郎展と連動し、武井の制作した西遊記のストーリーなどを紹介している。こちらも完成度の高い作品ぞろいで、ぜひ合わせて鑑賞したい。

巡回最初の北海道立近代美術館、今回のイルフ童画館と、コロナ禍に見舞われる催しとなっているが、河西学芸員は「こういう状況ですが、来館者の出足は好調です。遠隔地から来られるケースも珍しくなく、一人で来られて長時間作品と向き合う方が目立ちます。私たちが知らないような情報や作品の背景を知っている方もおり、ファンから教えられることが多い素晴らしい催しです。諸星先生の世界の広がりを実感します」という。

まだまだ気軽に外出できるとは言えない状況ではあるが、機会をみつけて出かけてみてはいかが。

童画館は諏訪湖にほど近いJR中央線・岡谷駅から徒歩5分ほど。

途中は「童画館通り」という小ぎれいな通りになっており、散歩も楽しそう。詳しくは同館ホームページへ。

(読売新聞東京本社事業局美術展ナビ編集班 岡部匡志)

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