【好評につき会期延長】ネットで楽しむアート体験 茅ヶ崎市美術館の試み

依然として先の見えないコロナ禍。美術館にとっては展示や研究とともに活動の柱である教育普及活動の面でも、地域の人や子供たちを集めてワークショップなどを行うことはまだまだ難しいのが実情だ。
こうした中、茅ヶ崎市美術館(神奈川県茅ケ崎市)では、インターネットを介して、無料でアートの鑑賞や創作ができる「ネットで楽しむ つくる アート体験」を提供している。会期は2月28日(日)までの予定だったが、好評のため3月28日(日)まで延長された。
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3人のクリエイターがこの企画のために制作した新作をネットで楽しめる。単に見るだけではなく、それぞれ利用者にとってのアクテビティの要素があり、主体的な気づきがある。概要は以下のとおり。
<1>クリックでよむ絵本『あなた』(2021)
若見ありさ(アニメーション作家)
お腹の中の赤ちゃんが、受精してから生まれるまでの成長度合いを、身近な果物などにたとえて表現している。「3か月 あなたはいちご」「8か月 あなたはかぼちゃ」など。砂で描いた絵に写真と文字が組み合わされ、550枚もの画像が使われている。膨大な手作業で動いて見える作品が出来上がっている。

利用者がクリックすることでページが前に進むが、通常の絵本や動画と異なり、この作品はページを戻すことができない。それによって「命の尊さ」「自分や他人を大切にすること」の重要性を訴えかけている。
<2>クリックでつくる絵画『茅ヶ崎の海辺』(2021)
高尾俊介(クリエイティブコーダー)
マウスを動かすと絵が変わる。置く場所によって海面が静かになったり、波が押し寄せたり、と海の状態が変化。刻々と様相を変える自然を表現する。プログラミングコードの数字を変えてさらに動きの違う波を創造、自分の好きな波を作って楽しむことができる。

制作の高尾氏はこの方法で、日記を書くように毎日、様々な作品を作っている。この体験を通して、私たちが日々見たものや感じたものは、絵具や筆を使わなくても表現できることに気づいてもらう。
<3>『クリックで奏でるオルゴール』(2021)
久世祥三(アートユニット MATHRAX・エンジニア)
クリックする場所に合わせて特定の音がなり、いろいろな場所をクリックすると音が連続して、自然と音楽になっていく。和音も出せる。何気なくクリックしたものでも不思議と「らしく」聞こえるのが楽しい。

音の高さや鳴る速さを変えることもでき、画面の背景に自分の好きな写真を取り込んで、その写真の形に沿ってクリックすることで絵を描くように音楽を作ることもできる。形や音、色も含めて複合的に楽しめる。出来上がった作品を他の人に送ることもできる。
同美術館では「見るだけはない、自分でつくるネットアートが体験できます。子供から大人まで楽しめるように工夫しているので、ぜひ気楽にチャレンジしてほしいです」と話している。
(読売新聞東京本社事業局美術展ナビ編集班 岡部匡志)