【リポート】巨匠に捧げる究極のオマージュ 桑久保徹展 茅ヶ崎市美術館

《フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホのスタジオ》 2015年 油彩・カンヴァス 木俣博文氏蔵 ©︎Toru Kuwakubo, Courtesy of Tomio Koyama Gallery  photo by Kenji Takahashi

桑久保徹 A Calendar for Painters Without Time Sense.  12/12

茅ヶ崎市美術館(神奈川県茅ケ崎市)

2020年12月12日(土)~2021年2月7日(日)

 気鋭の画家、桑久保徹(1978~)の個展。自分の中に「架空の画家」を見出し、「彼に描かせる」という演劇的アプローチで知られる。今展でも、美術史上の巨匠本人が乗り移ったかのようなリアルな筆致と、現代性を強く帯びた画面構成の妙で、ワクワクさせる作品がそろった。

湘南海岸近くの林に囲まれ、ゆったりした時間の流れる茅ヶ崎市美術館

出品された「カレンダーシリーズ」は、美術史上の巨匠をオマージュし、6年がかりで制作された大作。桑久保が選んだ12人の画家を、それぞれ12か月にあてはめ、各人の名作をちりばめたカレンダーの絵にするという趣向だ。組み合わせは「1月ピカソ」「2月ムンク」「3月フェルメール」「4月アンソール」「5月セザンヌ」「6月ボナール」「7月スーラ」「8月ゴッホ」「9月ホックニー」「10月マグリット」「11月モディリアーニ」「12月マティス」。背景は共通して海辺となっており、一貫性をもたせている。鑑賞していると、まるでそれぞれの画家のアトリエに入り込んだような不思議な気分になる。

展示会場には大型の作品がならび、見応えたっぷり

ゴッホなら激しい厚塗り、スーラなら点描、とそれぞれの作家のタッチや技巧が見事に再現され、かつ独自の世界観の基に再構成されている。

《パブロ・ピカソのスタジオ》 2017年 油彩・カンヴァス 林郁氏蔵 ©︎Toru Kuwakubo, Courtesy of Tomio Koyama Gallery  photo by Kenji Takahashi
《ポール・セザンヌのスタジオ》 2015年 油彩・カンヴァス 作家蔵 ©︎Toru Kuwakubo, Courtesy of Tomio Koyama Gallery  photo by Kenji Takahashi
《ヨハネス・フェルメールのスタジオ》 2016年 油彩・カンヴァス 株式会社ギオン蔵  ©︎Toru Kuwakubo, Courtesy of Tomio Koyama Gallery  photo by Kenji Takahashi

作品を間近でみるとさらに面白い。《真珠の耳飾りの少女》《糸杉と星の見える道》《カード遊びをする人々》《ゲルニカ》といった有名な作品がふんだんに表れ、さらにアトリエにありそうな道具類や家具が巧みに配置されている。各画家の人となりや実際に身の回りに置いていたものなどを調べる取材に時間をかけたといい、制作に1年近くをかけた作品もある。背景の海や自然も緻密だ。

《ヨハネス・フェルメールのスタジオ》の部分

桑久保は各画家のタッチを研究したが、実際に作品化する段階では個々の作品の画像を見ていないものもあるという。自分の中で咀嚼したものを描くといい、細部は実物と異なっているものもあるが、全体のイメージはむしろ違和感なく伝わってくる。多くの素材をまとめ、全体の統一感を持たせる力量を感じる。

《ジェイムズ・アンソールのスタジオ》2015年 油彩、カンヴァス 個人蔵、香港

《ジェイムズ・アンソールのスタジオ》の部分 ゴツゴツした厚塗りでマチエールが際立っている。

油彩画に対応したモノクロのドローイングもカレンダーになっており、1年分をまとめて展示している。それぞれにセットされたレコード盤には、作曲家の日高理樹が各作品をイメージして制作した楽曲が収録されている。会場にも静かにこの音楽が流れている。

担当した鈴木伸子学芸員は「巨匠への究極のオマージュといってよい作品群で、かつ今の私たちの生活や時間ともしっかり繋がっている点がユニーク。作品を鑑賞しているとそれぞれの作家のアトリエを訪れているようで、作品の中に入っていきたくなる魅力があります」と話していた。

詳しくは同美術館ホームページへ。

(読売新聞東京本社事業局美術展ナビ編集班 岡部匡志)

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