「がまくんとかえるくん」誕生の舞台裏をつぶさに アーノルド・ローベル展(PLAY! MUSEUM)

「がまくんとかえるくん」誕生50周年記念 アーノルド・ローベル展
2021年1月9日(土)~3月28日(日)
PLAY! MUSEUM(東京・立川)
仲良しの二人のかえるの物語「がまくんとかえるくん」で知られる絵本作家、アーノルド・ローベル(1933-1987)。その生涯を振り返る日本初の展覧会が東京・立川の「PLAY! MUSEUM」で開催されている。
ローベルはロスアンゼルス生まれ。生後間もなく父親が家を離れ、ニューヨーク州の母方の祖父母に育てられるなど苦難の多い幼少期を過ごす。病気がちで学校嫌いだったが、間もなく絵の才能を発揮するようになり、ニューヨーク・ブルックリンの美術大学へ進学。若くして結婚して子供ができたこともあり、卒業後はしばらく広告の仕事に携わった。

相前後して政府が推進した教育制度改革に伴い、アメリカの絵本市場が急速に拡大。ローベルもその波に乗る形で1962年、29歳の時に「マスターさんとどうぶつえん」という作品で絵本作家デビューを果たした。この本がニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞を受賞するなど、アーティストとして当初から高い評価を得た。
会場には「がまくんとかえるくん」以外にも、ローベルの主要作品が初期作から紹介されており、その自由自在な作風に才能の冴えを感じる。


Collection_of_The_Eric_Carle_Museum_of_Picture_Book_Art,_Gift_of_Adrianne_and_Adam_Lobel,_The_Estate_of_Arnold_Lobel._©_1971_Arnold_Lobel

「がまくんとかえるくん」は、順調にキャリアを積んだローベルが、満を持して発表した代表作だ。1970年にシリーズ第1作の「ふたりは ともだち」を出版。72年「ふたりは いっしょ」、76年「ふたりは いつも」と続き、79年の第4作「ふたりは きょうも」でシリーズは完結した。展覧会場でも大きなスペースを取ってこの作品の魅力と成り立ちを紹介している。
子どもに優しい、この美術館ならではのシンプルで柔らかな風合いの展示が作品世界とマッチして心地よい。昨今のせわしない世情をしばし忘れる。
一番のみどころは、作品の成立過程を追った「がまくんとかえるくんができるまで」のコーナー。ローベルのスケッチや構想ノート、ページ割り案などが展示されている。編集者との丁々発止のやり取りもメモ描きなどに残されており、妥協のない共同作業で作品が生み出されたことが分かる。絵本作家やイラストレーターを目指す人はもちろん、編集や制作に関心がある人にもぜひみてほしい。
教科書にも取り上げられ、とりわけ知名度の高い「おてがみ」。最後にかたつむりが手紙を届ける場面は、当初の案では、がまくんがひとりで受け取る形だった(下の図のスケッチ)。

この場面、最終的にはふたりでそろって受け取っている。作品の完成度を高めるために様々な試行錯誤があった。
ローベルは家にいることが好きで、家族を大切にした。妻のアニタも多忙な絵本作家で、ローベルは率先して二人の子育てにも取り組んだという。人生の終盤で同性愛であることを家族にカミングアウトし、家を出るという大きな出来事もあった。そして54歳の若さでこの世を去る。そうした彼の精神世界や境遇が作品とどう関わっているのか、という視点で鑑賞することも可能だろう。

会場ではアニメーション作家の加藤久仁生によるショートムービー「一日一年」も上映されている。「がまくんとかえるくん」の様々な場面を引用しつつ、オリジナルの要素と組み合わせた独自の作品。ローベルの遺族が作品を鑑賞して、「本人が作ったかのようだ」と驚いたほどの出来栄えだ。
グッズコーナーも充実している。ファンにはたまらないだろう。あいにく厳しいコロナ禍の時期に開催がぶつかったが、会場には熱心なファンが訪れており、グッズもよく売れている。
同展は今年4月3日(土)~5月23日(日)でひろしま美術館(広島市)、また2022年春には伊丹市立美術館(兵庫県伊丹市)と、東北地方への巡回が予定されている。同館では「会期末まではまだあり、巡回展も予定されているので、タイミングや場所をみて来場を検討していただければうれしいです」と話している。
詳しくは同展ホームページへ。
(読売新聞東京本社事業局美術展ナビ編集班 岡部匡志)