【プレビュー】 一度見たら忘れない 「あやしい絵展」 東京国立近代美術館で3月23日から

妖しい、怪しい、奇しい…神秘的で不可思議で奇怪。一度見たら忘れられない。「美しい」という言葉だけでは表せない絵たち。この「あやしさ」は見てみないと分からない。そんな絵を集めた「あやしい絵展」が3月23日から東京国立近代美術館(東京千代田区)で開かれる。
明治期、西欧美術の技法が本格的に導入され、さまざまな制作がされた。その中には退廃的、グロテスク、エロティックといった言葉で形容されるものがあった。美しいという言葉では説明できないこれらの表現は、美術界の一部からは批判を受けるが、文学等をバックに大衆の中に広まっていく。「あやしい絵展」では幕末から昭和初期に制作された絵画、版画、雑誌や書籍の挿図などから、こうした表現を日本の画家たちに影響を与えた西洋美術の作品も合わせて紹介する。
幕末~明治
激動の幕末、人々の関心は縁日の化け物細工やグロテスクな人形、説話などに基づいた凄惨な場面の絵など奇怪、エロティックといったものに向かった。人々はこうした表現を見ることで不安を解消し、作品の持つエネルギーから生きる力を得ていたと言える。

ビリビリに割いた文を口にくわえた女性。顔には出さないが、内に秘めた感情の激しさを表わしている。

「魁題百撰相(かいだいひゃくせんそう)」は制作当時に起きた戊辰戦争の見立て絵の性格をもち、戦った者への芳年の共感がうかがえる。
明治~大正
明治以降、西洋からの影響で価値観も大きく変化。人間の心の奥底に潜んだ欲望は赤裸々になり、さまざまな形を借りて表現されるようになる。見る側も自分の心の中にある欲求や願望をそこに重ね合わせた。

意味深な視線。満開の朝顔が茂る垣を背景に、着衣から美しい首元をのぞかせる女性。こちらに向けられた大きな瞳は優しいが、吸い込まれそうな不思議な深さを感じさせる。

「古事記」に材を取った作品。大穴牟知命(おおなむちのみこと)が兄弟の神々の陰謀で殺されたところ、女神の介抱で生き返った話。裸の男性と介抱する女性の構図は聖セバスティアヌスなど西洋美術に複数の典拠が確認される。

安珍・清姫伝説のクライマックスシーン。物語では安珍の隠れた鐘に蛇の清姫が巻き付いて焼き殺すが、この絵では透視のように鐘の中が描かれている。

美しく装った女性だが、よく見ると白粉で隠されたはずの血の通った肌の生々しさがにじみ出ている。開ききった背景の花も相まって、爛熟した官能的な雰囲気があふれる。

壮絶な悲しみと怒り。前屈みにうつむき、髪を噛む女性。蜘蛛の巣と藤の花の模様の着物も不気味。「源氏物語」の六条御息所に材を取った作品。愛する光源氏の正妻・葵の上への嫉妬の末、生霊となった彼女は葵の上を殺してしまう。

不穏な空気、死への道程。近松門左衛門の戯曲「心中天網島」に材を取った絵。悲しげな女の表情、顔を背ける男の仕草。道ならぬ恋の成就を求めて死を選ぼうとする二人の決心がうかがえる。不穏な空気を醸し出すカラスの存在も悲劇の到来を暗示する。
西洋美術の影響
アルフォンス・ミュシャ、ダンテ・ガブリエル・ロセッティ、オーブリー・ビアズリー、エドワード・バーン・ジョーンズなど日本の画家に影響を与えた西洋美術の作品も展示される。

惹き込まれるような魔性。マドンナ・ピエトラはダンテの詩に詠われる女性で、彼女に恋する男は石に閉じ込められてしまう。
大正末~昭和
大正12(1923)年の関東大震災を境に社会構造は大きく変わる。急激な社会の変化は人々に精神的な疲弊をもたらした。彼らが日常に刺激を求めたことで、探偵・怪奇小説が人気を呼び、エロティック、猟奇的でグロテスクなものを扱った出版物がブームとなる。

大人びた視線。うっすらと開いた目と口。なんとも言えない色気を見せる少女。「少女画報」の表紙絵だ。
展覧会の音声ガイドナビゲーターは声優の平川大輔が務める。平川は劇場版「鬼滅の刃」無限列車編や映画「アベンジャーズ」、「ロード・オブ・ザ・リングス」などの吹き替えで活躍中。
「あやしい絵展」
東京国立近代美術館(東京千代田区)
2021年3月23日(火)-5月16日(日)
前期:3月23日(火)~4月18日(日)
後期:4月20日(火)~5月16日(日)
会期中展示替えあり
7月3日(土)―8月15日まで
大阪歴史博物館に巡回の予定
詳しくは同展公式ホームページへ
(読売新聞事業局美術展ナビ編集班・秋山公哉)