「絵筆ふるう七之助さんの姿に、若冲そのものを見た」 話題の時代劇「ライジング若冲」 <完全版>放送前に川崎直子プロデューサーに聞く

全身全霊をかけて絵筆をふるう若冲(中村七之助)のシーンはとりわけ印象的だった

大人気の若冲とその友人の僧侶を中心に、応挙ら当時の京の絵師たちの世界を生き生きと描いたNHKの正月時代劇「ライジング若冲  ~天才 かく覚醒せり~」。美術ファンはもとより、主役二人の大胆な設定もあって様々な層から熱い支持を集めた。1月16日(土)夜9時からはBSプレミアムで90分に拡大した「完全版」も放送される。この放送を前に川崎直子プロデューサーにリモートでお話を伺った。(聞き手・読売新聞東京本社事業局美術展ナビ編集班 岡部匡志)

石橋蓮司、中川大志、大東駿介ら助演陣も豪華な顔ぶれ

「ライジング若冲」・・天才絵師の伊藤若冲(中村七之助)、若冲の熱心な支援者だった僧侶の大典顕常(永山瑛太)の二人を主役に据え、若冲の代表作「動植綵絵(どうしょくさいえ)」誕生の過程を想像力豊かに描いた。円山応挙(中川大志)や、池大雅(大東駿介)と池玉瀾(門脇麦)の夫婦ら、当時の京で活躍した絵師たちも若冲と様々な形で関わる。若冲と大典の同性愛を暗示するシーンも話題を集めた。

『動植綵絵、圧巻だった』反響止まらず、あのプライスさんも感激

―――2日夜の放送後の反響はいかがでした。

「放送から一週間以上経っても、ツイッターで続々とコメントが増え続けています。この仕事を長くやっていますが、こんな経験は初めてでびっくりしています。『動植綵絵のシーンが圧巻だった』『映像が美しかった』『出演者の演技に魅了された』『アート時代劇という新しい世界を開いた』など様々な声をいただいています」

「若冲を世に広めたことで有名なジョー・プライスさん(※1)も、カリフォルニアで番組を見てくださったそうで、妻の悦子さんからメールが届きました。プライスさんは映像の美しさに感激していたそうです。プライスさんとともに、日米で若冲の魅力の発信に尽力した悦子さんも、『若冲や大典、当時の京都の人々と共に生活できたような錯覚で、涙、涙であっという間に時間が過ぎてしまいました。夜も涙で寝付けませんでした』と熱い感想を寄せてくださり、こちらも作り手冥利につきます」

若冲の作品を論じ合う大典(永山瑛太)とのちの円山応挙(中川大志)

突出した才能があふれた時代 青春群像劇にぴったり

―――若冲をドラマにする、というアイデアはどこから。

「2007年に京都の相国寺承天閣美術館で『動植綵絵』30幅を同時に見た時の衝撃と高揚感が忘れられなくて。ミケランジェロの『最後の審判』をバチカンで見たときと同じぐらいの、尋常ではない何か、を感じました。ただ、NHKでは若冲の美術番組はたくさん制作されているので、自分にチャンスが回ってくるとは思っていませんでした」

「若冲というと実像のよくわからない、孤高の画家というイメージが強いと思うのですが、大典は若冲について『女性に関心もなく芸事もよくしない。字も昔は下手だった』などとプライベートのことを突っ込んで記しているぐらいですから、よほど親しかったに違いなく、大典との関係はおもしろいだろうと。当時の京は応挙や大雅ら突出した才能が同時に活躍していた時代で、青春群像劇みたいにすればエンターテインメントになるだろうとは想像していました」

川崎直子さん NHKエンタープライズ 制作本部情報文化番組部エグゼクティブプロデューサー 「美術番組をやりたかったがなぜか今はドラマを中心に」制作にあたる。最近手掛けた番組は「スローな武士にしてくれ」「完本怪談牡丹燈籠」「怖い絵本」など。

「脚本と演出を担当した源孝志監督(※2)にそうしたアイデアを相談したところ、思いのほか乗ってくれて、昨年春ぐらいから徐々に動き出しました。ちょうど京都の福田美術館で若冲の最初期の作品『蕪に双鶏図』が初公開され、(最初の)緊急事態宣言明けに、源監督が福田美術館で実物を見ることができました。これによって、『蕪に双鶏図』が若冲と大典が出会うきっかけになる、というアイデアが生まれました。タイミングにも恵まれました」

―――コロナ禍を縫うような制作過程になりましたね。

「もともとは夏に収録をしたかったのですが、コロナで出演者の予定も大きく変わり、スケジュールが揃うのが9月にずれ込むなど、影響はありました」

―――「動植綵絵」をはじめ、画面に現れる作品が本物そっくりなのには驚きました。若冲らが描くスケッチも作家の個性がよく出ていて、作品のクオリティを高めていました。

「所蔵している宮内庁三の丸尚蔵館などから、素晴らしい画像データを提供していただきました。京都東映さんを通じて最先端の印刷技術を有する方からも特別なご協力が得られ、これは本物?と見紛うレベルでした。協力してくださったアーティストの方々には、かなり無理を言って絵をたくさん描いていただきました」

視聴者からは『動植綵絵のシーンは特に圧巻だった』という声が相次いだ

「絵筆をふるう動き、日本舞踊に通じる」

―――七之助さんの演技には引き込まれました。特に絵筆をふるうシーンの迫力はすごかったです。永山瑛太さんの美僧侶ぶりも際立っていました。

「七之助さんは、現場では『中村家に絵心のある人間はひとりもいませんよ』と笑いを取っていましたが、実際は撮影に入ると圧倒されました。ご本人によると、絵筆をふるう際の身体の使い方は、日本舞踊と同じだそうで、歌舞伎俳優さんならではの美しい所作。作品制作の場面になると、スッと目に力が入って、主人公の若冲そのものを見るような気がしました。父譲りの天才肌の俳優の姿にしびれました」

「設定上、大典はとにかく美形でなければ、と(笑)。瑛太さんはまさにイメージ通り。漢文調の長いセリフもあって難役だったと思うのですが、もともと歌舞伎をよくご覧になっていて、『七之助さんと共演できるのであれば』と、とても前向きに取り組んでくださいました」

―――主役二人の関係は大胆な設定でした。従来のイメージとは違う若冲像が新鮮でした。

「あくまでお正月のエンターテインメントなので、源監督にはかなり想像をたくましくしてもらいました。本当はどんな人だったのでしょうね。若冲の研究をなさっている方から苦情がきたらどうしよう、とおっかなびっくりだったのですが、今のところそういう声は聞こえてきません。楽しんでいただいたようで、とりあえずホッとしています」

若冲の才能にほれ込んだ大典。「完全版」では二人の関係がさらに深く描かれるという。

完全版、「足元を照らしあった」二人の関係をさらに深く

―――「完全版」は何が付け加わるのだろう、とファンは期待しています。

「若冲が『動植綵絵』の制作に取り掛かり、大典がいったん寺を離れたあと、完成するまでの間にあったエピソードなどが入ります。応挙や大雅の場面もあります。90分に伸ばしてもまだカットした場面があるぐらいで、一層、見応えがあるものになると確信しています。美術ファンにはもちろん、若い方にもぜひ見てほしいです」

―――若冲と大典はお互いに「足元を照らす光」だった、という一節が心に残りました。

「源監督が考えたセリフで、監督も『いい言葉だろう』とうれしそうでした。画家に限らず、どんなアーティストにとっても、足元を照らしてくれる存在が大切なのかもしれません」

「ライジング若冲 ~天才 かく覚醒せり~」

1月16日(土) BSプレミアム 午後9時~10時30分<完全版>

詳しくは番組HPへ。

(※1)ジョー・プライス(1929-) 若冲作品のコレクションで知られるアメリカの美術蒐集家。20歳代の時にニューヨークの古美術店で若冲の作品に出合い、魅了されたことをきっかけに有数の日本絵画コレクションを築いた。プライス氏の所蔵品が逆輸入される形で日本に紹介され、若冲の評価を高めることに貢献した。妻の悦子さんとは日本訪問で知り合った。

(※2)源 孝志(1961-) 脚本家、映画監督。映画「東京タワー Tokyo Tower」、ドラマ「京都人の密かな愉しみ」などを手掛ける。昨年、ドラマ「スローな武士にしてくれ」「完本怪談牡丹燈籠」などで芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。

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