【映画レビュー】「ルーブル美術館の夜-ダ・ヴィンチ没後500年展」

「世界で最も有名な肖像画は『モナリザ』である」ことに異論を唱える人は少ないだろう。2018年の年間入場者が1,000万人を超えたルーヴル美術館の展示室「国家の間」は、彼女の謎の微笑みを見よう、撮影しようとする人でいつも黒山の人だかり。その絵を描いた画家レオナルド・ダ・ヴィンチは、『万能の天才』と言われ生前から尊敬を集めていた。なぜ天才と言われるのか。何が革新的なのか。その問いに真正面から答えてくれるのがこのドキュメンタリーだ。

 

レオナルド・ダ・ヴィンチは、フランス王フランソワ1世に招かれて滞在していたロワール地方アンボワーズで逝去した。完璧主義者そして遅筆で、現存する作品が20点に満たないなか、ルーブル美術館は5点のダ・ヴィンチ油彩画を所蔵する。もちろんその数は世界一だ。2019年は没後500周年にあたり、ルーヴル美術館は 『満を持して』大規模な回顧展を開催した。ジャン=リュック・マルティネズ館長は1年以上前から折に触れてこの展覧会について言及し、館としての期待が高いことを示していた。展覧会にはアトリエの手が加わっているとされるものを含めて油彩が11点、素描・手稿など計160点を超える作品が一堂に集まる『世紀の展覧会』となった。

 

混雑が予想されたため、展覧会は全日程で日時指定制となったが、早い段階でチケットは完売。会期の最後は72時間通してオープンするなど、多くの話題を集めながら、最終的に107万人という記録を作り大成功を収めたが、一方で見学が叶わなかった人も多かった。

 

このドキュメンタリーフィルムは、展覧会を見た人にも、見なかった人にも、その真髄を十分に堪能させてくれる。「ルーヴル美術館の夜」とタイトルにあるように、ひとけのない会場を落ち着いたナレーションとバロック音楽とともに、親密に、じっくりと探訪する。案内役は、展覧会の監修者でルーヴル美術館の絵画部門主任学芸員ヴァンサン・ドリューヴァンと素描・版画部門統括学芸員ルイ・フランク。美術史家の彼らは、ダ・ヴィンチの芸術を検証するにあたり一つの軸を選んだ。画家自身が使っていた『絵画の科学』― 絵画は世界を再構築し得る神聖な科学であるという概念で、彼の信念とも言えるものだ。
果たして魂と感情を描き込めるのか。どのように命という形のないものを感知させることができるのか。そのための実践方法と絵画のテクニックを、丁寧に、わかりやすく、そして知的に説明してくれる。

 

陰影を取り入れたカメラワークの美しさ。資料映像などは一切ない潔さ。徹底的に作品に寄った内容。このドキュメンタリーを見て「sobreな(余分なものが削ぎ落とされた)美しさ」という言葉が頭に浮かんだ。ダ・ヴィンチについて学び、作品を鑑賞するだけではない。フィルムが一つの映像作品として成立しているのだ。日常から少し離れてルネサンスという時代を感じながら、濃密な時間を楽しめることは間違いない。

 

文:今津京子
展覧会プロデューサー。パリをベースに「モネ展」(2015年)、「ルーヴル美術館展」(2018年)、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」(2020年)など、これまでに日本国内で数十の大型展覧会を手がけた。

■映画「ルーブル美術館の夜 ― ダ・ヴィンチ没後500年展」公式サイト■

https://liveviewing.jp/contents/louvre/

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