迫力の下絵 「河鍋暁斎の底力」展 東京ステーションギャラリー(東京駅丸の内北口)で開催中

《日本武尊の熊襲退治 下絵》(左端)など河鍋暁斎の下絵が並んだ会場

すべて下絵・画稿類

完成した作品である本画は一切無し。河鍋暁斎(きょうさい)の下絵や素描、画稿、宴席などで即興で描かれた席画、絵手本ばかりを集めた展覧会「河鍋暁斎の底力」展が東京ステーションギャラリー(東京駅丸の内北口)で開かれている。会期は27()まで。

河鍋暁斎は江戸から明治にかけて活躍した絵師で、毎年のように国内で展覧会が開かれるほど人気がある。すべての行動は絵を「描くため」。師匠から「画鬼」と言われた暁斎の描写力は高い評価を得ている。しかし、本画は完成度が高い一方で筆勢が抑制的で、彩色などは弟子の手が入ることもある。今回の展示された下絵や画稿類は100%暁斎の手になるもので、筆の勢いや執拗なまでの描き込み、瞬発の構想力など卓越した筆力をまざまざと見せつけてくれる。

《象 写生》、1863(文久3)年、 河鍋暁斎記念美術館

象の見世物を見物して描いた写生図。目の色を指定した書き込みがある。ここで実際に象を見て生態を理解した暁斎は、さまざまな曲芸をさせた戯画へと発展させていく。

避難させ保存・修復

展示されたものはほとんど河鍋家に代々受け継がれ、河鍋暁斎記念美術館(埼玉県蕨市)に伝わった収蔵品。河鍋家では昭和19年の建物強制疎開の際に、東京・赤羽の家から下絵や画稿の詰まったいくつもの桐箱を、疎開先の蕨まで荷車で運んだのだという。その後も虫干しをし、貼り合わせて一枚にしたが年を経てバラバラになってしまった下絵の修復作業を続けて来た。暁斎の曾孫で同美術館館長の河鍋楠美さんは「本来下絵は人に見せるものではなく、日本では紙屑と言われた。でも、欧米では高く評価される。暁斎がいかに努力して絵を描こうとしたか見て欲しい」と言う。また、下絵だけの展覧会はもう開く予定はないと言う。今回は貴重な機会でもある。

一部の下絵は透明なボードに展示され、裏側からも見えるようになっている。

 

下絵だから見えるもの

「下絵とは設計図のようなもの。見る機会はほとんどないが、そこから見えてくるものもある。絵のために生まれてきたような暁斎の本質を見て欲しい」と、今回の企画の提案者でもある学芸室長の田中晴子さんは語る。

画面を埋め尽くすように描き込まれた無数の線の迫力も、下絵・画稿類の見所。衣服の襞や髪の毛、顔や身体の皺など、本画では整理されてしまう細部が執拗に描かれている。

《河竹黙阿弥作『漂流奇譚西洋劇』米国砂漠原野の場 下絵》、1879(明治12)年、 河鍋暁斎記念美術館

歌舞伎狂言の宣伝のために描かれた行燈絵の下絵。断片の状態でまとめられていたのを修復した。

 

《女人群像 下絵》、制作年不詳、河鍋暁斎記念美術館

時代の異なる衣装や髪型、好みや身分の異なる女性像を同一画面に描いた。5ブロックに別けることができる。独立した絵として描かれた場面を再構築したもの。この制作過程は近代絵画の技法コラージュに近いものがある。

 

本当の実力

料亭などに招かれた書画家たちの作品をその場で注文し、実作も見られた一種の興行である書画会。暁斎は当日の様子を伝える「書画会図」をしばしば描いたが、他の書画家と合筆した作品も多い。下の作品も4人の書画家と合筆している。

《書画展覧余興之図》、1881(明治14)年頃、 河鍋暁斎記念美術館[展示期間:1/2~2/7]

暁斎はある席画で、1日に118枚を描いたという逸話もある。即興的に描かれる席画は軽く見られがちだが、絵師の本当の力は意外とこちらの方に現ると言えるかも知れない。

 

ピースの発見

バラバラの紙片の中から新たなピースが見つかった《鳥獣戯画 猫又と狸 下絵》。今回が初公開。絵の上の部分に木の枝からぶら下がる鼠たちが加わった。2匹の鼠が枝にしがみつきながら、棒の先に付けた蝋燭で猫又の顔を照らしている。歌舞伎の舞台で用いられる「面灯り(つらあかり)」だ。さらにその上には烏帽子をかぶった囃子方の鼠もいる。

《鳥獣戯画 猫又と狸 下絵》、制作年不詳、河鍋暁斎記念美術館

長年にわたり暁斎の下絵修復に携わってきた大柳久栄さんによると、このピース発見のきっかけは、紙の汚れ具合や胡粉での修正部分が似通った2枚の鼠の絵があったことだと言う。試しに2枚をつなぎ、汚れを落として皺を伸ばすと、2匹の鼠の視線が同じ方向を指していた。さらに握りしめている1本の線につながる下絵を捜すと《鳥獣戯画 猫又と狸 下絵》に合致したのだという。

下絵や画稿にはこのように、上から小さな紙を貼り付けたものが少なくない。部分部分を何度も描き直して完成させていく。制作過程を知ることができるのも楽しみだ。

 

 

「河鍋暁斎の底力」展

東京ステーションギャラリー(東京駅丸の内北口)

2020年1128()2021年2月7日()

会期中、一部展示替えあり

詳細は美術館公式ホームページ

 

 

(読売新聞事業局美術展ナビ編集班・秋山公哉)

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