静謐な抒情 特別展「東山魁夷と四季の日本画」 山種美術館(東京・渋谷)で開催中

日本や世界の風景を詩情豊かに描いた東山魁夷の作品を中心に、「四季」と「風景」をテーマにした特別展「東山魁夷と四季の日本画」が山種美術館(東京・渋谷)で開かれている。2021年1月24日まで。
「昭和の国民的画家」と称された東山魁夷は、画業や家族の病気などの苦難を経て、戦後に風景画で独自の境地を確立する。今回の特別展では皇居宮殿を飾る壁画と同趣の作品《満ち来る潮》や、川端康成の言葉をきっかけに描いた「京洛四季」の連作も展示される。
さらに日本の四季をひと揃えに描く伝統的な主題表現や、春夏秋冬折々の表情を捉えて描いた作品にも着目。魁夷の師の川合玉堂や結城素明、東京美術学校の同窓生である山田申悟や加藤栄三、皇居宮殿の装飾を一緒に手掛けた山口蓬春や杉山寧らの近代・現代の画家の作品も合わせ42件60点を展示している。作品には「作者のことば」の添えられていて興味深い。

「京都は今描いといていただかないとなくなります」という川端康成の言葉をきっかけに、魁夷は京都の四季折々の姿を捉える作品に取り組んだ。「京洛四季」のひとつ《年暮る》は、定宿であった京都ホテル(現・京都ホテルオークラ)から、大晦日に雪の降る京都の街並みを描いたもの。「東山ブルー」と称された群青色を基調に、年の瀬の京都市街の静謐さを描いている。作者のことば「京の家々の瓦屋根の上に、しんしんと雪は降り積もる。おごそかな響きが鳴り渡り、長く尾をひく余韻を、夜の闇が深く吸い込んで、やがて静まりかえる。そしてまた鐘の響き…人それぞれの想いを籠めて、年が逝き、年が明ける。」

会場を進んで奥の正面、幅9㍍に及ぶ《満ち来る潮》(下の写真の左)が壁の幅いっぱいに掲げられている。皇居新宮殿の壁画《朝明けの潮》を見た山種美術館の山﨑種二初代館長から依頼されて描いたもので、《朝明けの潮》がゆったりした波の動きを描いたのに対し、こちらは岩にしぶきを上げる動的な構図にしたと言う。ガラス越しではなく、間近で作品をみることで思いがけない発見があるかも知れない。
さらに魁夷とともに新宮殿内の作品を手掛けた安田靫彦や山口蓬春、上村松篁、杉山寧の作品が並ぶ。

山口蓬春 《新宮殿杉戸楓 4分の1下絵》 1967(昭和42)年 紙本・彩色 山種美術館
第1展示室の最後に並ぶのは奥入瀬の雄大な風景を描いた石田武の《四季奥入瀬》連作のうちの2点(下の写真)。35年ぶりの公開だという。
最後は第2展示室。ここには魁夷の《白い嶺》や川合玉堂、奥田元宋、千住博の作品が並ぶ。

近年、温暖化の影響で季節の変化が激しくなったような印象を受ける。日本人が自然と向き合うなかで培ってきた季節への鋭敏な感覚を、改めて確かめるのに良い機会になりそうな展覧会だ。
特別展「東山魁夷と四季の日本画」
2020年11月21日(土)~2021年1月24日(日)
山種美術館(東京・渋谷)
詳細は美術館公式ホームページへ
(読売新聞事業局美術展ナビ編集班・秋山公哉)