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「ファンと美術館を結びつけたクラウドファンディング」 山種美術館長に聞く

山﨑妙子館長

コロナ禍による長期休館を強いられた上に、その後も客足が戻りきらず、多くの美術館・博物館が経営的に苦しい状況に追い込まれている。そんな中、近代・現代日本画の優れたコレクションで知られる山種美術館(東京・広尾)が運営資金に充てるためのクラウドファンディング(特設サイトへ)をスタートさせ、ファンや関係者の注目を集めた。山﨑妙子館長に話を聞いた。(聞き手・美術展ナビ編集班 岡部匡志)

ネクストゴールも到達、寄附1000万円超に

―――クラウドファンディングは好調ですね。

「おかげ様でたくさんの方にご支援いただいています。10月に、期間を12月14日までとして500万円を目標にスタートしました。当館としてはSNSぐらいしか告知の手段がなかったのですが、初日に131万円もお寄せいただきました。6日目の10月12日には目標金額を突破。そこでネクストゴールを1000万円に設定したところ、11月18日にはその目標にも到達し、18日午後現在、602人の方から1002万5000円もの寄附をいただいています。引き続き12月14日までクラウドファンディングを続けてまいります」

「修復などの具体的な事業目的ではなく、運営資金に充てるというクラウドファンディングを美術館で実施しているところがほとんどなく、どのくらい集まるか見当もつきませんでした。予想以上にたくさんの方が関心を持ってくださいました。寄附された方の応援のメッセージを何度も見かえして、私もスタッフもすごく励まされています。当館が兜町にあったころ(※記事の末尾注)からの高齢のファンで、ウェブを使えないのでわざわざ美術館にお金を届けてくださる方もいて感激しました」

来館者「1日2~30人」の時期も

―――コロナによってどのくらい影響を受けましたか。

「臨時休館は4月4日から7月17日までの105日間に及びました。今年4~9月の実績では来館者は約6000人。前年同期の8万3000人に比べると7万7000人も減り、93%減でした」

「7月18日から再開したものの、平日は有料来館者が1日2~30人という状態が9月半ばぐらいまで続きました。土日でもせいぜい5~60人です。通常は少ない日でも3~400人の来館者がありましたから、コロナ前の10分の1ぐらいまで落ち込みました。1時間にひとりとか、ふたりとか、そういうレベルです。ほぼ展示室を独り占めするような様子で、足を運んでくださった方にとっては贅沢な空間でとてもよかったのですが(笑)。10月以降はやや持ち直しましたが、それでも例年の4割程度の来場者数です。『Go Toトラベル』もすぐに参加したのですが、利用は一日数件程度です。入館料が収入の大きな柱なので、今年度の収入は前年の7割減ぐらいになりそうです。すぐに立ちいかなくなるわけではありませんが、経営的にはこれまでにない苦しさです」

―――コロナ禍後のオンライン予約の導入は、客足に影響したでしょうか。

「不便になった、という苦情は届いていませんが、来館者に高齢者が多いのでハードルが高くなっている可能性はあります。SNSの書き込みをみると、『行きたいけれど、電車に乗るのが怖い』などが目立ち、コロナを恐れた出控えが影響しているでしょう。また『万が一のことを考えると、友達を誘いにくくなった』という声もあります。そのあたりの心理面の影響が大きそうです」

「薄氷を踏む思い」だったクラウドファンディング

―――クラウドファンディングに抵抗はありませんでしたか。

「とてもありました。薄氷を踏む思いでした。美術館は高級なイメージをともなう場所ですので、クラウドファンディングによってイメージダウンになったり、『美術館がお金集めをするのか』という批判を受けたりしないだろうか、とずいぶん心配しました。夏ごろからスタッフと何度も話し合って、実施に踏み切りました。実際には杞憂で、そういう声はほとんど聞きませんでした」

―――不安があってもあえて踏み切ったのは、何らかの形でファンの気持ちに応えたい、という動機だったようですね。

「コロナ禍以降、『山種さんの絵が好きなんです。頑張ってください』という声がSNSに書き込まれたり、経営を心配してくださったのかショップの購入率が上がったりしました。そうした中、当館にはファンの気持ちを汲み取る受け皿がない、ということに気づいたのです。スタッフが少ないこともあり、メンバーシップ制度なども導入していなかったので」

「今回のクラウドファンディングは、運営資金を集めるというだけでなく、館とファンが結びつくための新たなつながりを作ることも重視しています。支援してくださるファンと、継続的な関係を築いていくことの重要性を思い知らされました。また今回の取り組みで、特に若年層で新たに当館の存在を知ってくださった方も少なくないようです。そういう出会いも引き続き大切にしたいです」

「実際に多くの支援が集まり、温かい励ましの声をいただいて、いつまでもシュンとしてはいられない、という気持ちになり引き続きました。とにかく展覧会もやり続けなければいけない、と覚悟を決めることができました。スタッフがみんなでこのプロジェクトに取り組んだので、一体感も強まりました。」

収入の多角化が課題

―――今後の館の運営はどういう方向に?

「入館料収入に大きく依存する経営を変えていく必要があります。まだ具体的ではありませんが、今後はオンラインによる講演会やギャラリートークなどを充実させていきたいです。グッズ開発も重要です。大規模な国公立館や大きな企業がバックにある美術館と違い、当館は独立した経営を行っていて、安定した寄附を受けられるわけではありません。とにかく地道に取り組んでいきます」

クラウドファンディングの詳細については特設サイトへ。

<山種美術館> 山種証券(現・SMBC日興証券)の創業者である山﨑種二(1893-1983)が個人で集めたコレクションをもとに1966年7月、東京・日本橋兜町に日本初の日本画専門美術館として開館した。施設の老朽化に伴って1998年、千代田区三番町に仮移転したのち、2009年10月、現在の渋谷区広尾に新美術館をオープンした。横山大観、上村松園、川合玉堂、奥村土牛、速水御舟、東山魁夷などのコレクションで知られ、現在の収蔵作品は約1800点。公募展などを通じて新世代の日本画家の発掘にも積極的に取り組んでいる。

<山﨑妙子館長> 山﨑種二の孫で、二代目館長の山﨑富治氏は父。慶応義塾大学卒業後、東京藝術大学大学院美術研究科後期博士課程修了。学術博士。2007年より現職。

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