国宝、重文、目を見張る鮮やかな雅の色彩 「平安の書画」展 五島美術館

開館60周年記念名品展 Ⅴ「平安の書画―古筆・絵巻・歌仙絵―」
五島美術館(東京・世田谷)
2020年11月3日(火・祝)―11月29日(日)
東京・世田谷の閑静な住宅街の一角に、溶け込むように立地する五島美術館。東急グループの礎を築き、美術品の蒐集でも知られた五島慶太(1882-1959)のコレクションをもとに、1960年4月に開設された。古写経や書、茶道具、絵巻などの優れた所蔵品で知られ、現在は国宝5件、重要文化財50件を含む約5000件を有している。

今展は開館60周年の節目ということで、同館が誇る平安時代を中心とした書と絵画の優品、約50点を展示している。

往時のあざやかな色彩を残す展示品が多く、楽しい。こちらは平安時代の女性歌人、伊勢の家集。紙のデザインに合わせた散らし書きのセンスが光る。

当時の貴族社会の息吹を伝えてくれるユニークな冊子本。邸内の様子が丁寧に描かれており、雪の夜、赤子を抱えていろりで暖を取る女房、烏帽子をかぶったまま寝ている公達が目をひく。どんな状況だったのだろうか。

淫欲にふけった僧侶が堕ちるという「火象地獄」を描いた。炎を吐く象に身を焼かれる地獄といい、怖いが、ちょっとユーモラスでもある。

三十六歌仙を描いた絵巻の断簡で、こちらは清少納言の父として知られる清原元輔。もとは京都の下鴨神社に、のちに秋田藩の佐竹家に伝来したので、「佐竹本」といわれる。大正時代に売却された際、全体ではあまりに高額になるため、歌仙ごとに切断し、抽選で各歌仙の購入者を決めたエピソードで有名。

こちらも三十六歌仙を描いた絵巻の断簡で、「佐竹本」とならび、現存最古の三十六歌仙絵と言われる「上畳本」。「拾遺和歌集」巻第一「春」から貫之の「桜散る 木の下風は 寒からで 空に知られぬ 雪ぞふりける」が書写してある。絵がついていると、最高の歌人の貫之も身近に感じられる。
眼福なものばかりの出展。中でもクライマックスはやはり国宝の源氏物語絵巻だろう。「鈴虫一」「鈴虫二」「夕霧」「御法」の四つを見られる。

物語が成立してから百数十年後に誕生し、現存するものでは日本最古の絵巻という。こちらは第39帖の「夕霧」。光源氏の子の夕霧が手紙を読もうとしているところ、妻の雲居雁が恋文と誤解し、嫉妬のあまり背後から忍び寄って手紙を奪い取ろうとしている場面。ダイナミックな動きが感じられ、硯や屏風など室内の文房具や調度の様子もよく分かる。

光源氏が最も愛した紫の上がついに死の淵に。源氏や、紫の上が育てた明石中宮らが病床を囲み、悲嘆にくれる。劇的な場面で、思わず引き込まれる。
展示場では、加藤純子氏の筆による復元模写が並置してあり、同時に見ることで、往時の姿をよりリアルに想像できる。
(読売新聞事業局美術展ナビ編集班 岡部匡志)
<開催概要>
期間:11月3日(火・祝)-11月29日(日)
休館日:月曜日。ただし11月23日(月・祝)は開館、24日(火)は休館。
開館時間:午前10時―午後5時(入館は午後4時30分まで)
入館料:一般1000円、高・大学生700円、中学生以下無料
交通:東急大井町線・上野毛駅徒歩5分
詳しくはホームページへ。