リポート「YAYOI モダンデザイン」展 弥生の魅力存分に 愛知県陶磁美術館

会場入口では、弥生時代の「王族家族」が出迎えてくれる

「YAYOI モダンデザイン―ニッポンの美、ここに始まる―」展

愛知県陶磁美術館(愛知県瀬戸市)

2020年10月10日(土)~12月13日(日)

「日本の美の原点は弥生にあり」のスローガンで注目の「YAYOI モダンデザイン ―ニッポンの美、ここに始まる―」展。見どころは豊富だ。名古屋中心部から地下鉄とリニモ(リニアモーターカー)を乗り継いで小1時間。「陶磁資料館南駅」から数分歩くと、尾張丘陵の豊かな緑に囲まれた、落ち着いた雰囲気の建物群が見える。1978年の開館で、設計は文化勲章受章の谷口吉郎。

広大な敷地に余裕をもった作りで、本館、南館、西館、陶芸館、茶室、平安~鎌倉期の窯を再現した古窯館などが点在する。時間があれば全体を見学したい。

陶磁器の本場に建てられた中核の文化施設に相応しく、本館の展示スペースも広々としており、「密」を気にせず、ゆったり鑑賞できる。

水差し形土器 奈良県田原本町/唐古・鍵遺跡出土 田原本町教育委員会所蔵
パレススタイル壺 愛知県一宮市/八王子遺跡出土 一宮市博物館所蔵
鹿絵画土器 石川県八日市地方遺跡 小松市埋蔵文化財センター所蔵

無駄な飾りがなく、機能美あふれるフォルム。良品をまとめて見ると、確かに現代の私たちと地続きの文化の連続性を感じる。今展では40の重要文化財を含む、近年注目の出土品を全国各地から集めており、今展の企画に携わった愛知県埋蔵文化財センターの樋上昇さんは「弥生時代の逸品をこれだけまとめた展覧会は過去例がなく、とても貴重な機会です」と胸を張る。

技巧に優れたプロダクトを安定的に生産するには、富の蓄積や専門の職人集団が不可欠で、かなりの広がりを持った地域を支配し、強大な権力を持った「王」の存在をリアルに想像することができる。社会構造の変化を出土品から伺うことができるのも、こうした展覧会のだいご味だろう。

一方、同展では、弥生時代当時の暮らしぶりを分かりやすく紹介する工夫が随所にみられる。人気は当時の衣装の再現コーナーだ。

当時の衣服は「魏志倭人伝」の記載に基づき、粗い麻布の反物に孔を開けただけの「貫頭衣」として復元されることが多い。今回は王族の家族の衣装と設定し、3世紀には列島で国産されていた絹も用いた。戦士である夫は、中国で6世紀に書かれた「職貢図」の倭人画をもとに、腰から下を巻きスカートに。巫女である妻は貫頭衣をイメージしつつ、かぶるタイプのワンピースと上衣を重ねた。女の子の服には、当時好まれていた鹿の模様の刺繍が施されており、とてもかわいい。彩色は、当時使われていたベンガラ染めを用いた。

10月10日の開幕日、衣装制作チームのメンバーが勢ぞろい。右から金田あおいさん、岡村あずささん、岩本芽子さん、阿部崇さん(愛知県陶磁美術館で)

デザインを担当した歴史意匠デザイナーの金田あおいさん(奈良市)は「弥生時代の研究者である深澤芳樹先生に歴史的考証をしていただきながら、この企画展のテーマでもあるモダンなデザインを追求してみようと挑戦しました。今回展示されている土器や木製品などからインスピレーションを得て、当時の雰囲気に寄り添ったものにしたいと考えました」という。

出土品の復元コーナーも興味深い。

 

今回の展覧会の目玉のひとつである重要文化財の飾壺(鳥取県鳥取市/青谷上寺地遺跡出土 鳥取県所蔵)。長く土の中にあったため、形がつぶれて黒くなっているが、本来は算盤形の胴部で、黒漆の下地に赤漆で同心円などの細かな紋様を描いて表面を埋め尽くしたものと思われる。

復元想定図(樋上昇氏作成)

現在までに発見されている弥生時代の木製品では、最高級の技と美を反映している(展示は12月6日まで)

こちらを再現したのは長野県南木曽町で木工品の加工や漆塗りを営む小椋正幸さん。ろくろを用いて外形を削りだしたのち、丸鑿で中を徐々にくり抜いていった。まだ制作途中で今後、漆で模様を入れていく。弥生時代当時、ろくろを使っていたかどうかは諸説あるが、「少なくとも円盤状の土台がないと、円の形を正確に出すことは難しい。いずれにせよ精巧な技術が要求されますね」と小椋さんは振り返る。

愛知県陶磁美術館提供

10月18日(日)には同美術館で「弥生の美を語る」をテーマに、松木武彦さん(国立歴史民俗博物館教授)と、橋本麻里さん(永青文庫副館長、ライター・エディター)という、古の日本の美を論じるにふさわしい組み合わせの記念対談も行われ、大勢の古代史ファンや美術愛好家が熱心に聞き入った。

愛知県陶磁美術館提供

松木さんは「美とは心を動かすこと。モノはただの道具ではなく、その形は心を動かす働きがある。人が作るすべてのモノには、物理的機能と心理的機能の両方があり、その比率は時代やモノによって変わる」と語った。その上で、「弥生は農耕と戦いの時代。社会の階層化が進んで、自然観や対人観が縄文から変わった。土器や木器は命を躍動させるような心理的な働きが後退し、実用性や機能性が誇示された。機能美が全面展開された時代だ」とその特徴を語った。

愛知県陶磁美術館提供

一方、橋本さんは産業革命以降の歴史をひもとき、「機械を用いた大量生産と、それを消費する大衆との間での営為として、近代的な意味での<デザイン>が成立した」とし、20世紀に至って「世界のあるべき姿をゼロから描き出す営みとして、バウハウスにおいて、建築・家具・グラフィック・テキスタイルなどあらゆる分野が結びつき、近代デザイン・建築運動が成熟した」と語った。

他方、日本が近代建築を受容する過程では、たとえば桂離宮のように伝統的建築物の中に、近代性を「発見」するという転倒も。そして戦後の冷戦下、政治的な文脈を背後に、縄文的造形を土着的、民衆的、弥生的造形を貴族的、権威的とする対立が生まれたと解説。松木さんの読み解く縄文・弥生の造形論理との違いを指摘した。

参加者からは「論点が立体的で理解が深まった」「弥生時代の位置づけが見えてきた」と好評だった。

同展について詳しくは公式ホームページへ。

(読売新聞東京本社事業局専門委員 岡部匡志)

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