コンテンツを生み出し、コンテンツに飲み込まれる東京 「MANGA都市TOKYO」展

イラストレーション:吉成曜 ©Crypton Future Media, INC. www.piapro.net ©カラー ©Naoki Takeuchi  ©武内直子・PNP・東映アニメーション ©秋本治・アトリエびーだま/集英社 ©創通・サンライズ TM & © TOHO CO., LTD. ©TOKYO TOWER

MANGA都市TOKYO ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮2020

国立新美術館 企画展示室1E(東京・六本木)

2020年8月12日(水)―11月3日(火・祝)

展覧会HP

日本の現代文化を代表するマンガ、アニメ、ゲーム、特撮がいかに東京を描き、東京はそれをどう受容してきたのか。これをテーマに90を超える作品の原画や映像を集めた大規模展で、2018年にパリで開催され、好評を博した「MANGA⇔TOKYO展」の凱旋展示でもある。

会場に入ってまず目に飛び込んでくるのが、1000分の1の縮尺で東京都心を再現した巨大な都市模型だ。タテ22メートル、ヨコ17メートルとプール並の大きさで、都庁などの高層ビルや高速道路、東京タワー、スカイツリーなどがすぐそれと分かる。背後の大型スクリーンには「シン・ゴジラ」「AKIRA」「ラブライブ!」「ヴァンゲリヲン新劇場版:序」「グランツーリスモ6」「秒速5センチメートル」などのアニメや映画、ゲームで、東京を舞台にした印象的な場面が次々に映し出される。東京という街が、いかに多くのコンテンツを生み出す原動力になってきたのかを感じさせる導入だ。

この巨大模型を取り囲む形で、おなじみの作品の原画や映像が展示されており、「破壊と復興の反復」「東京の日常」「キャラクターvs.都市」の3つのセクションに分けられている。

8月11日に行われたプレス内覧会の様子

<セクション1:破壊と復興の反復>

「AKIRA」や「ゴジラ」、「エヴァンゲリオン」シリーズなどを展示。これらの作品に代表されるように、東京はフィクションの世界で数えきれないほど破壊され、また復興し、そのダイナミックなストーリーにファンは熱狂してきた。現実でも悲惨な震災や戦災に見舞われ、立ち直ってきた歴史を持つ東京。今、災害の頻発する列島に住む我々にとって、こうした破滅と再生のストーリーは一層強いリアリティを持つ。

安野モヨコ さくらん ©Moyoco Anno / Cork

<セクション2A:東京の日常Ⅰ プレ東京としての江戸>

「さくらん」「百日紅」などを紹介する。明治以降、伝統的な街並みをほとんど失い、再現なくスクラップ&ビルトを繰り返した東京。マンガやアニメ、映画で描かれる想像上の「江戸」の姿は、繰り返し愛好されるうちに現実の街と二重写しになり、街の歴史に深みを与えた。この時代に生まれた浮世絵抜きに、現代日本のマンガやアニメの隆盛も考えらないだろう。

一ノ関圭 鼻紙写楽 ©一ノ関圭/小学館

<セクション2B:東京の日常Ⅱ 近代化の幕開けからポストモダン都市まで>

大和和紀 はいからさんが通る ©大和和紀/講談社

女性の社会進出が始まった大正時代に、「はいからさん」としてたくましく生きた紅緒。シベリア出兵、メディア(出版社)の発展、関東大震災など日本と東京の激動の歩みも彼女の運命を大きく左右した。

高森朝雄・ちばてつや あしたのジョー ©高森朝雄・ちばてつや/講談社

連載スタート1968年の古典にもかかわらず、いまだに鮮烈な印象を残す矢吹丈。ボクシングシーンのすばらしさにとどまらず、ドヤ街や富裕層の暮らしなど、高度経済成長期を迎えた東京の赤裸々な姿も描いた。

<セクション2C:東京の日常Ⅲ 世紀末から現代まで>

岡崎京子 リバーズ・エッジ ©岡崎京子/宝島社
秒速5センチメートル ©Makoto Shinkai / CoMix Wave Films
羽海野チカ 3月のライオン ©羽海野チカ/白泉社

90年代以降の経済の失速に伴って、貧困や暴力、閉塞感といったネガティブなテーマを取り上げる作品が増えていった。スペクタクルや力強さより、日常の何気ない光景や、ふだんの暮らしにフォーカスする傾向も目立つ。

 <セクション3:キャラクターvs.都市>

フィクションのキャラクターが現実の東京に表れ、リアルの街を変容させていくことも珍しくない。主客が入れ替わり、互いに影響しあう。これこそ東京の街ならではの現象だろう。

街に欠かせないコンビニ。そこはソフトの主要販路であり、豊富なキャラクター商品を備え、キャンペーンとなれば店内のあらゆる空間をキャラクターが埋め尽くす。フィクションに浸食される現実、の典型だろう。

「ラブライブ!」に登場した神田明神。その大祭のポスターにキャラクターたちがずらり。現実とフィクションの境界はそこにはもうない。

すっかり日常用語として定着した「聖地巡礼」の名所マップ。巡礼者にとってはフィクションの世界への旅路だが、経済効果に留まらず、実際の場所のイメージが作品の記憶によって上書きされていく、という現実への作用も働く。

東京ほど多面的に描写された街がかつてあったのだろうか、と改めて驚く内容。時代も虚実も軽々と飛び越えるマンガやアニメ、ゲームや特撮という表現形態の豊かさも実感する。現実と仮想の東京の境界があいまいになる中で、新しい街が生み出されている、という視点は新鮮で、街を見る目が変わった気がする。

(読売新聞東京本社事業局専門委員・岡部匡志)

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