リポート 100年前の造形精神に迫る 「きたれ、バウハウス」展 東京ステーションギャラリー 

バウハウス開校100年を記念するプロジェクト「bauhaus 100 japan」のロゴ。「きたれ、バウハウス」展はその中核事業だ

 

 

開校100年 きたれ、バウハウス -造形教育の基礎―

2020717日(金)~96日(日) 東京ステーションギャラリー(東京駅)

美術館入り口の電飾看板。伸縮を繰り返す枠の中で三原色(赤青黄)の円が動き、さまざまなデザインが現れる

 

ドイツの古都ワイマール(ヴァイマール)で1919年に開校した造形芸術学校「バウハウス」の多彩な活動を、教授陣や学生の作品、資料などでふり返る「開校100年 きたれ、バウハウス ―造形教育の基礎―」が東京ステーションギャラリー(東京駅)で開かれている。「バウハウスの教育」「工房教育と成果」「バウハウスの日本人学生」など5章構成で約300点が紹介されている。

バウハウスには、抽象絵画の創始者とも呼ばれる画家カンディンスキーほか前衛芸術の先駆者たちが教員として集まり、実験精神にあふれたユニークな芸術教育を行った。1933年にナチスの弾圧を受けて閉鎖されるまでの約14年間に、斬新なプロダクト(製品)デザインやグラフィックデザインを生み出した。

会場には学生たちの習作や、工房でつくられた金属製のティーセット、照明器具、織物、陶器などが並び、バウハウスの教育、制作活動の過程や成果を示している。

昨年来、新潟市美術館、西宮市大谷記念美術館、高松市美術館、静岡県立美術館を巡回し、東京ステーションギャラリーが最終会場。96日まで、事前予約制。詳細は同ギャラリーのホームページで。

 クレーの講義 

クレーは「造形論」として形態と色彩について講義を行った。「運動」と「成長」という観点から造形を解き明かす独特な内容で、線、面、空間、構造、運動(螺旋や矢印)へと講義は進められた。クレーが語り描く「線」は、生き物のように走り、逡巡し、あるいは数学的解析が行われた。色彩は「振り子」と「螺旋」という二つの運動から説明したという。クレーの言葉は時に詩的、時に数学的で、難解だったと伝えられるが、豊かな可能性を示唆するクレーの講義は人気が高かった。

学生が描いたクレーの講義のノート。矢印や蠢くような線がクレーらしさを感じさせる

カンディンスキーの授業

カンディンスキーは「形の基本要素の研究」を教えるにあたり、45人の学生に手伝わせて机や椅子やカーテン、時には学生の自転車まで天井に届くほど積み重ね、それを学生に凝視させたという。学生は対象を単純で大きな形態で捉え、その中に「緊張」関係を発見して明快に表現することが求められた。

写真をもとにカンディンスキーの授業でつくられた「家具の山」が再現されている

 

学生たちは、自身がとらえた形と「緊張」を描き表した

工房での制作

基礎教育を修了した学生は、専門課程として「工房教育」に進んだ。本展の後半では、家具工房や金属工房、陶器工房、彫刻工房、印刷・広告工房、舞台工房など10の工房・学科の活動とその成果が紹介されている。

金属、陶器、彫刻、印刷・広告などさまざまな工房・学科の成果が、コンパクトな展示によって一望できる

 

バウハウスの舞台工房の中心だったオスカー・シュレンマーの代表作《三つ組のバレエ》(1970年 バイエルン・アトリエ社による再現)も上映されている

 

バウハウスの女学生

東京ステーションギャラリーの学芸員、成相肇さんによれば「バウハウスでは、開校直後は男子より女子の方が多く、その後も3分の1は女性だった」。当時、芸術を志した女性は工芸学校を目指し、中でもバウハウスは新たな造形に取り組む教育機関として女性たちを魅了したという。日本からの留学生も合計4人いた内、2人が女性だった。

女性に門戸が開かれたバウハウスだが、それでも男と同様に活動できたわけではなかったらしい。予備課程を終えて工房に割りふられる際には「女性は織物」という慣習があり、かりに絵画に才能を示していても「織物工房送り」にされたという。結果的に、織物部門は優秀な女性が集まり、すぐれたデザインが生まれた。

閉校直前のバウハウスで学んだ日本人女性・大野玉枝が制作した帯など

体験コーナーも

光と影は補色関係にあり、たとえば赤い光には緑の影、逆に緑の光には赤い影が出来る。紫と黄色、青とオレンジ色についても同様だ。バウハウスの学生もこうした色彩理論を学んでいたはずだ。会場には、色のついた光に手をかざして影の色を確認する体験コーナーが設けられている。

「色のある影」を見せる東京ステーションギャラリーの学芸員、成相さん

 

赤の光には緑の影が、緑の光には赤の影が対応している

  

会場の最後に設けられたフォト・スポットには、バウハウスのデザインによる椅子の実物が登場。実際に座ることが出来る。「大変貴重な椅子ですので、丁寧にお座りいただくようお願いいたします」との注意書きも頷(うなず)ける、特別な座り心地だ。

ミース・ファン・デル・ローエ「バルセロナチェア」 (右:デザイン 1929年) マルセル・ブロイヤー「ワシリーチェア」(左:デザイン 1925年) 「ワシリーチェア」はモダンデザインを代表する椅子のひとつ。室内用の椅子に初めてスチールパイプを用い、「素材の革命」ともいわれた

 日本にあったバウハウスのコレクション

出品された約300点はすべて日本の所蔵作品という。東京国立近代美術館、宇都宮美術館、川崎市市民ミュージアム、大阪中之島美術館など各地の国公立美術館から作品が集められているが、学生の習作、アトリエ制作の作品などバウハウスの教育の核心に迫る展示資料のほとんどはミサワホームの「ミサワ-バウハウス-コレクション」の収蔵品だ。

本展は公的機関、民間にわたる収集活動の成果でもあり、日本におけるコレクションの蓄積を実感させる企画だ。

「バウハウス100年映画祭」は8月28日まで、東京都写真美術館ホールで

88日から28日まで、東京・恵比寿の東京都写真美術館ホールで「バウハウス100年映画祭」が開催されている。「バウハウス 原形と神話」「バウハウスの女性たち」など7作品を5プログラムで上映。上映スケジュールはこちら。

 (読売新聞東京本社事業局 専門委員 陶山伊知郎)

 

 

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