「生活の中の美」、その価値と重み  サントリー美術館がリニューアル展

菊唐草蒔絵化粧具揃 一具 江戸時代 18世紀前半 サントリー美術館

サントリー美術館 リニューアル・オープン記念展Ⅰ

「ART in LIFE, LIFE and BEAUTY」

サントリー美術館(東京・六本木 東京ミッドタウン内)

2020年7月22日(水)~9月13日(日)

(会期中展示替えあり)

東京のアートの中心地のひとつ、六本木。国立新美術館、森美術館などとともにその中核を担うサントリー美術館が、昨年11月からの設備改善工事を終え、コロナによるスケジュールの遅れはあったものの、リニューアル・オープンした。

サントリー美術館の入る東京ミッドタウン(六本木)

改修工事では、隈研吾氏の設計で全面リニューアルされたエントランスなど、各所に和のぬくもりを生かした意匠がほどこされた。防災施設の強化や、作品が見やすい照明の導入なども行われた。

リニューアル展では、1961年の開館以来、基本理念としてきた「生活の中の美(ART in LIFE)」という原点に立ち返り、近世~現代にかけて、人々の日常の暮らしを彩ってきた作品を選んだ。同時に、古美術に造詣の深い現代作家の作品とコレクションを並置する特別展示も行った。「生活」「暮らし」という言葉が以前とは違う響きを持って受け止められるようになった昨今、長い歴史を経て、年輪を刻んだ展示品は、私たちにあらためて「生活の中の美」の意味を問いかけてくるようだ。

全体は「装い」「祝祭・宴」「異国趣味」の3章で構成されており、展示品は200を超える。

国宝 浮線綾螺鈿蒔絵手箱 一合 鎌倉時代 13世紀 サントリー美術館
誰が袖図屏風 六曲一双のうち左隻 江戸時代 17世紀 サントリー美術館

とりわけ第一章の「装い」は華やか。国宝の「浮線綾螺鈿蒔絵手箱(ふせんりょうらでんまきえてばこ)」をはじめ、平安から明治までの鏡箱や香箱、櫛、簪(かんざし)、笄(こうがい)など、日常生活を彩った装身具がずらり。古から、先人たちも「装う」ことに、いかに強い美意識を働かせていたのかを感じる。各時代の最新の流行を表す美人画や着物、屏風などからは、それぞれの時代に伝統から離れて多様なファッションを楽しんでいた人々の姿が浮かび上がる。

鏑木清方 「春雪」 1946年(昭和21年) サントリー美術館 展示期間:7/22~8/17

一方、はっとさせられたのは、終戦の翌年に作成された鏑木清方の「春雪」。武家の女房が帰宅した夫の羽織を畳んでいる光景を描いた。戦時中は美人画が国策に沿わないものとされており、戦いが終わった時代を象徴しているようにみえる。社会状況に大きく左右され、規制されるのも「生活の中の美」、ということをかみしめる一枚。

朱漆塗矢筈札紺糸素懸威具足 一具 桃山時代 16~17世紀 サントリー美術館

甲冑や武具類も武士の大切な「装い」として定義される。戦いのための機能を優先しつつ、華やかな意匠や細密な仕上がりに目を奪われる。

第二章の「祝宴・宴」は、人々のハレの場を演出してきた祝いの品々をそろえた。特別の器や大がかりな屏風をはじめ、神事や祭礼、年中行事を描いた調度品や浮世絵など、人々にとって、生活の中の祝祭空間がいかに重要な意味を持っていたかをうかがわせる。

手前左から:野口哲哉 THE MET、RED MAN2016、Avatar 1-現身-、FRONTEER、Un samuraî いずれも個人蔵
奥:賀茂競馬図屏風 サントリー美術館 ©木奥恵三

江戸時代初期から前期に、京都・賀茂で行われた神事の競馬(くらべうま)の模様を描いた屏風もそのひとつ。今回の展覧会では、古美術に造詣の深い現代作家の作品を、一部の展示品に並置する特別展示を行っており、この屏風には、鎧兜姿の立体作品や絵画の制作で知られる野口哲哉氏がコラボレーション。屏風の前に、野口氏によるミニチュアの武士像が置かれた。時代を超えて作品を鑑賞し、読み解きに興ずる人たちの姿を可視化している。

重要文化財 泰西王侯騎馬図屏風 四曲一双 桃山時代~江戸時代初期 17世紀初頭 サントリー美術館

第三章の「異国趣味」では、桃山時代にポルトガルやスペインとの交流を通じて生まれた南蛮美術を中心に展示した。サントリー美術館のコレクションの大きな柱でもある。当時、外来の文化や文物が、当時の最先端の意匠として受け入れられ、屏風や日用品が次々に作られていった。「泰西王侯騎馬図屏風」は、国内で作成された初期洋風画の代表作で、図様は西洋の銅版画を参考に作られたという。西洋の王侯という、実物を見たことがない日本の作家が描いたとは思えない完成度とそのスケールに驚く。異国の文化に魅了され、エッセンスを吸収していった先人たちの姿を垣間見ることができる。

全体の構成は新型コロナの以前に決められたものだろうが、コロナのあとでも決して違和感のない、むしろ新たな意味付けが加わったようにみえる射程の深い展示。不自由な日々の暮らしだからこそ、なおさら生活の中に「美」を求めることの大切さを考えたい。

同館では日時指定予約は行っていない。感染予防の観点から、事前のオンラインチケット購入は推奨している。詳しくは公式ホームページへ。

(読売新聞東京本社事業局専門委員 岡部匡志)

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