<自ら学び、互いをいつくしみ、毒と共存する> リポート「ヨコハマトリエンナーレ2020」

エヴァ・ファブレガス(スペイン) 《からみあい》 2020年

「ヨコハマトリエンナーレ2020 AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」

2020年7月17日(金)―10月11日(日)

横浜美術館、プロット48(横浜市西区みなとみらい)

会場の横浜美術館(左)

日本を代表する国際港湾都市を舞台に2001年に始まり、3年に1度の現代アートの祭典として定着した「ヨコハマトリエンナーレ」。7回目となる今回は、アーティステッィク・ディレクターに初めて外国人を起用し、インドの3人組のアーティスト集団「ラクス・メディア・コレクティヴ」が選ばれた。「ラクス」は今トリエンナーレに際して、「独学(自らたくましく学ぶ)」「発光(学んで得た光を遠くまで投げかける)」「友情(光の中で友情を育む)」「ケア(互いを慈しむ)」「毒(否応なく存在する毒と共存する)」という5つのキーワードを昨年提示しており、あたかもコロナ禍を予測したかのような不思議な符合を見せた。出展した約70組のアーティストは半数が20歳代、30歳代という若い顔ぶれ。出身は30の国と地域を数え、アジア、中東、アフリカからの参加者が多い。印象的だった展示を紹介する。

ニック・ケイブ(アメリカ)《回転する森》 2016年(2020年再制作)

横浜美術館を入ると、この巨大でにぎやかな展示が出迎えてくれる。天井からつられているのは、アメリカでよくみる「ガーデン・ウィンド・スピナー」という庭用の飾り。キラキラと回転する様々な形のオブジェが楽しいが、よくみると「けん銃」や「弾丸」の形をしたものもあり、一筋縄ではいかないアメリカの状況を映し出しているかのよう。

 

15秒でわかるヨコトリ2020のみどころ」から(2つ目の作品)

ラヒマ・ガンボ(ロンドン生まれ、ナイジェリアを拠点に活動)《タツニヤ(物語)》 2017年

一見、無邪気に遊ぶ少女たちのスナップ写真に見える。が、西欧式の教育を拒否するアフリカのイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」の脅威から生き延びた末に、自らの意思で再び教育の機会を得て、学校で遊び心を取り戻していく様子を記録したものという。そう聞くと、見る側も思わず居ずまいを正さずにはいられない。

青野文昭 《なおす・合体・代用・融合・連置(石巻で収拾した看板/三つのテーブル)》 2014年

青野文昭 《イエのおもかげ・箪笥の中の住居―東北の浜辺で収拾したドアの再生から》 2020年

仙台市生まれの青野は、被災地などから収拾した廃棄物や拾得物を用いた表現で知られる。壊れたもの同士が、不完全ながらもお互いに補い合って組み合わさる姿は、とりわけ日本人にはいまだに生々しい感情を呼び起こす。感染症という大きな傷を受けた後だけに、改めて強い印象を残す。

インゲラ・イルマン(スウェーデン) 《ジャイアント・ホグウィード》 2016年(2020年再制作)

ジャイアント・ホグウィード(和名・バイカルハナウド)という巨大な植物。中央アジア原産で、19世紀に鑑賞用としてヨーロッパに輸入され、世界中に広まった。ところがその樹液は触った人の肌が光に当たるとかぶれを引き起こし、目に入ると失明することもあるほど、強い毒性を持っていた。今では有害植物として嫌われている存在という。あまりに大きく禍々しい姿と、「毒」というキーワードに強く反応してしまう。

エヴァ・ファブレガス(スペイン) 《からみあい》 2020年

作者は肩こりをほぐす指圧グッズのように、人間の体にとって気持ちのいい形や感触に興味をもち、この作品を作った。一方、アーティスティック・ディレクターの「ラクス」の3人は、人間の腸のような形をみて、善玉菌や悪玉菌が共生するわたしたちのおなかの中へ想像を広げたという。この中で「友情」「ケア」「毒」がからみあっている。

竹村京 《修復されたYN.のコーヒーカップ》 2018年 ほか50点

こわれてしまったカップや電球や時計を、光る糸で縫い、修復する。傷ついたものが新しい命を得る、というイメージに惹かれる。使われている糸は、青白く発光するオワンクラゲ由来。このクラゲの発光をつかさどる遺伝子をカイコに組み込み、「蛍光シルク」という光る絹糸が作られた。

(写真は、ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景)

開幕前日の7月16日に開催された記者会見に、リモートで出席した「ラクス・メディア・コレクティヴ」のモニカ・ナルラ氏(写真左下)は、今トリエンナーレを「世界全体が変革を迫られている時期に、先陣を切っていくイベントになる」と位置付けた。その上で「世界に対して、私たちの存在が癒しになることを示し、アートの能力を発信していく」と語った。

新型コロナウイルスのために開幕が2週間遅れた今トリエンナーレ。折しも感染症や「Black Lives Matter」に揺れ動く現代社会を先取りしたかのような意欲的な展示が並び、見る側も終始、「お前は?」と問いかけられているかのよう。会場を後にするころには、心身にずっしりと重いものを感じる人が多いのではないだろうか。

チケットは日時指定の予約制。オンランチケットに空きがある場合は、横浜美術館、プロット48のチケット販売窓口でも購入できる(開場日のみ)。料金は一般2000円、大学生・専門学校生1200円、高校生800円、中学生以下無料。詳しくは公式ホームページへ。

(読売新聞東京本社事業局専門委員 岡部匡志)

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