今も昔も変わらぬ未知への畏れ、希望、そして祈り… リポート「太田記念美術館 コレクション展」

歌川芳虎「鍾馗」(太田記念美術館提供)

太田記念美術館 コレクション展

2020年7月1日(水)~7月26日(日)

東京・原宿の太田記念美術館(東京都渋谷区神宮前)

表参道から一本入ったところにある太田記念美術館。原宿駅や明治神宮前駅からも近く、気軽に立ち寄れる

約14000点という、国内でも有数の浮世絵コレクションで知られる太田記念美術館。約3か月の臨時休館が明け、再開第一弾となるコレクション展には、新型コロナウイルスを意識して「見ていてほっとするような、あるいは病魔に打ち勝つために作られた作品を選んだ」(日野原健司主席学芸員)という。ソーシャルディスタンスを確保するため、作品の間隔をいつもより広げて展示しており、展示点数は通常の半分強程度の約40点となっている。

歌川芳虎「家内安全ヲ守十二支之図」安政5年(1858年)(太田記念美術館提供)

家の安全を守るため、十二の動物がひとつに!まるで合体ロボのよう。角が牛、背中の縞模様は虎、耳が兔、火炎が龍、尻尾が蛇、たてがみが馬、ひげが羊、後ろ脚が猿、とさかが鳥、前足が犬、背中の毛並みが猪、と良いとこどりを目指したようにみえる。だが、「顔のネズミが何とも惜しくて、あまり頼もしそうに見えない」(日野原主席学芸員)のがかえってユーモラスで、休館中にコレクションをウェブで紹介した際も、大いに人気を集めた。この絵が制作された安政5年はコレラが流行しており、コレラの厄除けに作られた可能性がある。

森 光親(もり・みつちか)「疫病除鬼面蟹写真」 年代不詳(太田記念美術館提供)

鬼面蟹(きめんがに)とは、ヘイケガニの一種。甲羅が鬼の顔のようで、その甲羅を家の入口に吊るしておくと、厄除けになるとされていた。東の地域では捕まえるのが難しいので、代わりにこの絵を家の戸や壁に貼っておくと厄除けになる、と書かれている。

歌川国芳 「木菟(みみずく)に春駒」年代不詳(太田記念美術館提供)

疱瘡(ほうそう、天然痘)除けのお守りとして制作された「疱瘡絵」という浮世絵。赤い色は魔除けの効果があるとされ、赤一色に塗られた。伊達政宗がこの病で片目を失明したように、当時は目への悪影響が恐れられていた。大きな目をしたミミズクが描かれたのは、疱瘡による失明の危機から守ってくれると信じられていたからだ。馬の頭をかたどった春駒は子供向けの玩具で、縁起のよいもの。疱瘡を患った子どもは、病床でこうした絵を眺め、病魔に打ち勝つ気持ちを奮い立たせていたのかもしれない。

葛飾北斎 「『北斎漫画』三編 鍾馗」 文化12年(1815年)

中国の民間伝承の神様である鍾馗(しょうき)は、悪鬼を退治して唐代の玄宗皇帝の病を治したという言い伝えで有名。このため日本でも古くから魔除けの効果があるとされ、絵などの題材になることが多かった。北斎の絵では、邪鬼たちは鍾馗の姿をみて逃げまどい、あるいは命乞いするものも。今、このぐらい頼もしい神様がいたらなあ、とつい思ったり、思わなかったり。

今回の新型コロナウイルスでも「アマビエ」が人気を集めたように、未知の病を恐れ、何かにすがりたくなる気持ちは今も昔も変わらないようだ。

河鍋暁斎 「『暁斎画談 内篇』巻之上 西洋画模・同手足真図及ヒ画図」 明治20年(1887年)(太田記念美術館提供)

太田記念美術館では臨時休館中、公式ツイッターで「♯おうちで浮世絵」というハッシュタグをつけ、コレクションを毎日紹介してきた。このハッシュタグはその後、各地の美術館のSNSで次々に使われるようになり、美術愛好家や浮世絵ファンに大いに浸透した。

中にはあまり有名ではなかったり、これまでほとんど紹介していなかったりした作品がたくさんの「いいね」や「RT」をかせいだケースもある。その代表格が、身体の様々なパーツを描いた河鍋暁斎のスケッチ集だ。2万6000もの「いいね」という、同館の歴史でも1、2を争う高評価を得た。

「真」とかかれたものがリアルに描いたもの、「画」と付けられたものが絵として描いたもの、という意味。暁斎が緻密な観察でスケッチをした上で、作品とする際にはアレンジを加えて動きを出そうとしている工夫がよく分かる。

「絵を描く仕事をされている方から熱い支持があるなどして、徐々に注目が集まりました。これほどバズるとは予想もしていなかったですが、リアルの絵を見られない時期に、SNSで発信して、ファンに喜んでもらえたのはよかったです」と日野原主席学芸員は振り返る。

会場は通常より展示の間隔をあけ、来館者が安心して鑑賞できるように環境整備につとめている。

だが、ようやく再開したものの、ファンの出足は鈍く、原宿という場所柄もあって、来館者の2割近くを占めていた外国人観光客がほぼゼロになったのも痛い。日野原主席学芸員は「こういう状況なので、積極的に来てください、とは言いにくいところもあり、本当に難しい。ただ、現状は『密』とは程遠いので、やはりリアルな絵を見たい、という方が足を運んでもらえればうれしい」と話していた。

(読売新聞東京本社事業局専門委員 岡部匡志)

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