「素顔の美術館、見てほしい」 世田谷美術館が「作品のない展示室」展

会場の1階展示室の外には、砧公園の豊かな緑が広がる(世田谷美術館提供)

多彩な企画で知られる世田谷美術館(酒井忠康館長、東京都世田谷区)で、7月4日から「作品のない展示室」という、型破りな展覧会が開幕する。閑静な住宅街に隣接する砧(きぬた)公園の一角に位置し、豊かな自然環境に恵まれた同館。1階の展示室(1025平方メートル)が会場で、作品などは一切置かず、来館者は大きな窓から屋外を眺めることができる。観覧は無料。8月27日まで。期間中、会場では週末にミニコンサートを数回行う予定といい、現在、日程などを調整している。

ミニコンサートの際は、来館者はざぶとんを下に敷いて鑑賞する。なお、写真右側の窓は今回の「作品のない展示室」期間中はふさがれている

橋本善八(よしや)副館長兼学芸部長(60)によると、新型コロナウイルスの影響で展覧会のスケジュールを見直す過程で、アイデアが出たという。次回展の準備期間が必要で、7月から8月にかけて催しが空白になった。「5月末か6月はじめごろ、マネージャーたちとどうしようかと話し合っていたら、『何も置かないで、外を見てもらうのはどうですか』という意見が出た。それはいいね、とあっという間に方向性が固まった」と橋本副館長は振り返る。

館の周辺にはケヤキの大木

1986年3月にオープンした同館は、皇居の吹上御所や「元麻布ヒルズ」などで知られる内井昭蔵(1933-2002)の設計。「健康な建築」がモットーの内井は、合理性重視のモダンな建築からは距離を置き、周辺の自然や人間と調和したゆとりある設計で知られる。世田谷美術館は彼の代表作のひとつで、「生活空間としての美術館」「オープンシステムとしての美術館」「公園美術館としての美術館」の三つのコンセプトに基づいて作られたという。窓がたくさんある開放的な建築物で、展示室の大きな窓には公園の緑があふれる。ただ、来館者がそうした姿を見る機会は少ない。

外光が降り注ぐ館内

「普段は作品を光からまもるために、窓は壁でふさがれている。私たちは何もない空間の良さを知っているので、以前からこれを見せたいなあ、とは思っていた。こんな催しができるのも、恵まれた環境とこの建物があるから。展覧会を開いている美術館はいわば化粧をした状態。こんな機会だからこそ、素顔の美術館を感じてほしい」と橋本副館長は話す。同館では過去にも、何も置かない展示室を公開したことはあるが、これほど長期にわたり、空の展示室を独自の展覧会場とする試みは、他館を含めて聞いたことがない、という。

「一日、のんびり過ごしてもらいたいです。交通の便もそれほどよくないですし」と笑う橋本副館長

期間中、2階展示室ではコレクション展を開催しており、レストランやカフェ、ショップなどは通常通り営業している。また、ギャラリーには「特集 建築と自然とパフォーマンス」と題したコーナーを設置。同館でこれまで行われた音楽やダンスなど400本に迫るパフォーマンスの中から、約40本を選び、スライドショーや記録映像を紹介する。さらに過去に開催された195の企画展(今回の新型コロナで中止になったものも含む)のポスターもまとめて展示する。

橋本副館長は「コロナでくたびれた方に、冷房の効いた涼しい部屋で、公園の自然を見ながらのんびり過ごしてもらいたい。これまでの催しも紹介するので、昔を思い出すのも楽しそう。さらに、この建物が持っている効用についても考えてもらえたらうれしい」と話していた。

会場:世田谷美術館(東京都世田谷区砧公園1-2)

会期:7月4日(土)~8月27日(木)(10時~18時、月曜休館)

問い合わせ:03-3415-6011 同館公式サイト

直前の記事

リポート 「新収蔵作品特別展示:パウル・クレー」 東京・アーティゾン美術館

「新収蔵作品特別展示:パウル・クレー」   2020年6月23日(火)~10月25日(日) 東京・京橋 アーティゾン美術館  ◇ 今年1月に開館し、その後、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために臨時休館していた東京・京

続きを読む
新着情報一覧へ戻る