リポート 「ドローイングの可能性」展、6月21日まで 東京都現代美術館

6月2日(火)~6月21日(日) 東京都現代美術館(江東区・清澄白河)
当初は3月14日から6月14日まで開催される予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大防止のための臨時休館が続き、6月2日に開幕。閉幕は1週間延ばされ6月21日となった。
東京都現代美術館で開かれている「ドローイングの可能性」展は、素描にとどまらず、切り絵や書、さらには視線や思考が反映された線による造形にも目を向けて、線のもつ豊かな可能性をさぐる企画だ。
企画した担当キュレーターの関直子さんは「デジタルデータが瞬時に行き交う現代に、リアルな空間におけるドローイングを取り上げることで、アートの可能性を問い直したいと思った」と狙いを語る。
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同美術館3階の展示室の一画ではアンリ・マティス(1869-1954年)の切り紙絵をもとにしたステンシル「Jazz」シリーズがずらりと並び、中央部には美術雑誌「VERVE」の表紙デザインなどが展示されている。軽快な線のリズムが漂い出て、ギャラリーの大空間を満たすかのようだ。フロアに置かれたケースを覗き込むと、手紙や詩が綴られた挿絵本など。15世紀のフランス貴族オルレアン公シャルルの詩集をとりあげた作品では、マティスは詩を手書きし、オルレアン家のユリの紋章や縁飾りとともに線のハーモニーを生み出した。
書家で評論家の石川九楊(1945年生まれ)の近作も「ドローイング」として展示されている。書道史の研究でも知られる石川は2001年9月11日の同時多発テロなど社会事象についての自身の批評を、細密な線による図像で示した。マティスの優美な線に対して、石川の理詰めとも見える線は硬質な主張を孕んでいるように見える。

チェーンソーや鑿(のみ)で木材の表面に切り込みを入れた作品で知られる戸谷成雄(とや・しげお 1947年生まれ)は「露呈する《彫刻》」と題して、紙に鉛筆で描くだけでなく、平面に鉄線を差し込んだり、スチレンボードにカッターナイフで彫り込んだりした。空間へのまなざしの表れ、ということだろう。



パリを拠点に「糸によるドローイング」を制作する盛圭太(もり・けいた 1981年生まれ)は、3月初旬に来日して制作を行った。タイトルの「Bug report」はソフトウェアに不具合が発生した際の報告書を意味し、作品は「現代の都市空間の不安定さを描き出している」(関さん)。

このほか現代美術家の草間彌生(1929年生まれ)、磯辺行久(1935年生まれ)、山部泰司(1958年生まれ)らの作品を加え、「言葉とイメージ」「空間へのまなざし」「水をめぐるヴィジョン」の3章構成で約70件が紹介されている。
臨時休館のために2か月以上封印されていた会場では、開幕後、静かにたたずむ来館者が少なくないという。関さんは「日常の出来事や思考を相対化する機会として、美術館で過ごす時間は意義深いと思う」と語り、美術館の意味、重要性をあらためて問い直している。