リポート「ショパンー200年の肖像」展~練馬区立美術館

「ショパンー200年の肖像」展

東京・練馬区立美術館(2020年6月2日~28日まで)

クラシックの作曲家で一番人気があるのはベートーヴェン?モーツァルト?それともバッハ?---ポーランドが生んだ“ピアノの詩人”、フリデリク・ショパン(1810~1849)(※)も大いに票を集めるでしょう。なんといっても楽器の王様・ピアノのレパートリーは、彼の作品なしには成立しないからです。ピアノを習ったことがある方なら一度は憧れ、またあまりの難しさにレッスンを投げ出した方も多いでしょう。

(※)本展では、ポーランド語の発音に一番近い表記として「フリデリク」を使用しています。

「ショパンー200年の肖像」展は、2019年に日本とポーランドが国交樹立100周年を迎えたことを記念し、昨年から各地を巡回している展覧会です。東京展は、新型コロナウイルスの影響で開幕が遅れましたが、練馬区立美術館で6月2日にスタートしました。

アリ・シェフェール《フリデリク・ショパンの肖像》 1847年 油彩・カンヴァス ドルトレヒト美術館蔵 Dordrechts Museum

ショパンに関する資料を収集しているポーランドの「国立フリデリク・ショパン研究所付属フリデリク・ショパン博物館」を中心に、ワルシャワ国立博物館や、オランダのドルトレヒト美術館などから寄せられた自筆の楽譜や手紙、油彩画、版画、ポスター、彫刻などを「5楽章」に分けて紹介しています。一面的に捉えられがちな従来のショパン像に、新しい光を当てる内容です。

♪♪♪第1楽章「わたしたちのショパン」♪♪♪

彼の楽曲からインスピレーションを受けたアーティストの様々な美術作品が展示され、ショパンの受容の歴史を知ることができます。最近でも、ポーランドでは彼をテーマにした肖像画のコンクールが行われ、多くの力作が出展されているのには驚きます。力強さやヒロイックなイメージを打ち出したものも目立ちます。同美術館の小野寛子学芸員は「ショパンというと、その悲恋や、病弱で夭折したこと、さらに作風もあって、『繊細で悲哀に満ちた』というステレオタイプにとらえられがちです。しかし、ポーランドではまったく違います。祖国が困難な立場に置かれていたときに、ポーランドの魂を代表した英雄的ピアニストであり、作曲家なのです。それは今も変わっていません」といいます。

ポーランド人にとっては他に比べようもない偉人であり、「英雄ポロネーズ」のような情熱や力強さにあふれたイメージこそ、かれらにとってのショパン像のようです。また、明治期以降の、日本におけるショパンの受容過程を示す資料や楽譜、書籍も展示されています。明治期の終盤には、「ショパン弾き」として認知されたピアノ奏者が生まれていて、日本でも早い時期からショパンが愛好されていたことが伺えます。

2015年にポーランドで開催された「若手作家のためのショパン像コンクール」で2等賞に選ばれた「若き日のショパン」(部分)。今風のイケメン(?)ですね。

♪♪♪第2楽章「ショパンを育んだ都市ワルシャワ」♪♪♪

1810年に誕生したショパンは、1830年にワルシャワ音楽院を首席で卒業します。ショパンが育ったポーランドの風景や、ワルシャワでの音楽活動や生活を紹介します。

マルチン・ザレスキ「ワルシャワ、聖十字教会の祭壇ー主身廊からの眺め」(19世紀中ごろ)ワルシャワを代表する教会。1882年、ショパンの心臓が主身廊の中に埋められた

♪♪♪第3楽章「華開くパリのショパン」♪♪♪

ワルシャワを旅立った青年ショパンはウィーンを経て、1831年、パリに到着します。演奏は称賛され、病弱ながらも華やかな生活を過ごします。そこでは作家ジョルジュ・サンドとの悲恋も待っていました。当時のショパンの音楽活動や交遊関係、パリの様子などを紹介します。

ルドヴィック・ヴァヴリンキェーヴィチ「ショパンとジョルジュ・サンドの肖像」(1985-1989年)(1838年のドラクロワの作品の復元画)交友のあったドラクロワが二人を並べて描いた未完の油彩画があり、19世紀後半に何者かによって切断されてしまった。切断された理由もわかっていない。ショパンの頭部を描いた部分はルーヴル美術館に収蔵され、ジョルジュの方はコペンハーゲンの美術館にある。本作はその復元の試み。

 

♪♪♪第4楽章「真実のショパンー楽譜、手紙ー」♪♪♪

ショパンの自筆譜はポーランドの至宝で、国外に出ることはめったにありません。自筆譜を日本で鑑賞できる貴重な機会です。あわせて自筆の手紙も展示。ショパンは手紙以外の文章をほとんど書き残していないため、人間ショパンを知る手立てとして手紙がとても重要な役割を果たしています。当時の心情をリアルに感じることができます。

《「エチュードヘ長調 作品10-8」自筆譜(製版用)》フリデリク・ショパン 1833年以前 インク・紙 国立フリデリク・ショパン研究所付属フリデリク・ショパン博物館蔵 photo:The Fryderyk Chopin Institute
《自筆の手紙ーパリのヴィオチェフ・グジマワ宛ての手紙(エディンバラ、1848年10月3日)》フリデリク・ショパン 1848年 インク・紙 国立フリデリク・ショパン研究所付属フリデリク・ショパン博物館蔵 photo:The Fryderyk Chopin Institute

♪♪♪第5楽章「ショパン国際ピアノコンクール」♪♪♪

こちらの展示に目が釘付け、になる方も多いでしょう。フィナーレにふさわしい華やかな内容です。チャイコフスキー国際コンクールと並び、世界最高峰とされる音楽コンクール。初回は1927年で、数多くの日本人ピアニストが挑戦していますが、まだ優勝はありません。コンクールのメダル、賞状、プログラムなどをみることができます。このコンクールを告知する歴代のポスターもずらり。ポスターも毎回、厳しいコンペ形式で選ばれており、いかに力の入った国家的行事であるかをうかがい知ることができます。国を代表するグラフィックデザイナーが手がけ、ポーランドのデザイン力を世界に知らしめています。

第7回(1965年)のプログラムで中村紘子さん(1944ー2016)を紹介したページ。あのマルタ・アルゲリッチが優勝した歴史的大会で、中村さんは第4位と大健闘した

なお、会場にはショパンの「華麗なるワルツ」「別れの曲」「子守歌」などが常に流れており、耳からも楽しめます。また、「第5楽章」のあとには、人気漫画「ピアノの森」の展示も開催されています。著者の一色まこと氏のメッセージや貴重な原画、テレビアニメの壮大なオープニング映像などが紹介されており、ファンにはたまらないコーナー。アンコールも贅沢です。

ヤマハが提供した高級オーディオセットから、「華麗なるワルツ」「別れの曲」などが会場に流れる。聞き入ってスピーカーの前から動かない来館者もいるとか。

「ショパンー200年の肖像(東京展)」

■会 場:練馬区立美術館(東京都練馬区貫井1-36-16、西武池袋線中村橋駅下車3分)

■会 期:6月28日(日)まで(月曜休館、10:00~18:00、入館は17:30まで)

■観覧料:一般1000円、高校・大学生及び65~74歳800円、中学生以下および75歳以上無料

■問い合わせ:同館ホームページ

(読売新聞東京本社事業局専門委員 岡部匡志)

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