幻となった「雅楽の美」展 東京藝術大学大学美術館

会場展示パネルより(舞楽「散手」部分)

御即位記念特別展 雅楽の美

202044日から531日まで東京藝術大学大学美術館で開催される予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大対策のための臨時休館により中止となった

 雅楽は、中国や朝鮮半島からもたらされた音楽や舞踊が日本在来の歌舞と融合して形づくられた舞楽、管絃などのこと。奈良時代には国の公式行事に登場し、以来、宮中や宮廷、社寺で受け継がれた。明治時代には政府が日本の伝統文化としてあらためて注目し、皇室のための音楽という性格を明らかにした。現在は宮内庁式部職楽部(しきぶしょく・がくぶ)の楽師(がくし)が宮中の儀式、宴会、園遊会などで演奏している。2009年には世界無形遺産に登録された。

「散手(さんじゅ)」の舞台 (会場展示パネルより)  舞楽「散手」は、威厳のある面をつけた演者による一人舞の武舞(ぶのまい)。鉾を大きく振り、舞台を勇壮に動き回る

 「雅楽の美」展は、天皇陛下の御即位を記念し、日本の伝統音楽・芸能である雅楽の歴史と現在を、宮内庁が所蔵する貴重な品々を中心に紹介するもの。楽器、装束、楽譜に加え、雅楽が登場する屏風絵、絵巻物、彫刻、工芸品を集め、映像、音声、さらには楽器の実演などを含めて雅楽の魅力を伝えようとした。

明治時代の雅楽振興の様子を感じさせる近代の展示物も見どころの一つ。貴重な文物、資料を数多く収蔵する宮内庁三の丸尚蔵館が改修工事に入ったことが展覧会への貸し出しの機運を生み、企画の実現を後押しした。 

 

宮内庁(式部職楽部、三の丸尚蔵館、図書寮文庫)、東京国立博物館などからの借用品と東京藝大の所蔵品を合わせ約120点がギャラリーに集められ、4月初旬に陳列は完了したが、公開の機会をえないまま、無念の中止となった。企画した同大准教授の古田亮さんは「宮内庁で大切に保管されてきた資料は驚くほど状態がよく、色も鮮やか。それを目にする千載一遇の機会だったのに」と残念がる。撤去作業が部分的に始まった会場にすべりこむように取材した。

「埴輪 演奏する人々」群馬県伊勢崎市出土 (古墳時代 6世紀 東京国立博物館蔵)  古墳時代にも日本人は音楽を楽しんでいた。会場の入り口付近に並ぶハニワはその証言者だ

   楽器、装束

中世・近世以来、長く保管されてきた楽器が、明治時代以降に制作された装束とともに、重厚かつ華やかな雰囲気を生み出していた。

楽器、装束などが並ぶギャラリー
「琵琶 大虎」(鎌倉時代 13世紀 東京国立博物館蔵:手前)、「琵琶 波龍」(桃山時代 16世紀 宮内庁三の丸尚蔵館蔵:左上)  ※休館中は作品保護のため、緩衝材を敷いていた

 

中国・南北朝時代の伝承に基づく舞楽「陵王」の装束(中央右の赤い装束、東京藝術大学蔵)と、蝶が舞う姿を題材とした「胡蝶」の装束(中央左の緑の装束、同)は、いずれも明治時代に作られた。 ギャラリーの中央にしつらえられたステージの周囲には白洲も。典雅で華やかな雰囲気を醸し出す

楽譜

「視覚的にも面白い」(古田さん)という中世、近世の楽譜も展示。雅楽の音楽は、口伝により継承され、演奏内容を記録するために音の名称を漢字などの文字で記した楽譜が用いられてきた。楽譜には撥(ばち)の持ち方などの図絵などが加わり、特徴ある記譜法が生み出されている。

「一人口決(いちにんくけつ)」(部分) 崇光天皇、栄仁(よしひと)親王 (南北朝~室町時代 14世紀 宮内庁図書寮文庫蔵)

  千と千尋?

「安摩(あま)」は、奈良時代に演じられた伎楽の面影を伝えるともいわれる舞。一つ目の面をつけて舞う姿が明治時代の画帖「雅楽図」に描かれている。「宮崎駿監督の映画に出てきそうですね」と古田さん。

「雑面」
「雅楽図」中巻の一場面 (会場展示パネルより)

  

伝統の再評価

雅楽をモチーフに明治時代に制作された彫刻や、雅楽の様子を織り込んだ屏風絵も展示された。伝統を見直し、整備しようとした明治時代の文化政策の一端を伝える。

高村光雲・山崎朝雲「萬歳楽置物(まんざいらくおきもの)」(1916年、宮内庁三の丸尚蔵館蔵) 「萬歳楽」は天皇の即位の礼などに舞われる演目。このブロンズ像は、1915年の大礼(即位式)に際して貴族院から大正天皇に献上された
竹内栖鳳「主基地方風俗歌屏風(すきちほうふぞくうたびょうぶ)」(1915年、宮内庁三の丸尚蔵館蔵)  京都画壇の重鎮で帝室技芸員の竹内栖鳳が絵を手がけた

 東京藝大ならではの企画も 

展示に合わせて東京藝大の邦楽科の学生による演奏なども予定されていた。資料越しに、画中の舞台を再現したステージで雅楽の生演奏、という趣向。美術、音楽ともに人材豊かな東京藝大ならではの企画だった。

手前は画帖「舞楽図」。奥のステージで学生たちが演奏する予定だった
上記「舞楽図」の右端部分

 

秘蔵されていた文物が見られるだけでも楽しみだが、音や映像もあり、伝承されてきた雅楽の今を見られる意味でも貴重な機会となったことだろう。古田さんは「展覧会は開幕するとひと息ついて次のことを考え始めることが多かったが、今回は中途半端な浮遊状態」と心境を語る。

展覧会のためにまとめた図録は日経アートで販売中。現場の体験は出来なくとも、エッセンスは盛り込まれている。

(読売新聞東京本社事業局 専門委員 陶山伊知郎)

会場入り口の埴輪。残念ながら観客を迎えることは出来なかった

 

 

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