リポート 「森山大道の東京 ongoing」 東京都写真美術館

「『Pretty Woman』より」(2017年)

 

森山大道の東京 ongoing 

202062日(火)〜922日(火・祝) 東京都写真美術館(恵比寿)

 スナップショットの名手として知られる写真家・森山大道さん(1938年生まれ)の近作を中心にした「森山大道の東京 ongoing」が東京都写真美術館で開催されている。森山さんはカメラを手に新宿、池袋などの路地を歩き、街や行き交う人々の姿を写しとった。モノクロ作品で知られるが、対比するように展示されたカラー作品も迫力に満ちている。「東京五輪の開催を機に、国際的に活躍する日本人写真家がとらえた東京の姿を紹介したいと企画された」(同美術館広報)展覧会だ。

「『Lips』より」(2018年 カンヴァスにシルクスクリーン:左) 壁一面の展示は今回の見どころのひとつだ

森山さんは、戦前の写真家で実験的な作品を多く残した安井仲治に傾倒する一方、戦後写真を代表する東松照明(とうまつ・しょうめい)の影響を強く受けながら、前回の東京五輪が開かれた1964年に本格的な活動を開始した。騒然とした雰囲気さえ感じさせるカメラワーク、強いコントラスト、粗粒子画面による「アレ・ブレ・ボケ」と呼ばれる作風で知られる。

「三沢の犬」1971年 ゼラチン・シルバー・プリント 東京都写真美術館蔵 初期の代表作のひとつ。重く混濁した独特の緊張感が漂う。若者世代に強烈なインパクトを与えた

 

「『にっぽん劇場写真帖』より」(2012年:左)と「『スキャンダラス』より」(2016年:中、右)  出世作となった60年代の作品をシルクスクリーンでカンヴァスに転写した近作だ

 1970年代にニューヨークで紹介されるなど、早くから国際的にも知られ、1999年にはサンフランシスコ近代美術館で回顧展が開かれた。2019年には“写真界のノーベル賞”とも呼ばれるスウェーデンのハッセルブラッド国際写真賞を受賞。「ブレ・ボケ」は次第に影を潜め、クリアなイメージやカラー作品も現れた。「赤や紫などの鮮やかな色彩感や艶(つや)めきが特徴」(東京都写真美術館学芸員の武内厚子さん)という最近のカラー作品は刺激的だ。

 

「『Pretty Woman』より」(2017年)

  

会場には、自身の個人写真誌「記録」、森山さんが「東京俗物図鑑」と呼ぶ「Pretty Woman」シリーズ、モノクロのシリーズ「K」、カラーの最新作シリーズ「東京ブギウギ」などから選んだ作品による、この展覧会のためだけの展示空間が広がる。モノクロの壁とカラーの壁の「競演」も目を引く。総点数は約170点。

 

「記録」と「Pretty Woman」の作品(インクジェットプリント)が入り交じった壁いっぱいの展示。手前のケースには「記録」最新号からのプリントが収められている。会期中に展示替えがある

 

「Pretty Woman」 (2017年)、「東京ブギウギ」(2018年)などから選ばれた作品54点のカラープリント作品(2020年)が壁面を埋める

  至近距離でとらえた被写体の独特の生々しさは、未来志向一辺倒にも見える東京のたそがれた断面を目の前につきつけるかのようでもある。

東京五輪の延期により海外からの来館者は限られそうだが、日本人自身にとって足元の東京をふり返る、いくぶん毒を含んだ自問の空間になるかもしれない。

 

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、入り口では体温検査を行っている。「37.5度以上発熱が確認された場合や、マスクを着用していない場合は入館をご遠慮いただいている」(東京都写真美術館広報)とのこと。お出かけ前にご注意を。

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