ニュース 森美術館の新館長、片岡真実さんが記者会見

「美術館としてもキュレーターとしても、アジア太平洋地域全体を視野に入れて取り組みたい」
2020年1月1日付で森美術館(東京・六本木)の館長に就任した片岡真実さんが8日、東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見し、現代美術の現状や自身の抱負について語った。

片岡さんは1965年、愛知県生まれ。民間のシンクタンクや東京オペラシティアートギャラリーのチーフキュレーターを経て、2003年に森美術館に入り、これまで小沢剛や塩田千春、アイ・ウェイウェイ(中国)ら国内外の現代作家の展覧会を手がけてきた。2012年の韓国・光州ビエンナーレで共同芸術監督を務めるなど早くから国際的に活躍。2018年にはシドニー・ビエンナーレの芸術監督として世界のアートシーンをリードした。今年から3年間の任期でCIMAM(国際美術館会議)※の会長にも就任し、世界の近現代美術館の議論のかじ取り役としても期待が集まっている。
※CIMAM International Committee for Museums and Collections of Modern Art 世界の近現代美術館の館長やキュレーターなどで構成される団体で、1962年に創設。森美術館は「CIMAM 2015年次総会東京大会」で事務局を務めた。

記者会見で片岡さんは、「現代美術は単に視覚的な『美』を問うものではなく、政治、外交、経済を含めた世界の『縮図』となっている」と述べ、例としてヨーロッパを中心に美術館が、過去に旧宗主国が植民地で収集した文化財の返還問題に直面し、さらに気候変動への取り組みも問われていることなどを挙げた。
「世界のあらゆる地域で現代美術の作品が制作され、注目を集めるようになって、日本の現代美術の存在感が相対的に希薄化しつつある」と指摘する片岡さんは 、文化庁が近年取り組んでいる現代美術の振興や海外発信をめぐる議論も主導してきた。「現在、国内外のキュレーターや研究者の人的ネットワークづくり、日本語文献の翻訳事業などの『仕込み』をしている」と現状を報告した。
また、香港、シンガポールなどで、国の支援の下に現代美術、美術館が急速に発展している事例を紹介しつつ、「海外の美術館との連携を深めたい」と意欲を見せた。「キュレーターとしては、10年後くらいにアジア太平洋地域を網羅できるようになっていたい」とも述べた。
会長を務めるCIMAMはかつてICOM(国際博物館会議)の近現代美術を扱っていた委員会が独立した機関だ。「昨秋、ICOM会長と意見交換を行い、環境やダイバーシティ(多様性)の問題など、共同して取り組むべき課題があることを確認した。今後はあらためてICOMと距離を縮めて議論したい」と展望を語り、既にさまざまな具体的ビジョンが描かれていることを感じさせた。