リポート ハプスブルク帝国の美の魅力、国立西洋美術館で来年1月26日まで

神聖ローマ帝国の皇帝を代々輩出し、ヨーロッパ随一の名門とも言われたハプスブルク家は、豪華な美術コレクションを形成したことでも知られる。ウィーン美術史美術館に伝わる作品を核に絵画、版画、甲冑、タピスリーなど100点を展示し、同家のコレクションの成り立ちなどに迫る「ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」が東京・上野の国立西洋美術館で開かれている。美術作品を楽しむだけでなく、王侯貴族の歴史や美意識にふれられるチャンスだ。来年126日まで。(作家の大岡玲さんが同展について語った「鑑賞の流儀」はこちら

 

ヴェロネーゼ 《ホロフェルネスの首を持つユディト》 1580年頃 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館 Kunsthistorisches Museum Wien

注目を集める甲冑

王族の肖像画や神話画、宗教画を目当てに訪れる人も多いが、ハプスブルク帝国の基盤を築いた神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世や稀代のコレクターとしても知られる同ルドルフ2世らにちなんだ甲冑、タピストリー、工芸品などが並ぶ地下3階のギャラリーも注目を集めている。(地下3階のギャラリーについてはこちらも)

主役は4体の甲冑。担当の国立西洋美術館主任研究員・中田明日佳さんが「360度から見られるように」とギャラリーの中央に据えた。槍試合用、徒歩槍試合用、馬上槍試合用など目的も形状もさまざまだ。

「ヴュルテンベルク公ウルリッヒの実戦および槍試合用溝付き甲冑」は実戦で使われた可能性もあるというが、目を引くのは洗練されたファッション感覚だ。襞(ひだ)まで細かく表現されている。一方で足元は、デザイン性の高さとともに扁平でユーモラスな形が関心をひく。会場では「カモノハシのくちばしのよう」という声も。

馬上槍試合用の甲冑は、甲冑の金属面が体の側面で切れており、背面は大きく開放されている。馬上での動きに配慮したものだろう。これに対して、徒歩槍試合用は上半身も大腿部も背面まで金属面が覆うように作られ、防御が重視されたことがうかがわれる。また細かな装飾は、正面からよりも背面からの方が間近にじっくり見られる。いずれも360度展示のお陰で味わえる隠し味だ。

《ヴュルテンベルク公ウルリッヒの実戦および槍試合用溝付き甲冑》(右)などに身を包んだ王侯貴族のゴーストがお出迎え?

 

工芸品、タピスリーも

壁沿いの展示ケースにはインド、セイロン島など異国から輸入されたと思われる精巧な金細工の食器などが展示されている。シャープな照明の効果もあって、中田さん自身が「工芸品がこれほど映えるとは」と驚いたほど豪華かつデリケートな魅力が浮かび上がっている。

展示室に入り甲冑群に向かって左手の高い壁には高さ約4メートルのタピスリー2枚が掛けられ、王侯貴族の生活空間が再現されるかのよう。いずれもルネサンスの巨匠ラファエロの原画を元に作られたタピスリーのコピーで、スケール感は圧巻。このような大ぶりな作品の展示を念頭において設計されたという地下三階ギャラリーがひときわ映えて見える。

《アナニアの死》(413x401cm: 左) と《アテネにおける聖パウロの説教》(414x410cm)、連作「聖ペテロと聖パウロの生涯」より  いずれもウィーン美術史美術館

 

アカデミックな隠し味

ルドルフ2世は奇想の画家アルチンボルトや天文学者ケプラーらを宮廷に招き、プラハを文芸・科学の中心地とした。絵画、工芸品、小型彫刻、版画や書籍、異国の珍品、自然標本、時計や地球儀などを集めた「クンストカマー(芸術の部屋)」は伝説的なコレクションと呼ばれる。その収集品にドイツ・ルネサンスの巨匠デューラーの版画の原版が含まれていたことはあまり知られていない。今回の展覧会は、ルドルフ2世が原版を所有したデューラーの版画作品を、国立西洋美術館のコレクションから紹介している。

 

アルブレヒト・デューラー《アダムとエヴァ》1504年 エングレーヴィング 国立西洋美術館

 

デザイナーとキュレーターのセンスを反映した壁の色

展示室の壁は、コーナーごとに白、濃紺、オレンジ系など7色が使い分けられている。

マルガリータの肖像が鎮座するスペイン・ハプスブルク家の部屋は赤。「デザイナーから提案があったときは意外でしたが、実際に作品と色合わせをしてみたら見事にあったのです」(中田さん)といい、重厚かつ豪華な雰囲気が演出されている。

ディエゴ・ベラスケス《青いドレスの王女マルガリータ・テレサ》 ウィーン美術史美術館  壁の赤と照明の演出効果もあって、王女の姿が鮮やかに浮かび上がった

「女帝」と呼ばれたマリア・テレジアや、娘でフランス王ルイ16世に嫁いだマリー・アントワネットの肖像が並ぶ部屋は、緑がかった青の壁。よく見るとマリー・アントワネットの背後のカーテンやマリア・テレジアの衣装の色に近い。「展示作品に緑系の色が散りばめられており、自然に合ったように思います」と中田さん。

 

マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブラン 《フランス王妃マリー・アントワネットの肖像》1778年 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館 Kunsthistorisches Museum Wien

 

マリー・アントワネットの肖像(左)と兄で神聖ローマ皇帝のヨーゼフ2世の肖像(右)が並ぶギャラリーには宮廷の豪華な雰囲気が漂う

 

歴代皇帝、王族のコレクションを軸に、ハプスブルク帝国の美術の魅力を一望できる展覧会だ。

 

日本・オーストリア友好150周年記念

ハプスブルク展

600年にわたる帝国コレクションの歴史

2019年1019日(土)~2020126日(日) 国立西洋美術館(東京・上野公園)

 同美術館新館2階の版画素描展示室では「内藤コレクション展 ゴシック写本の小宇宙 ー 文字に棲まう絵、言葉を超えてゆく絵」が開催されている。学者、医師として活躍する一方、数十年にわたって写本のコレクションを続けてきた内藤裕史さん(筑波大学・茨城県立医療大学名誉教授)が2016年に同美術館に寄贈した写本コレクションの初のお披露目。内藤コレクションから選ばれた52点に加え、東京藝術大学附属図書館所蔵のファクシミリ版写本も紹介されている。

日本ではなかなか目にすることができない13世紀から14世紀にかけての写本を味わえる絶好の機会だ。来年126日まで。

 

 

 

 

 

 

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