リポート ハプスブルク帝国の「宝石箱」 リヒテンシュタイン侯爵家のコレクション 東京・渋谷で12月26日まで公開中

かつてハプスブルク帝国に仕えたヨーロッパの名門リヒテンシュタイン侯爵家。12世紀にリヒテンシュタイン城に居を構え、1719年に国として認められ神聖ローマ帝国の「帝国議会」に参加するようになった。17世紀末以降、代々の当主が築いたコレクションより、ルネサンスから19世紀までの絵画、中国や日本、ヨーロッパの磁器など約130点(寄託品5点を含む)を公開する「リヒテンシュタイン 侯爵家の至宝展」が、東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開かれている。同ミュージアムの上席学芸員、宮澤政男さんによると、同家の人々が私的な空間で味わった美術工芸品を中心に構成した展覧会だ。繊細さや高度な技巧が見どころ。豪華さを誇示するというよりも、手元で慈しみたい作品が並ぶ。12月26日まで。東京展の後、宇都宮、大分、東京・八王子、仙台、広島へ巡回する。

名門侯爵家のコレクション
リヒテンシュタイン侯爵家は17世紀末以来、代々の君主が中心となってコレクションを築いてきた。同家の拠点もコレクションも長くウィーンに置かれていたが、1938年、ナチス・ドイツによるオーストリア併合に際して、スイス国境の領地にある侯国の首都ファドゥーツに「疎開」した。侯爵家の本拠地は現在もファドゥーツの城だが、美術品はウィーンに戻され、同家の宮殿で展示されている。バロック美術の巨匠ルーベンスの作品はその白眉と言われ、今回も数点が展示されている。

輝く西洋磁器
ヨーロッパの王侯貴族は、17世紀以降、中国、日本のやきものに注目。金(きん)に匹敵するともいわれた高価な景徳鎮や有田焼を競って求めた。自らの嗜好に合わせ、輸入したやきものに金属の装飾が加えられ、一層豪華に仕立てられた。

やがてヨーロッパの王侯貴族は、中国や日本の陶磁器に匹敵するような硬質磁器の製造を目論む。まず18世紀初頭に、ドイツにマイセン焼が登場。化学者と自称「錬金術師」の力で磁器の焼成に成功し、生産も軌道にのった。続いてエナメル絵具による色絵付を導入して、華やかな絵付けが行われるようになった。
このマイセン焼の「秘法」は、窯師の引き抜きによりウィーンにもたらされる。上質な磁器に芸術性豊かな装飾を施した磁器がウィーンでも自力で生産されるようになった。リヒテンシュタイン侯爵家も収集するようになる。花や風景の絵付けによる華やかな工芸品が目を引く。油絵と見まがうような絵付けをされた磁器も現れた。



肖像画
一族の肖像画もヨーロッパの貴族社会の雰囲気を伝える。歴代のリヒテンシュタイン侯や侯女、侯妃の肖像の中には子供時代の姿を描いた作品も。少女のような面立ちの「フランツ1世、8歳の肖像」は女性の人気を集めているという。

東洋と西洋
宮澤さんは展示作業を監督しながら、東洋と西洋の美意識の違いを強く感じたという。輸入した有田焼や中国・景徳鎮のやきものに金属装飾を加えたり、後に自ら磁器製作ができるようになると華麗な油絵を絵付したりと、展示作品は派手さが目立つ。「石造り、華麗なシャンデリアという西欧の空間と、木と紙で構成される和の空間では、やはり求められる美意識が違いますね」という。
西欧の王侯貴族の贅沢な生活空間を満喫する一方、日本の美意識と比較してみるのもこの展覧会の味わい方のひとつのようだ。
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建国300年 ヨーロッパの宝石箱 リヒテンシュタイン 侯爵家の至宝展
2019年10月12日(土)〜12月26日(木) Bunkamura ザ・ミュージアム(東京・渋谷)
2020年1月12日(日)〜2月24日(月・振休) 宇都宮美術館
2020年3月6日(金)〜4月19日(日) 大分県立美術館
2020年 5月2日(土)〜7月5日(日)東京富士美術館(八王子市)
2020年7月14日(火)〜9月6日(日) 宮城県美術館
2020年9月18日(火)〜11月29日(日) 広島県立美術館